まもなく訪れるビットコイン半減期。ビットコインにとって4年に一度の大イベントは、価格に大きな影響を与えると考えられている。ただ今回は、1月にアメリカで承認されたビットコインETFの影響でビットコインはすでに前サイクルの史上最高値を更新している。半減期の前に史上最高値を更新したのは、ビットコインの歴史上、始めてのこと。「もはや上昇余地は残っていないのでは?」と危惧する声も出てきている。
半減期を専門家はどう捉えているのか。ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリストの長谷川友哉氏に聞いた。
長谷川友哉/bitbankマーケット・アナリスト
ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。
ビットコインETFの想定外の強さ
──今回の半減期は今までと違うと言われています。具体的にはどこが違うのでしょうか。
まずは、1月にアメリカで承認されたビットコインETFです。これまでビットコインに触れてこなかった投資家層からの資金流入が見られます。さらに今年はアメリカの金融政策が、2022年からの引き締めサイクルから、ほぼ緩和に転換することが後半に見込まれています。ETF、半減期、金融政策の転換という3つの好材料があることで、これまでどおり、半減期後の相場上昇を予測しています。
すでに1月〜3月にかけて相場はかなり上昇していますが、これは想定外でした。ETF承認は好材料だと思っていましたが、ETFに対する投資需要は半減期を終え、金融政策が緩和に傾いた後だろうと考えていました。しかし、ETFに1日で数億ドルが流入して、ビットコインは半減期前に史上最高値を更新、思ったよりも強い動きを見せました。
ブルームバーグのETFアナリストも語っているように、ビットコインETFには、かつてないペースでお金が集まり、運用資産残高は600億ドル弱にのぼっています。ですが、アメリカでは全ETFの運用資産残高は7兆ドルと言われています。ビットコインETFの占める割合はまだ数%にも満たないものです。
まだまだ資金が入ってくる余地はあると思います。また少し前にビットワイズ(Bitwise)の最高投資責任者は、現状、ETFを購入しているのは個人投資家やIFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)、そして一部のヘッジファンドで、大手証券会社などはまだ入ってきていないと述べています。現状の金融環境ですでにこれだけのお金が入ってきていることは、実際に金融政策が緩和に転換した後はもっと早いペースでお金が入ってくることを意味しています。
加えて、今年11月にはアメリカ大統領選挙があります。バイデン大統領が続投するのか、トランプ氏が返り咲くのかわかりませんが、始まりつつあるトランプ氏の選挙キャンペーンを見ると、暗号資産に対するスタンスは大統領だった頃と大きく変わっています。つまり、アメリカでは暗号資産を支持することが票につながることが見えてきていて、おそらくバイデン大統領も暗号資産に対して寛容になってくるのではないかと予想しています。それも相場にとってはポジティブに働くので、年末に向けた好材料のひとつとして期待しています。
──今はかなり反落していますが、どこでタイミングで上昇に転じると見ていますか。
第2四半期(4-6月期)は上昇に向けた休憩期間になるでしょう。ですが、基本的にはその方が良いと思っています。ビットコインETFへの資金流入は3月の相場のピークを経て、減速しています。そのタイミングで金ETFからの資金流出が底打ち、金は相場も上がっています。2月は逆で、お金がビットコインETFに入ってきて、金ETFから抜けていました。ビットコインの相場に過熱感が出始めたら、ビットコインからお金が抜けて、金に向かっている。この先、金価格が上昇して、金ETFへの資金流入が落ち着く頃には、ビットコインの過熱感も収まっているはずなので、ビットコインETFへの資金流入がまた安定してきて、相場の下値を支えるのではないかと思っています。
その一方でアメリカの金融政策に関しては今のところ、9月に利下げ開始というのが市場のコンセンサスになっています。しかし、具体的なタイミングが高い確度でつかめるようになるには、ギリギリまで時間がかかると思います。アメリカの経済指標を見ると、長期的にはインフレが鈍化傾向ではあるものの、昨年まで減速していた製造業セクターが、また強くなってきています。一方で、昨年強かったサービス業がやや弱くなっており、賃金の上昇率も落ち着いてきたりと、まちまちになっています。アメリカ経済全体で、明確に減速しているわけではなく、インフレ沈静化の確信がつかめない状況です。米国債利回りも、上がっていくイメージはありませんが、下がっていくイメージもまだつかめないので、ビットコインについても、もみ合うようなイメージで見ています。
