プライムブローカー、次の危機を引き起こすのか

暗号資産(仮想通貨)市場はこのところ活気に満ちており、2年近く続いた「暗号資産の冬」の後、大きな安心感に包まれている。だが今のセンチメントに冷水を浴びせたいわけではないが、次の暴落の種はしばしば好調時に蒔かれることを覚えておくと良いだろう。

リスク管理はすべてのポートフォリオマネジャーの主要な仕事だ。ここでは今回の強気相場がさらに1年半以上続いた場合の潜在的なシナリオについて意見を述べたい。

プライムブローカーがもたらすリスク

将来の危機の連鎖の中心はプライムブローカー(PB)になるかもしれないと考えている。理由は以下の3つだ。

  • PBは暗号資産市場の主要プレーヤーおよび貸し手として台頭してきている。
  • PBの現在の貸し出し基準は厳しく、主に(デルタニュートラルのような)低ドローダウン戦略への貸し出しを行っており、システミックリスクが低い。
  • しかし、デルタニュートラル戦略の期待リターンが低下した場合、PBは誰に貸し出し、どのようなサービスを提供するかという点でリスク曲線から外れる可能性があり、システミックリスクが高まる可能性がある。

前回の強気サイクルでは、レンディング企業が破綻の猛威を高めた。レバレッジは企業のネットワーク(ブロックファイ、ボイジャーなど)に隠され、特定のノード(スリー・アローズ・キャピタル、アラメダ)に集中した。その結果、以前の貸し手はほとんどいなくなったが、今はプライムブローカー(PB)という新しい流動性の供給源が登場している。

現在、プライムブローカーは、1)市場アクセスによるトレーディング収入、2)デルタニュートラル戦略向けに代表されるレンディング収入、によって収益の大半を得ている。

資金調達アービトラージ(裁定取引)は、デリバティブを通じてロングを狙う市場の需要から利益を得る戦略だ。これは、スポットのロングとパーペチュアルスワップのショート(またはその逆)によって、パーペチュアルスワップ(暗号資産デリバティブ商品)から支払われる資金調達金利を利用する。

これによって魅力的な利回りを生み出し、レバレッジロングを狙う市場の需要を利用する一方で、戦略の方向性を市場の動きにさらすことはない。この戦略がうまく実行されれば、リスクは非常に低く、PBの戦略として人気がある。

現在、資金調達金利は最近の上昇相場を受けて上昇しているが、こうした低リスク戦略に資金が流入するにつれ、リターンは低下すると予想するのが妥当だろう。

資金調達アービトラージのリターンが低下しているため、他の低リスク戦略のリターンも低下する可能性が高い。期待リターンがPBローンからの借り入れコストを下回るようであれば、PBはリスクスペクトラムから外れるか、商品内容を再考する決断を迫られるだろう。

破局のシナリオ

暗号資産PBの崩壊がもたらす終末的な未来はどのようなものだろうか? それは何によって引き起こされるのだろうか? いくつかの可能性を考えてみよう。

PBを通じた流動性のさらなる集約

バイナンス(Binance)やオーケーエックス(OKX)のような中央集権型取引所において、より良い手数料を得るために必要な取引高が増加すれば、ほとんどのトレーダーは自分のマスターアカウントではなくPBを通じて市場にアクセスするようになるだろう。

シンセティック、スワップ、その他のデリバティブ

取引所での直接取引が制限されるようになると(取引所自体が直接アクセスを制限するか、PBがアクセスを制限するため)、PBが相手側を清算するトレーダーのためのデリバティブ市場が形成される可能性がある(通常、これはスワップメカニズムである)。これは、会計上の問題やレバレッジの不正行為への扉を開くことになる。

今のうちに楽しい時を楽しみつつ、将来の災難のシナリオも考えておく必要がある。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Why Prime Brokers Could Be a Source of Crypto Contagion