ライトニング・ネットワークは、長年にわたってビットコインの救世主として称賛されてきた。サトシ・ナカモトの「ピアツーピア・デジタルキャッシュ」を実際に機能する決済ネットワークにするために必要なオフチェーンソリューションは今、信頼を失いつつあるようだ。
山積する問題
業界メディアProtosは先日、多数の開発者がライトニングから離脱していること、対応すべき苦情やバグが増え続けていること、ネットワーク上の流動性が徐々に枯渇していることを指摘する記事を掲載した。
これらを総合すると、少なくとも、ビットコインを代表するスケーリングソリューションであるライトニングの欠陥を指摘することが、当たり前のことになりつつあるようだ。
指摘はすべて、真実と言っていいだろう。2019年時点でも、ネットワークの共同開発者タッジ・ドライジャ(Tadge Dryja)氏は、ライトニングの「限界」について進んで議論しており、その年(ライトニングがローンチされてからわずか数カ月後、最初に提案されてから約4年後)、ビットコインをどのようにスケーリングさせるかについて、開発を主導するライトニング・ラボ(Lightning Labs)と数回の意見の相違があった後、プロジェクトへの直接の貢献をやめた。
同様に、ライトニングホワイトペーパーのもう1人の共著者ジョセフ・プーン(Joseph Poon)氏は、イーサリアムのPlasmaのような、他のチェーンのスケーリングソリューションにより興味を持つようになっているようだ。同氏は現在、新しいタイプの分散型取引所(DEX)に取り組んでいる。
長年、ライトニングとその実装の一部に影響を与える数多くのバグが見つかってきた。例えば2022年には、ライトニング・ラボが好んで実装しているLNDの不良コードによって、ユーザーがメインネットに資金を移動することが数時間できなくなった(ただし公平を期すために言っておくと、脆弱性が悪用される前にパッチが適用されることも多い)。
他にもビットコイナーたちは、ライトニングが抱える多くのプライバシー関連の問題や、スケーリングソリューションがしばしば驚くほど高コストになることに懸念を表明している。
特に、ライトニングの「インバウンド容量」の設計に不満が出ている。これは受け取ることができるビットコイン(BTC)の量に制限があるため、ユーザーは資金を受け取るために追加コストを支払う必要がある(または、その支払いはスタートアップによって補助される)という問題だ。
I may be operationally blind here but the #lightningnetwork is – as of now – UNRELIABLE by design.
— Rene Pickhardt (@renepickhardt) 2022年4月8日
I fear when it comes to reliability that even with optimally reliable payment flows we still may not be able to compete with what @jackmallers calls the “boomer wazzzzup networks” pic.twitter.com/qQ4avi2NjF
私は運用のことは分かっていないかもしれないが、ライトニングネットワークは今のところ、設計上信頼できない。
信頼性に関して、最適に信頼できる決済フローだとしても、@ジャック・マラーズが「ブーマー世代のネットワーク」と呼んでいるもの(Visaなどの伝統的決済ネットワーク)には太刀打ちできないのではないかと危惧している。
⚡️Lightning Network⚡️Dev Confessions
— 🌸Crypto Eri 🪝Carpe Diem (@sentosumosaba) 2022年8月10日
-Does not scale
-Privacy is “very very very very bad”
-Large payments simply don’t work
-Too complicated
-Liquidity in one direction
-Too hard to run a node
-So much work to do
-1:40~😱
👉Share with a Maxi, tell them about @Spend_The_Bits pic.twitter.com/hMOVt9Ajh8
ライトニングネットワーク開発者の告白
-スケールしない
-プライバシーは「非常に非常に非常にお粗末」
-大口決済はシンプルに機能しない
-複雑過ぎる
-一方向の流動性
-ノードを運営することが難しすぎる
-やることが多すぎる
公にされる不満
ビットコインライトニングをめぐる最新の議論は、長年のビットコイナーであるジョン・カルバーリョ(John Carvalho)氏によって口火が切られたようだ。カルバーリョ氏はかつて、ライトニング上でソフトウェアソリューションを開発しようとするまでは、ライトニングの最大の支持者の1人だった。
カルバーリョ氏の最近のインタビューは、ライトニングプロトコルの「複雑さと脆弱性」を揶揄したことで注目を集めた。
「あの経験をしたことで、設計は一種のジョークだと気づかされた。我々はそれを成功させることができる。ベストを尽くすことはできるが、最初の2、3年の(ライトニングに伴っていた)ストーリーはすべて、本当に誇張されたものだった」と、カルバーリョ氏は振り返った。
実際、ビザ(Visa)に取って代わる可能性があり、「ハイパービットコイナイゼーション」をもたらす原動力となると喧伝されてきたライトニング・ネットワークをめぐるセンチメントに転換期が訪れているようだ。
カルバーリョ氏のインタビューに触発されたビットコイン開発者のポール・シュトルク(Paul Sztorc)氏は、ライトニングネットワークは80億人以上の世界人口をオンボーディングできるとされることへの疑念、誰とやり取りするかという「チャネル・リスク」、決済の失敗率、ライトニングネットワークにポストされるビットコインの量は流通しているビットコインのうち「ごくわずかな0.025%」であることなど、ライトニングネットワークに関する悲観的見方の長いリストを発表した。
Of my node’s last 100000 forwarded payments, 932 succeeded.