半減期前の最高値更新は初めて
──今回、半減期前の史上最高値更新は、ビットコインの歴史上初めてのことになりました。
半減期直前に、史上最高値を更新することは今まで一度もなかったことです。その影響で「これまでのマーケットサイクルは崩れるのではないか」「価格上昇の余地は前倒しになっているのではない」と、今後の価格推移を危惧する声も散見されます。しかし、前述したように、まだまだビットコインETFへの資金流入の伸びしろはあると考えています。
実際、ビットコインブロックチェーン上のデータを見ると、半減期の上昇相場のときは長期保有されているビットコインが、短期の投資目的で入ってくる人に売却される需給構造になっています。ですが、今はまだ短期保有のビットコインは増え始めたところ。まだ新しいお金が入ってくる余地があり、上昇スパンについてはこれまでどおりか、むしろビットコインETFが存在することで、長くなる可能性もあると考えています。
金融政策が一旦、緩和に傾くとある程度の期間はそれが続くので、1年間以上、ときに小休憩を挟みながら、上昇傾向が続くことは十分、考えられます。
──第2四半期は休憩期間で、その後、アメリカで緩和が始まるとビットコインは上昇に向かうということですか。
金融政策は大きな鍵を握ります。半減期そのものは、これまでも上昇開始のタイミングにはなっていません。半減期を通過した後に、金融政策の影響がアメリカ市場に表れ、それに連れてビットコインも上昇するパターンになっています。
前回の半減期は、新型コロナウイルス感染拡大の年でした。コロナショックで価格が大幅に下落した後に、半減期への期待から反発して価格を戻していましたが、半減期を過ぎると動きがまったくなくなりました。今回の半減期もすでに織り込み済みで、ビットコインETFの承認後すぐにお金が流入してきたことも、半減期と利下げを見越した動きと見ることができます。
──ETFの思わぬ効果はあったものの、基本的にはこれまでの半減期サイクルの動きが繰り返されるということでしょうか。
先ほど述べた、短期保有/長期保有のビットコインの推移を見ても、半減期ではなく、相場が史上最高値を更新するかどうかのタイミングで、長期保有のビットコインは減り、短期保有のビットコインが増えています。この動きはこれまでどおりで、少し前倒しになっているだけです。
長期保有のビットコインは全体の供給量から見ると、まだ70%ぐらいあります。まだ売りの余地があります。最近、取引所のビットコイン残高が大幅に減っていると言われていますが、取引所に入ってくるビットコインも増えています。つまり、長期保有していた人たちが売り始めています。これは、長期的な上昇トレンドの中で、これまでも起きている現象なので、価格推移のみならず需給構造からもこれまでどおりと言えます。
この先1年のビットコイン価格
──では、この1年ぐらいの動きはどのように予測していますか。
第2(4-6月)、第3(7-9月)四半期はある程度落ち着く感じで推移し、年後半から徐々に上げていくイメージです。今年は10万ドル(1500万円、1ドル150円換算)を試しに来ると想定しています。テストケースで12万ドル(1800万円)くらいまで上昇する可能性もあります。
──年末には15万ドルとの予測もありますが、あながち大げさなものではないということですね。
15万ドルは相当な上昇ペースですが、強気観点では現実的な予想だと思います。私は15万ドルは2025年と予測しています。過去の半減期後の史上最高値までの上昇率が、最初が約90倍、次が30倍、その次が約9倍というように直前の回の3分の1の上昇率になっています。
2023年末時点で一度、長期見通しを公表しましたが、その際、半減期のときに5万ドル付近で推移していたら、2025年7月ぐらいには15万ドルが順当なターゲットになるとしました。今は6万5000ドルの水準なので、ここから3倍の19万5000ドルをターゲットにすることができます。
ただ、これは今までの半減期サイクルから考えた、ある意味、順当なターゲットですが、これまで存在していなかった「ETF」という変数を加味できていません。
そこで、昨年末時点で200週平均線から回帰モデルを作ってボラティリティ、つまり、将来的な上昇余地を推定してみたのですが、2025年7月には35万ドル(5250万円)ぐらいの上昇余地が統計的には考えられる結果になりました。ここが今回のサイクルの上限と言えるかもしれません。
ビットコインは100万円に到達して、「心理的な節目だし、もう天井だろう」と思ったら、1週間後に240万という動きがありました。「これぐらいがちょうどいい」と思ったところから、さらに上昇することもあるので、35万ドルは一見、とんでもない数字に見えますが、意外と行ってもおかしくない数字です。
下落に転じるのはいつ?
