DePIN(分散型物理インフラ・ネットワーク):VCが注目する暗号資産の最新分野は人気に相応した成果を作れるのか?
  • ベンチャーキャピタル(VC)はすでに数十億ドルをDePINセクターに投入しており、DePINプロトコル専門のファンドも存在する。
  • DePINプロジェクトは現在、合計で数百億ドルの時価総額を誇っているが、暗号資産(仮想通貨)で最も古い課題に直面している。つまり、顧客がいないことだ。
  • アナリストは、本格的な可能性を秘めたDePINプロジェクトとは、需要が明確に特定できるもの、つまり顧客がすでに存在しているものと指摘した。

暗号資産業界の多くは、実体のない世界に存在する。ブロックチェーン上で動くデータ、価格グラフ上で上下する線など、ほとんど無形のものだ。

しかし、VCが期待を寄せているホットな新トレンドは、現実世界との直接的な結びつきを約束している。それがブロックチェーンでのインフラ運用だ。

具体的には、トークンを原動力とするエコシステムでワイヤレスネットワークを動かすヘリウム(Helium)や、データ・ストレージ・プラットフォームのファイルコイン(Filecoin)のようなプロジェクトのことだ。

これらすべてを表す、あまり面白くはない用語が「分散型物理インフラネットワーク」で、通常は「DePIN」と略される。すでにかなりの資金が投資され、VCが可能性を見出している。Crypto.comのレポートによると、トップのDePINプロジェクトは合計10億ドル以上を調達している。

「我々はDePINが、10億人のユーザーを持つキラーアプリをホストする可能性を持つカテゴリーと考えている。これらのユーザーは、暗号資産プロダクトとやりとりしていることを必ずしも意識することなく、パブリックブロックチェーンを利用することになるだろう」と、VanEckのデジタル資産アルファファンドのポートフォリオマネージャー、プラナヴ・カナデ(Pranav Kanade)氏は語った。

しかし、VCからの明らかな関心が寄せられているにもかかわらず、DePINは暗号資産における最も古い課題の1つに直面している。顧客がいないことだ。

DePINプロジェクトは合計で、数百億ドル相当のトークンを保有している。しかし、全体としてどれほどの収益を上げているのだろうか?

暗号資産VCファンド、ドラゴンフライ(Dragonfly)のゼネラルパートナー、ロブ・ハディック(Rob Hadick)氏は年間1500万ドル程度と述べた。

「ほとんどのプロトコルは供給不足ではなく、需要不足による制約を受けていいる」

にもかかわらず、DePINは暗号資産業界の流行語大賞リストでそのポジションを急上昇させている。

DePINとは?

DePINプロジェクトはブロックチェーンを基盤として、物理的なハードウェアインフラを分散運用する。多くの場合、トークン報酬システムを利用して、ユーザーにネットワークの構築を支援するインセンティブを与えている。

DePINは、ワイヤレス接続、データ収集、コンピューティング、データストレージといった幅広い分野をカバーしている。

従来、ワイヤレスネットワークのようなインフラは完全に中央集権化され、AT&T、ドイツテレコム、チャイナ・モバイルのような巨大企業が電話網とその通信網を完全にコントロールしている。彼らの顧客はサービスを利用するために料金を支払い、ユーザーができることは限られている。

一方、ヘリウムのDePINネットワークは分散型であり、一般市民がホットスポットを設置し、ワイヤレスネットワークの運営を支援することでHNTトークンを報酬といsて得ることができる。他のDePINプロジェクトも同様のコミュニティ主導型システムを持っている。

Crypto.comの調査によると、すべてのDePINトークンの時価総額は2月時点で250億ドルを超えている。コンピューティング、ストレージ、AI(人工知能)がその大半を占めている。

カンバーランド・ラボ(Cumberland Labs)のDeFi(分散型金融)アナリスト、クリストファー・ニューハウス(Christopher Newhouse)氏によると、これは注目すべき金額だが、個人投資家の資金が殺到して膨れ上がったものではないという。

DePINは今のところ、大規模な機関投資家やVCの遊び場になっているとニューハウス氏は述べ、「多くの人が注目する前に、DePIN関連トークンを買い集める良い機会かもしれない」と続けた。

ビットコイン(BTC)が史上最高値を更新し、ミームコインも高騰するなど、今、個人投資家の注意を集めるものは数多い。

「人気コインに対する熱狂は、まさに個人投資家が主導している」とニューハウス氏。それに比べると、DePINトークンは個人投資家向けの取引所では広く販売されていないため、購入することは難しいかもしれない。