— fiatjaf (@fiatjaf) 2022年2月19日
私のノードの直近の10万件の転送支払いのうち、932件が成功した。
Not sure this is a good thing, TBH — over half of all #LightningNetwork capacity is now controlled by a total of 5 entities (~2,260 $BTC).
— Seth For Privacy | Activate LNHANCE (@sethforprivacy) 2022年6月30日
One of the key concerns with a network like Lightning is that it becomes more and more centralized over time, not less (unlike L1). https://t.co/ciQbCZaLmg
正直に言って、良いことなのかわからない。現在、ライトニングネットワークの全容量の半分以上が、5つのエンティティによってコントロールされている。
ライトニングのようなネットワークに関する重要な懸念のひとつは、時間の経過とともに中央集権化の度合いが低下することではなく、(L1とは異なり)中央集権化が進むことだ。
複雑な状況
Protosはさらに、ライトニング上のビットコインは徐々に減少しており、2023年12月には5500BTCのレベルを下回り、現在は約4750BTCまで落ち込んでいると指摘した。
これは、人々がライトニングを見捨てていることを示唆しているかもしれないが、ドル建ての価値は、約1年前の1億5800万ドル(約239億円、1ドル151円換算)に対して、現在は約2倍の約3億2000万ドルに増加していることは注目に値する。
データを見ると、混乱してしまう状況が見えてくる。ライトニングのノード数もノード間のコネクション数も2022年がピークだったが、総トランザクション数は増加していると報告されている。
「ドライブチェーン」によるビットコインの代替的スケーリング方法を提唱してきたシュトルク氏が収集した主観的な証言を読むと、より不利な状況が浮かび上がってくる。
過去1年以内に、高名なビットコイン・コア(Bitcoin Core)開発者のBlueMatt氏はライトニングを「ジョーク」と呼び、ライトンイングのセキュリティ研究者であるアントニー・リアード(Antonie Riard)氏は、(非常に批判的なブログを発表して)プロジェクトを去った。そして、人気のソーシャルネットワークNostrの開発者であるFiatJaf氏は、ライトニングに対する自らの信頼が低下していると語った。
CoinDeskはここで答えを持っているふりはしないが、少なくとも、ライトニングの成長は少し停滞しているように思える。しかし、ライトニングに対する世間の認識が変わったとするのは言い過ぎだろう。ライトニングは過大評価されており、その熱狂的なファンは非現実的な期待を抱いていると長年指摘されてきていた。
批判を糧に
実際、ライトニングの共同開発者であるジョセフ・プーン氏とタッジ・ドライジャ氏は当初から、ライトニングはビットコインのスケーラビリティニーズをすべて解決するものではないと述べていた。ライトニングにまつわるミームが常に「18カ月先」であることには理由がある。
ライトニングではあまりにも早く、あまりに多くが約束され過ぎた(特に前回の強気市場の間)という批判に反論することは難しいが、議論の文脈を整理することは重要だ。
数年にわたるテストの後、2019年にネットワークが正式にローンチされたとき、ビットコイナーたちはしばしば、これは「実験的な」ソリューションだと警告した。
ライトニングネットワークの最初の大規模なテスト(クレイグ・ライト氏がビットコイン支援者Hodlonautを訴えた後、資金調達のために世界中を回った「ライトニングトーチ」)が行われた頃、ライトニングを使うことは「#reckless(無謀)」であり、失ってもいい金額しか送らないようにと警告するハッシュタグがトレンドになった。
ライトニングネットワークに対するもっともな不満は昔も今も存在し、改善のためには不満を口にすることは大切だろう。チャネルの開設や閉鎖が難しく、コストがかかる。セキュリティとスケーラビリティに多くの問題がある。ライトニングを日常的に使えるようにするためのカストディソリューションが、ビットコインが解決しようとしているサードパーティ問題を再び引き起こしている。
救いがあるとすれば、これだ──ビットコインに関しては、しばしば最大の支持者は最高の批判者だ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Rizka/Wikimedia Commons
|原文:Are Bitcoin Developers Losing Faith in Lightning?