──史上最高値を更新するということは、どこかのタイミングで下落に転じることです。史上最高値後の下落はどのように考えていますか。
どのタイミングで折り返すかは、今回、ETFという要因があって予想が難しいのですが、これまでのサイクルを踏まえると、大体1年から1年半、長く見積もっても2年ぐらいと見ています。2026年は長期的な調整に入ってもおかしくないでしょう。
どんな相場でも、調整なしに上げていくことはできません。ただ今回は、サイクルが今までとは異なります。ビットコインETFに入ってきているお金は、短期を見据えているものはあまりないでしょうから、買い圧力に対する売り圧力のバランスは崩れると思います。
──つまりは手放す人が少ないので、下げ圧力は生まれない。今回はそれほど下がらないかもしれないということですか。
下げる時間が短くなるでしょう。これまで、大体1年ぐらいかけて70〜80%下げてきました。その期間も、下げ幅も縮まると思います。半減期は回を重ねるごとに「供給が絞られる量」も減ってきています。つまり、半減期のインパクトも軽減されています。
好材料のインパクトが強いですが、もちろん、リスクがないわけではありません。リスクのひとつは、ステーブルコインへの規制です。2年前のFTXショックからアメリカでは規制が強くなり、昨年はバイナンスのアメリカ法人が対象になりました。次にメスが入るとしたらおそらくUSDTの発行元のテザー(Tether)社ではないかと考えています。
最近、テザー社もリザーブ(裏付け資金)の透明性について改善してきているものの、裏側でどういう取引をしているのか、マネーロンダリング対策は十分なのかなど、深掘りされると痛いところがあるのではないかと思っています。
とはいえ、テザー社自体がすでに大きくなっているので、規制当局としては潰すようなことはしたくないと考えているでしょう。発行や流通のルールを整備してくるのではないでしょうか。テザー社が発行するUSDTによる流動性が低下すると、一番取引量の多い暗号資産ですので、ある程度のインパクトがあると思います。
もうひとつのリスクは、アメリカ経済です。1月に米地銀のニューヨーク・コミュニティ・バンコープが大幅な赤字決算を出しました。原因は商業用不動産ローンの不履行、つまり焦げ付きです。実は不履行率は今、コロナ直後のレベルを超えてきています。商業用不動産ローンは、地銀や中堅銀行のエクスポージャーが多く、そうした銀行の収益性が悪化するリスクがあります。
赤字や最悪の場合、破綻する銀行が出てくると、株式市場は弱含みになり、ビットコインにも下押し圧力がかかるでしょう。万一、昨年3月のような連鎖破綻が起きると、軽いショックになる可能性もあるので、潜在的なリスクのひとつとして認識しています。
ただ、これに関しては昨年もそうでしたが、ショックが起きればFRB(米連邦準備制度理事会)は緩和に傾いたり、流動性供給措置を行うので、影響は短いと思います。短期トレーダーは要警戒ですが、長期保有者にはさほど影響はないでしょう。
──アメリカ経済にはどの程度、リスクが潜んでいると見ていますか。
実はそこの予測が難しいのです。先ほども言ったように、経済指標がかなりまちまちで、著しく弱いのは私が見ている限りでは、不動産ローンくらい。なのでタイミングを予測することは難しく、次の銀行決算などで市場の警戒感が再燃するのではないかと見ています。
──日本経済はビットコインにはほとんど影響しないですか。
影響していません。コロナ直後は欧米でも日本の緩和マネーは注目され、ビットバンクでも日本円への入金パターンがあるのかどうか見ていました。ですが、本当に一部で、投資経験がある層から日本円への入金の増加が確認されましたが、全体としてはほぼ無風、影響はありませんでした。
最近は日経平均が上昇している局面でしたが、影響としてはビットコインETFだったり、史上最高値更新で新規参入者が増えるなど、日本経済の影響ではなく、ビットコイン独自の材料で動いたイメージです。
「ビットコイン一択」という戦略
──今後の暗号資産の投資戦略は、やはり長期保有ということになりますか。
答えとしてはつまらないものになりますが、個人的にも初心者であれば「ビットコイン一択」で良いと思います。暗号資産市場で複雑に分散させることは結構難しいことです。これから暗号資産投資に挑戦してみる方は、ビットコイン、あとは広げるとしてもイーサリアムを長期保有することから始めると良いでしょう。慣れてきたら、ある程度テーマ性で選んでみても良いと思いますが、今年は強いテーマを持ったブームみたいなものがまだ生まれていません。
過去にはイーサリアムキラーが注目されたり、NFTブームでイーサリアムやソラナ、アバランチが注目されました。ですが、今年はビットコインETFに話題を持っていかれています。強いて言えば、AI(人工知能)関連の暗号資産を少し保有するとか、テーマを絞って、投資することはありだと思います。
ただし、アルトコインは長期の展望を予測することは非常に難しいです。時価総額も人気があるときは上位に来ていても、半年したら100位以下になっていることもあります。次の上昇サイクルが来るまで、ずっと横ばいになって、まったく動かない銘柄もあります。
その点、イーサリアムは長期的な予測を行うことができ、今回もビットコインに連れて、前回サイクルの史上最高値を更新できていますし、アップグレードが年に2、3回あるなど、判断材料があります。単純な理由ですが、そうしたことから、ビットコインとイーサリアムは長期保有が可能だと考えています。
広くビットコイン投資については、ポートフォリオを分散させる意味でビットコインを少し保有しておくと良いという意見と、株価と連動しているから意味はないという意見がありますが、個人的にはどちらも正しいと思っています。確かに特定の期間で見ると、ビットコインはどんな資産とも相関関係がありません。ですが、非常に長い期間を取ると、米国株と同じ動きをしています。
──今、日本では「貯蓄から投資へ」と言われ、アメリカのETFへの投資が人気になっていますが、ビットコインを少し保有することは選択肢になり得るのでしょうか。
上昇幅でみると、米国株をアウトパフォームしています。ですので、株と同じ動きをするかもしれませんが、持っておけば良い結果になる可能性があります。株よりも高いα(市場平均を上回るリターン)を期待できるという観点から保有を考えても良いのではないでしょうか。
|インタビュー・文:増田隆幸
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