ニューハウス氏は、Nosana(NOS)やレンダー(RNDR)など、流動性の高いDePINトークンをいくつか検討していると述べた。「しかし、io.netのような最も興味深いプロジェクトのいくつかは、まだトークンすらローンチしていない」と指摘した。

ソラナの役割

レンダー、io.net、Nosanaは分散型コンピューティングネットワーク、つまり人々がコンピューティングリソースを提供し、他の人々がそれを利用できるプラットフォームを運営しているが、これらはすべてソラナ(Solana)ブロックチェーンの上に構築されている。

ソラナ財団によれば、約20のDePINプロジェクトが存在しているという。最も有名なものの1つであるヘリウム(HNT)は昨年、独自ブロックチェーンを放棄し、ソラーナを採用した(ヘリウムのブログによれば、ソラナは過去にサービス障害に苦しんできたが、それでもヘリウム独自のブロックチェーンよりも信頼性が高く安定している)。

ファンドストラット(FundStrat)のデジタル資産戦略の責任者、ショーン・ファレル(Sean Farrell)氏は、ソラナなら開発が容易なため、多くが利用していると述べた。

「これらのDePINプロジェクトの多くは、普及していない高スループットのチェーン上で開発するか、独自チェーンを開発する必要があっただろう。ソラナが確かな開発場所として登場したことで、インフラ問題は解決された」

ソラナがイーサリアムのような他のレイヤー1ブロックチェーンと比較して持つ重要な強みの1つは、より効率的なレイヤー2ブロックチェーンにトランザクションを渡す必要がなく、比較的安価に大量のトランザクションを処理できる能力を持っていることだ。

イーサリアムでのトランザクションは高価で低速なことが知られ、そのためにイーサリアムエコシステムには多くのレイヤー2が存在する。ソラナは別の道を選んだ。

ハイブマッパー(Hivemapper)は、ネイティブトークンHONEYで貢献者に報酬を与える分散型マッピングネットワークで、ソラナ上に構築されている。共同設立者のアリエル・サイドマン(Ariel Seidman)氏によると、ハイブマッパーがソラナを選んだ理由は3つある。取引手数料の安さ、使いやすさ、エコシステムのクオリティだ。

「レイヤー2上に構築され、イーサリアムメインネットや他のレイヤー2上のアプリとやりとりするための相互運用ツールが必要になることとは対照的に、DePINトークンはソラナ上のDeFiアプリですぐに使えるようになる」とファレル氏は語り、次のように続けた。

「ヘリウム・モバイルは、ネットワークの両サイドを効果的に開発する方法を実証したと思う。需給と供給、それがヘリウムモバイルが開発した独自レイヤー1ブロックチェーンに欠けていたと考えている。これは、他のプロジェクトが参考にできる良いPoC(概念実証)だ」

ベンチャーキャピタルの関心

DePINプロジェクトは、VCファンドから大きな注目を集めている。

例えば、ボーダレス・キャピタル(Borderless Capital)は2021年からDePINプロジェクトに投資しており、ヘリウム・ネットワークの初期の支援者となった。同VCはDePIN専用のファンドを運営、30件以上の投資を行い、ジャンプ(Jump)、テレフォニカ(Telefónica)、オーケーエックス(OKX)などから資金を調達した。

ボーダーレス・キャピタルは、これらのネットワーク(ヘリウムを含む)の普及と利用はまだ非常に初期段階にあると指摘。ソラナで成長するDePINエコシステムを支援するため、1億ドル規模のファンド「DePIN Fund III」を準備していると語った。

「我々は、暗号資産と、AI、モビリティ、マッピング、ワイヤレスネットワーク、デジタルリソースの交わるところに多くの可能性を見出しており、そこではDePINは、最終消費者のために構築される、より優れた、より安価なサービスを支える効率性の面で競争優位性を持っている」とボーダーレスのマネージングパートナー、デビッド・ガルシア(David Garcia)氏は述べた。

ドラゴンフライのロブ・ハディック氏は、VCの間でのDePINへの関心は依然として高いが、DePINプロトコルのユーザー不足という取り組むべき問題があると考えている。

「投資家は、暗号資産やブロックチェーンがどのように新しい金融や社会のパラダイム変化をもたらすかを想像することに多くの時間を費やしている。今話題のDePINプロジェクトは、より具体的で、興奮を呼び起こしやすい」

とはいえ、これらのプロジェクトは現在、ほとんど収益を上げていない。「つまり、トークンの仕組みは、既得権益を持つ既存企業がひしめく非常に競争の激しい業界で、従来の市場開拓戦略を実行しなければならないという核心的な問題を解決していない」とハディック氏は述べ、DePINプロジェクトには目立った数のユーザーを蓄積しているものはないが「この勢いがどのように持続するかは、誰かがこのトレンドに逆らうまではわからない」と続けた。

