2019年8月に突然辞任した米ネット小売大手オーバーストックの前CEO、パトリック・バーン(Patrick Byrne)氏は、自身が20年前に創業した同社の株式13%を手放し、仮想通貨と貴金属の購入に充てると発表した。
自身の調査報道プロジェクト、ディープキャプチャードットコム(DeepCapture.com)のブログにおいて同氏は、株式売却益のすべてを「金、銀、そして2種類の仮想通貨」に再投資すると述べた。
オーバーストックは、仮想通貨による支払いを初めて受け入れた企業の1つであり、セキュリティトークン取引プラットフォームのtゼロ(tZERO)を立ち上げ、仮想通貨レイヴンコイン(Ravencoin)を運営する企業を買収した。長年にわたり仮想通貨を推進してきたバーン氏は時代を先取りしてきたが、もしかすると、先取りし過ぎていたのかもしれない。なぜならば、そのような同氏に対する外部からの圧力によって、2019年8月、辞任を余儀なくされたからだ。
バーン氏による最後の一手であった仮想通貨での配当は7月に承認され、オーバーストックの株価を過去52週間の最高値まで引き上げたが、この計画が潰れるとともに、株価は半減した。
同氏は9月19日(現地時間)、9,000万ドル(約97億1200万円)に当たる470万のオーバーストック株を売却したとする申告書を米証券取引委員会(SEC)に提出した。取引は過去3回、立会時間中に行われ、株価は9月13日(現地時間)の29.38ドル(約3,170円)から9月20日(現地時間)の15.65ドル(約1,688円)まで下落した。
情報漏洩は「影の政府」によるもの?
仮想通貨の配当に関する舞台裏の詳細がニューヨーク・ポスト(New York Post)より報じられた後、同社の声明に続いてバーン氏のブログ記事も、その中止を発表した。バーン氏はブログ中で、報道は「SEC内部に潜む、影の政府の人間」による情報漏洩が原因だと述べた。
11月の配当は、tゼロに上場されたデジタル証券として支払われる予定であった。配当は実際には、普通株式10株に当たる議決権付きシリーズA-1優先株式1株、または議決権付きシリーズB優先株式10株を付与するデジタルな株主割当増資で、ダイナソー・フィナンシャル・グループ(Dinosaur Financial Group)の証券口座のみを通じて、6カ月の待機期間を経てはじめて取引できるものとなるはずであった。
オーバーストックはSECに対する申告の中で、長期の保有期間やその他の制約を撤廃し、デジタル株主割当について即座に自由に取引できるようにする、新しい仮想通貨での配当が間もなく発表されると伝えていた。
仮想通貨での配当はオーバーストック株の空売り筋を締め出すためにバーン氏が考案したことが、ニューヨーク・ポストへの「情報漏洩」によって明らかになった。バーン氏は、空売り筋が仮想通貨による配当の複雑さを嫌い、ポジションを整理すると考えていた。
オーバーストックの株価は急騰し、計画は実際にうまくいったが、それはバーン氏自身が売却を始めるまでの話だ。ニューヨーク・ポストは、JPモルガン(JPMorgan)やモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)のブローカーが、ブロックチェーン・ベースの株式と同価の現金を提供することで、オーバーストック株の空売り筋を救済していたと報じた。
ブログの中でバーン氏は、空売り筋の排除をウォール・ストリートの銀行が妨害しにかかってきたという情報を耳にして、自ら行動を起こした、と記している。
「その情報が入ってきた時、次のことに気付きました。これまで、SECがウォールストリートのクライアントに利するためオーバーストックに害となる極めて理不尽な仕打ちをするのではないかと私が予感した時、それが外れたことはありませんでした。SECは常に邪悪なことをしてきたのです。だから、取締役のペットウェイ(Pettway)氏は、退く時だと決断したのです。特に彼は、私が影の政府との戦いに備えて武器が必要になると知っていたからです」
バフェットの助言通りCEOを辞任後、資産を仮想通貨に乗り換える
バーン氏は、経済危機が起きてオーバーストック株がどん底まで落ちることがあれば、買い戻すこともあろうと述べたが、そういった状況になれば、同氏の仮想通貨への乗り換えは、同氏の資産を増すことになるだろう。
「仮に危機が発生すれば急騰するような投資に、私は全財産のほとんどを注ぎ込んだことになります」
一方で、自身の資産と「武器」はブロックチェーン上にあれば敵の手の届かないはるか遠くにあり、より安全だとも同氏は述べた。
「私の仮想通貨は、他のすべての仮想通貨と同様、長たらしいキーが極めて記憶力の良い人間の頭の中にあること以外は、数学的な霧の中に保管されているのです。(紙のバックアップは、私が35年前に出会った、とある聖職者の手元にあります。そして、その方が西洋に足を踏み入れることはまずありません)」
「他に上述の投資によって可能となることは、影の政府による報復の手の届かぬ場所まで私の武器が移動されることです。この点は重要ですよ。だって、これから私は影の政府を打ちのめしにいきますからね。『打ちのめす』という言葉は、私がしようとしていることの表現として弱すぎますが。まあ見ていてくださいよ」
2mを超す長身のバーン氏はやんちゃな放蕩者でもあり、先月ロシアスパイのマリア・ブティナ(Maria Butina)との不倫関係を認め、会社を個人的なスキャンダルにこれ以上巻き込むことを避けるため、オーバーストックの役職を辞任している。
このスパイは現在「外国政府による諜報活動を行う謀議」の罪で服役中だが、ロックフェラー(Rockefeller)一族のジョージ・オニール(George O’Neill)氏が自身のシンクタンクであるセンター・オブ・ナショナル・インタレスト(Center of National Interest)のため主催したニューヨーク市でのディナーパーティーに参加する目的で、学生ビザでアメリカに入国した。尚、このシンクタンクは、アメリカとロシアの団結を目指す活動を行っている。本件には、ロックフェラー家の御曹司のみならず、全米ライフル協会(NRA)の元会長と1980年代のイラン・コントラ事件で暗躍した銃の密輸人も関与しており、3人ともこのスパイの米国におけるハンドラーと考えられている。
バーン氏は株主宛ての簡潔だが困惑するような手紙、そしてSECへの申告において、不倫関係を認め、法執行機関への秘密情報提供者としての役割をいくつか果たしたと主張している。
同氏は、オーバーストックがオンラインの家具ビジネスとは何の関係もないスパイ対スパイの戦いにさらに巻き込まれてしまうことを防ぐために真実を話し、辞職するよう、大物投資家のウォーレン・バフェット(Warren Buffet)氏から助言を受けた、と述べた。それを言うなら、仮想通貨にも無関係だが、バーン氏は、自身が仮想通貨を広める役を果たしていたために、敵対する勢力の標的となったと考えている。
翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Patrick Byrne image via CoinDesk archives
原文:Byrne Sells Overstock Stake to Buy Crypto and Battle ‘Deep State’