暗号資産(仮想通貨)とデジタル資産は今、規制のほとんどないイノベーションの世界から、大企業と組織化されたプロダクト提供という、より規制され整えられた世界へと移行しつつある。
ブロックチェーンベースのデジタル資産をめぐるチャンスは巨大。新興のデジタル資産は一見大きく見えるかもしれないが、世界の総資産に占める割合はかなり小さいからだ。
世界中には約700兆ドル(約11京円、1ドル158円換算)の金融・事業資産があると推定されている。その内訳は、世界中の株式市場に100兆ドル、債券に100兆ドル、銀行預金に100兆ドル、不動産に350兆ドル以上だ。そのうちブロックチェーン上にあるのは約2兆ドルにすぎない。コモディティでも約20兆ドルだ。
この約700兆ドルのうち、約685兆ドルは「オンショア資産」とみなされている。つまり、それらが運営または存在する国に、正式かつ責任を持って居住する人々や団体によって保有されている。
大海の一滴
一方、経済協力開発機構(OECD)の推計によれば「オフショア資産」の総額は約12兆ドル。大きな金額だが、世界の資産から見れば大海の一滴であり、全体の2%にも満たない。現在、この2%は比較的規制が甘いか、まったく規制されておらず、そのかなりの部分が暗号資産だ。
これほど大きな金額であっても、規制された市場にオンショアで存在する膨大な資金に比べれば、大したものではない。世界中の流動資産の多くは、規制された機関投資家によって運用されている。
カリフォルニア州職員年金基金(CalPERS)の運用資産だけでも約5000億ドルにのぼる。米国の現役・退職教師約500万人を代表するTIAA-CREFは、1兆3000億ドルの資産を保有している。これは現在の暗号資産市場全体よりも多く、両基金とも規制の甘い大規模な投資はできない。
ブロックチェーンベースのデジタル資産の世界が整備され、規制されるようになれば、こうした資金が洪水のように流れ込み、業界は一変するだろう。
入手可能なデータによると、こうした変革の初期段階にあることは明らかだ。トップ10の暗号資産取引所のうち、7つはセーシェルや英領バージン諸島のようなオフショア環境に拠点を置いており、現在のスポット(現物)暗号資産取引高の80%を占めている(CoinGeckoによる2月21日現在のデータ)。
資産アロケーションに関するレポートを読んでも、暗号資産に特化したカテゴリーは見当たらない。欧州の年金基金の中には、コモディティや貴金属に明確な資産アロケーションを実施しているところが複数あるが、運用資産の圧倒的大部分は依然として株式、債券、不動産といった基本的なカテゴリーに分類されている。
言い換えれば、デジタル資産や暗号資産への将来的なアロケーションの可能性については、まだほんの表面をなぞったに過ぎない状況ということだ。
オフショアからオンショアへ
明確にしておきたいことは、規制の甘い資金やオフショア資金を犯罪行為と混同してはならないということだ。この2つを混同したがる人もいるだろうが、これらは同じではない。
しかし、規制の範囲が拡大するにつれて、取引と取引高の純増のほとんどは、年金基金、銀行、プライベートエクイティといった規制対象の同業他社と取引を行うオンショア企業からもたらされる可能性が高いと予想される。
だからといって、オフショア事業がなくなるわけでも、失敗するわけでもないが、オンショアで規制を受ける企業が、次の成長の波の大きな受益者になる可能性が高い。そして、この分野の企業にとって、現地の規制当局とともに現地の市場に関与することがかつてないほど重要になっている。
この課題は、例えばセーシェル、バハマ、バージン諸島などのオフショア市場に拠点を置いている世界最大級の暗号資産取引所のほとんどが直面している。現在、オフショア企業が大手暗号資産取引所のリストを独占している。私の推測では、こうした状況は長続きしない。
規制が成熟するにつれ、取引所の中心はオフショアからオンショアに移行していくだろう。現在、オフショアとオンショアのエコシステムはほとんど重なっていない。つまり、オフショアでサービスを提供する企業で、オンショアの規制ルールをうまく乗り切り、オンショア市場に進出している企業はほとんど存在しない。
つまり、これからの転換期は、大手取引所がどこに存在するかのみならず、業界大手がどこに重点を置くかが重要になる。現在、業界トップに君臨している企業にとって、課題は明確。オンショアの規制された市場に参入しなければ、将来、自社の存在価値が縮小する様子を見ることになる。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto’s Transition: Bringing Capital Onshore