アーリーステージVCのカノニカル・クリプト(Canonical Crypto)の創設者、アナンド・アイヤー(Anand Iyer)氏は、AIコンピューティングニーズが急増するにつれて、分散型ハードウェアの真の有用性が発揮されることを目の当たりにしていると述べた。

「Akash NetworkやRitualのような企業やプロトコルがこの分野をリードしており、暗号資産以外のユースケースで分散型ネットワークを活用するプレイヤーが増えることを期待している」

リスクと課題

FRNTのデータ・分析責任者ストラヒニャ・サヴィック(Strahinja Savic)氏によると、DePINプロジェクトは、取引所やマイニング、ステーキングインフラのような確立された投資と比較して、投資家にとってはリスクが高いという。「物理インフラの開発を奨励することは、プロジェクトに対する一段階上のコミットメント」とサヴィック氏は説明した。

DePINプロジェクトの大部分は、クラウドソーシングを行い、接続された現実世界の物理インフラを構築するインセンティブをユーザーに与えるための報酬の一形態として、トークンを使用している。

「長期的な価値が疑問視されるトークンを使って、コストのかかる物理インフラを構築するインセンティブを与えることは、難しいことだ」とサヴィック氏。「DePINは、リスクがあふれる暗号資産分野においても、特にリスクが高い」と続けた。

GSRのストラテジスト、ブライアン・ルーディック(Brian Rudick)氏もサヴィック氏と同じ意見だ。ルーディック氏は、躍進するDePINプロジェクトはいくつかあるだろうが、重要なことは提供される製品やサービスのクオリティと考えている。

「理論的には、DePINプロジェクトは、より低いインフラ構築コストを顧客に還元し、需要を喚起することができる。しかし実際には、提供されるDePIN製品やサービスは、何十年もかけて最適化された既存のソリューションよりもクオリティが劣る可能性があり、コスト面での優位性が打ち消される」とルーディック氏は語った。

だがルーディック氏によれば、レンダーのようなAI関連のDePINプロジェクトや、Akashのような分散型クラウドマーケットプレイスは注目すべきものだという。

Crypto.comのレポートでは、価格のボラティリティがDePINプロジェクトにとって課題となる可能性も指摘されている。DePINネットワークの報酬のほとんどは、プラットフォーム独自のトークンで支払われるため、これらのトークンの価格変動が長期的に貢献者の収益に影響を与える可能性がある。

「報酬を得ることが信頼できないと見なされれば、大きなボラティリティが継続的な参加を妨げるだろう」

ほとんどのDePINプロジェクトは、うまく運営するには需要と供給の両方を必要とする形式である、バーン(焼却)とミント(発行)の均衡モデルに従っている。

このモデルでは、貢献者はトークンを獲得し、利用者が支払いにトークンを使用する際にトークンを焼却することで経済均衡が維持される。

VanEckのプラナヴ氏は、DePINプロジェクトの成功の可能性を2つに分けて考えている。1つ目は「開発すればユーザーはやって来る」というアプローチをとるプロジェクトだ。これらのプロジェクトは、トークンのインセンティブによってネットワークの供給側をスケーリングさせる必要があり、トークン供給量は膨らむ。

「サービスの供給が臨界点に達した場合にのみ、需要側に対応することができる。こうしたプロジェクトは投機的な傾向が強く、多くの場合、需要が存在しないため、ユーザーを見つけるのが難しい」とプラナヴ氏は語った。

プラナヴ氏は、このようなDePINプロジェクトが長期的に成功するとは思えないと述べた。なぜなら、需要(トークンのバーン)が不明確であり、トークンの供給スケジュールがいつまでも膨れ上がってしまうからだ。

可能性のあるプロジェクトとは、基礎となるサービスに対する需要が明確に特定できるもの、つまり顧客がすでに存在しているものとプラナヴ氏は述べた。同氏によれば、この種のプロトコルの最終的なゴールは、ユーザーが実際に暗号資産プロダクトとやりとりしていることに気づかずにパブリックブロックチェーンを利用することだ。

「このアプローチにより、DePINプロジェクトは中央集権型のレガシーな競合に対して経済的なモート(堀)を築くことができる」とプラナヴ氏は述べた。

「このようなプロジェクトは、トークンのライフサイクルのかなり早い段階で、トークンの需要と供給のバランスを取ることができるため、成功する可能性が高くなると考えている」

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Greg Rosenke/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:‘DePIN’ Is Venture Capitalists’ Latest Crypto Obsession. Can It Match the Hype?