北シリアのスクールは、ブロックチェーン社会への小さな第一歩

「これはロジャヴァ(北シリア民主連邦)にとって初めてのことであり、中東にとっても初めてのこと」

これはプログラミングを学ぶ22歳の学生、モハメド・アブドラ(Mohamed Abdullah)が、オープン・アカデミー──事実上の自治区であり、ロジャヴァとしても知られる「北シリア民主連邦」の新しい学校──について書いた言葉。

「オープン・アカデミー」は、この地域の最大の問題の1つに取り組んでいる。シリア内戦の結果としての若者の教育不足だ。

北シリアは2012年、ダマスカスから部分的な自治権を獲得した。以来、この地は「民主的連邦制」と呼ばれる新しい政治システムを切り開き、かつてイラクとシリアの大部分を支配した過激派組織ISIS(いわゆる「イスラム国」)への攻勢を主導してきた。

「大学に行くにはISISが支配する地域を通らなければならなかった」とアブドラは私に言った。

「恐ろしいものをたくさん見た。人生最高の時間は大学と言われているが、私たちはそうではなかった」

北シリアは、ブロックチェーンのようなテクノロジーが非中央集権的精神に基づいて構築された社会モデルをいかに補完できるかを研究している。

オープン・アカデミーの学生の多くは、ビットコインとブロックチェーンに興味を持ち、何年かの混乱の後、信頼性を提供すると信じている。

「私はシリアポンドを信用していない、米ドルを信用していない、ただの紙だ。だがビットコインは信頼できる」とアブドラは述べた。

内戦前、ダマスカスはクルド人が自分たちの言語を学ぶことを禁じ、技術教育を抑圧していた。学校は極めて権威主義的なスタイルを取り、体罰は一般的だった。

現在、クルド人の学生はクルド語を学べる。だが北シリアの教育システムはテクノロジー分野ではかなり遅れている。ブロックチェーン・プロジェクトを実施する前に、学生はプログラミングの基本をマスターする必要があり、すべては限られたリソースと絶え間ない紛争の脅威に対処しながら進めなければならない。

「これは長期間にわたる開発。何年もかかるだろう」と電子工学を学ぶアフリン出身の学生、レドゥル・ダリスタン(Redur Daristan)は語った。

非中央集権的な政治

ラズベリーパイ(Raspberry Pi)とジョージ・オーウェルの『動物農場(Animal Farm)』。

過去6カ月の間に、北シリア政府は領土内(約2000万人が暮らす)の各地にラーニング・センターを設立、各センターはテクノロジーとフィロソフィーの授業を無料で提供している。

学生たちはプログラミングを学ぶだけでなく、世界史、文化理論、クルド人の精神的リーダー、アブドゥッラー・オジャラン(Abdullah Ocalan)の著作などに取り組んでいる。オジャランは北シリア革命にインスピレーションを与えた政治哲学者、現在はトルコに拘束されている。

当局関係者によると、これらのテキストは、学生が現在主流となっている政治的、経済的な理論の起源を分析し、内戦をより大きな思想の歴史の中に位置づけることに役立つ。

「(我々の取り組みの)主な目的は、社会の問題を解決すること」とオープンアカデミーの教師の1人、アザド・マクスマッド(Azad Maxmud)は語った。戦争、経済的なプレッシャー、破壊されたインフラ、高まりつつある水不足の脅威が日常的な問題となっている。

「社会学、歴史学、哲学を学ぶ理由は、問題を認識し、その根源を断つため」

過去20年間、トルコのイムラル島の刑務所に投獄されているオジャラン氏は、刑務所の独房から新しい民主的連邦制を発展させた。それは政府の監視なしに存在し得る無政府社会のモデルとなった。

この理論は、北シリアの統治構造──人々が地域レベルで決定を下すために集まるコミューンで構成されている──を形作ることをサポートした。マクスマッドは、ここならブロックチェーンがユニークな役割を果たすことができると述べた。

公共の会計に分散台帳を利用することで、コミューンは支出を透明化でき、共同のリソースをよりうまく管理できると同氏は主張した。

「連邦の経済学はコミューン間のリソースを管理することで成り立っている。ブロックチェーンはこれに大きな役割を果たす」

女性の役割

女性は重要な役割を果たすとオープンアカデミーのメディア部門を率いるフランス人女性ジェルダン・スターク(Gerdun Sterk)は私に語った。

女性にテクノロジーや哲学の教育を無料で提供することで、北シリアは中東だけでなく、世界中に手本を示すことができると彼女は述べた。彼女はその理由として、テクノロジー業界、特にブロックチェーンにおけるジェンダーの不均衡をあげた。

スタークの主張は、北シリアプロジェクトのより広範な目的に合致している。

女性の解放は、北シリア革命の決定的な特徴。女性は地域の統治に積極的に参加することが求められている。ISISとの戦いにも多くの女性が加わっている。

スタークによると、テクノロジーは女性の参加に関して、軍事と同様の困難に直面している。

「軍事と同様にテクノロジーの世界にも、女性は向いていない、理解できないだろうという同じような物語が存在する」とスタークは語った。

「当初、女性を武装闘争に参加させるには大きな努力が必要だった。文化的に困難だった」

テクノロジーは女性に政治的発言権を与えることができる。

「自分たちの視点で社会を形作るチャンス。女性は社会のニーズに合った分散型技術の開発に参加できる

新しい教育

捨てられた教科書

北シリアの多くの若者は、内戦によって教育を奪われている。もはや戻るには幻滅しすぎている者もいる。

そのため、アカデミーは圧政と戦争を経験した学生に合った教育方法を試している。特に生徒たちに自分たちで学ぶ方法を教えようとしている。教師には頼らない方法だ。

このことはまた、北シリアの若者たちに自分たちの社会を再建する希望を与えることも目的としている──社会は8年にわたる残虐な紛争の後、絶え間なく蝕まれてきた。

ダリスタンは、2018年にトルコ軍に占領されるまでは北シリアで最も活気のあった都市の1つだったアフリンの出身。アフリンへの最初の爆弾が落下し始めた時、彼女は答案用紙を受け取るために大学に向かって歩いていた。

その経験は彼女の伝統的な教育に対する感情を変えた。

「大学では、勉強や学位取得の魅力に集中できない。今の私には何の意味もない」と彼女は通訳を通して述べた。

侵攻後、ダリスタンはアフリンから追い出された。彼女は6カ月間、難民キャンプで過ごし、大学に通うためにキャンプを離れた。彼女は今、授業に出席せず、オープンアカデミーのハックラボでプログラミングして毎日を過ごしている。

彼女はCoinDeskに次のように語った。

「テクノロジーには本当のゴールがある。オープン・アカデミーにはビジョンがあり、ゴールがある。とてもやる気が出るし魅力的」

注:セキュリティ上の理由から、この記事の人名は仮名になっている。


レイチェル・ローズ・オリアリ(Rachel-Rose O’Leary)はCoinDeskの記者。経済的、社会的、政治的混乱にある地域で仮想通貨がどのように使われているかを取材している。この記事は、シリアのロジャヴァからのシリーズのうちの1本。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸
写真:Images from the author
原文:This North Syrian School Is a Baby Step Toward a Blockchain Society