ビットコイン(BTC)の史上最高値6万9325ドル(約1032万円、1ドル149円換算)は、インフレを考慮していない。つまり、この「デジタルゴールド」が価値の保存に成功しているという考え方には疑問が残る。
インフレを考慮すると
インフレ率を加味した場合、ビットコインはここ数カ月の顕著な上昇にもかかわらず、厳密にはまだ2021年11月の前回の最高値よりも価値が低いことになる。
アメリカのインフレ率を考慮すると、1BTCの価格は当記事執筆時点では約6万7000ドルだが、前回の史上最高値を記録した2021年11月のビットコインと同じ価値を主張するには7万8905.45ドルに達する必要がある。もちろんこれは、前年比で230%以上上昇したビットコインではなく、米ドルに対する批判と言えるかもしれない。
別の言い方をすれば、今週記録されたビットコインの最高値は、それぞれビットコイン価格が大幅に上昇した2021年の6万0907ドル、2017年の5万5097.30ドル、2013年の5万2363.34ドルと同じ購買力を持つ。
ビットコインのようなボラティリティの高い資産が(少なくとも前回の史上最高値以降)インフレに追いついていないことは、ビットコインがどれほど進歩したかを考えれば、ちょっと混乱するような話だ。
例えば、今日誰かのウォレットに入っている1BTCは、ビットコインが登場し、市場価値がまったくなかった2008年には4万8395.13ドルの価値があったことになる。ビットコイン価格は2011年2月に初めて1ドルをつけ、以来上昇を続けている。
ビットコインETFの成功などによって拍車がかかった現在の上昇は、たとえ上昇が続かなくても、暗号資産はなくならないという考え方を定着させた。ビットコインは終わりだと断言する人々は減り、支持者は増える一方だ。
さらにビットコインは、アメリカ以外の国(EU、日本、トルコなど)では現地通貨建てで、アメリカよりも早く史上最高値を更新している。米ドル指数(DXY)は2021年11月以来10.7%上昇しており、世界中の多くの通貨がドルに対して価値を失っている。
ビットコインの最大の価値提案の1つは、法定通貨よりも価値を維持するという考え方だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は、パンデミックによる世界的ロックダウンで低迷した経済をソフトランディング(軟着陸)に向けて先導したように見えるが、多くの人々は、財政を管理するアメリカの官僚の能力に対する信頼を失ったままだ。パンデミック期間中だけでも、アメリカ政府は13兆ドルの紙幣を新規発行し、それが消費財の価格上昇に表れている。
金と同調
興味深いことに、ビットコインは金(ゴールド)とともに上昇しており、暗号資産(仮想通貨)研究者のノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏は金の上昇を、世界中の中央銀行からの買い圧力が強まっているためとしている。
「ワールド・ゴールド・カウンシル(World Gold Council)は、中央銀行が1月に金準備を39トン増やし、12月の純増の2倍以上になったと報告している」とアチェソン氏はニュースレター「Crypto Is Macro」で伝え、トルコ、中国、インド、カザフスタンが購入をリードしていると指摘した。
ビットコインが長期的にどのように推移するかは何とも言えないが、心理的には多くの保有者は、ネットワークが2100万ビットコインを上限に設定していることに安心感を抱いている。理論的にはこれは、より予測可能で潜在的にデフレ的な「金融政策」と言えるかもしれない。ほとんどのアナリストが暗号資産価格を下落させるだろうと考えていた金利引き上げ時期に、ビットコインがいかに好調であったかを考えるとこの点は一層重要となる。
ビットコインは年初来だけで50%以上上昇し、市場悲観論が強かった時期にビットコインETFが発売されてからわずか数週間で史上最高値を更新した。
さらに1万ドル上昇し、インフレ調整後の価格を上回る可能性もなくはない。いずれにせよ、ビットコインの本当の価値はドル建て価格ではなく、それを使って何ができるかにあるはずだ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:engin akyurt/Unsplash
|原文:Adjusted for Inflation, Bitcoin Hasn’t Topped Its All Time High