LINEの仮想通貨取引サービスを開発したシンプレクスが考える「STOのメリットを生かすために必要なこと」【b. tokyo】

STOのメリットを生かすには、証券だけでなく通貨もブロックチェーン上に同時に乗せることが重要だ──。

金融機関の業務システム開発やコンサルティングを営み、LINEグループの仮想通貨販売所LVCの取引システムも作ったというシンプレクス。同社金融フロンティア ディビジョン エグゼクティブプリンシパルの三浦和夫氏は10月2日、都内で開かれたブロックチェーン・カンファレンス「b.tokyo」に登壇し、このように述べた。

昨今話題のSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)について、シンプレクスはどのように取り組んでいるのか。その市場規模や取り組みとは。

デジタル証券とは?そのメリットは?

デジタル証券は、ブロックチェーン上で発行される有価証券で、セキュリティ・トークン(ST)とも呼ばれる。日本では2020年春に改正金融商品取引法が施行され、「電子記録移転権利」として位置付けられ、デジタル証券の売り出しなどは証券会社などの第1種金融商品取引業者が取り扱うことになる。そこで、SBI証券や野村證券など6社が10月1日に、日本STO協会を設立するなど動きが活発化している。

STOが注目されている理由には、証券が低コストかつグローバルに発行できるようになることが挙げられる。

三浦氏は、その効果が現れるのは「通貨と証券がブロックチェーン上に同時に乗るからだ」と指摘した。デジタル証券というと、「証券のデジタル化」に目が行きがちだ。しかし、「通貨」もブロックチェーンに乗せ、スマートコントラクトを活用してプログラム可能にすることで、さまざまな契約が自動執行できるようになる。そうすることで、人の手を必要としないため低コストになり、ゆくゆくは国境を超えて証券の売買ができるようになると考えられる。

三浦氏は世界のSTOの状況についても、全体のSTOプロジェクトは83で、セールス完了は27あると紹介した(情報サイトStocheck.comの調査による)。ブロックチェーン基盤はイーサリアムが全プロジェクトの2/3を超え、代替可能なトークン規格(ERC20)が半数以上で用いられているという。

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Stocheck.comのデータをもとにシンプレクスがまとめたSTOの状況についての発表資料(Simplex)

これまでの調達金額は約300億円程度で、「まだ市場規模は小さい。STOは始まったばかり」との認識を示した。

なぜメリットの多いSTOが進まないのか

さまざまなメリットはあるものの、なぜSTOが進んでいないかというと、各国法の規制下にあるため、グローバルな資金調達は実現できないこと、またそもそもプログラム可能なグローバル通貨が生まれていないことなどを挙げた。

STOによる資金調達について、三浦氏は「トークン化」と「分散化」の軸で分類。シンプレクスは、まずは中央集権的な従来型の金融を効率化することに取り組むとした。

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三浦氏が考えるトークン化と分散化の流れ。左下の「従来の金融」(図左下)による資金調達では証券と法定通貨によるものが主だった。そこに「STOに即した証券法」「スマートコントラクトの法的解釈」「プログラマブルな通貨」が桑あることで従来の金融が効率化される(図右下)。だが三浦氏はその先に「新しい金融」(右上)の到来を予測している(simplex)

それには、「ブロックチェーンに通貨と証券を乗せ、一括で扱うことが不可欠だ」と述べた。そのほかにも必要なこととして、既存の法規制をSTOに当てはめるのではなく、STOに即した証券法を整備することや、バグがあった場合などスマートコントラクトの法的解釈が整理されることなどを挙げた。

国内FX取引システムのシェア

シンプレクスは国内一般消費者向けのFX取引システムのうち3-4割を提供しているという(三浦氏)。FX取引を行う会社は、仮想通貨取引にも取り組む例が多いため、仮想通貨の取引システムも開発してきた。

LINEグループのLVCの取引システムのほか、DMMビットコイン、ヤフー(Zホールディングス)が出資しているタオタオ(TaoTao)などの仮想通貨取引システムの構築を担ってきた。

私募のプライマリー市場は「比較的STOに置き換えやすい」

そして今、シンプレクスはデジタル証券による資金調達(STO)のシステム開発にも取り組み始めている。

三浦氏は、発行市場とも呼ばれるプライマリー市場の開発に向けてんでいると明かした。現在、海外で複数の案件で取り組みを進めており、国内展開も目指すという。来年度以降にその流通市場であるセカンダリー市場にも取り組むと話した。

シンプレクスが考える「デジタル証券プラットフォーム」(Simplex)

シンプレクスがSTOのマーケットとして見ているのは、アメリカで中心となっている私募市場だという。これは公募市場に比べて、投資家を限定するため厳しい規制を回避できるといい、三浦氏も「比較的STOに置き換えやすい」と述べた。

「自転車の証券化」も可能に

シンプレクスは、既存金融を効率化させる一方で、分散化×トークン化の重ね合わさった新たな金融にも取り組むという。例として三浦氏は、自転車を証券化する例を挙げた。

「自転車一台一台をシェアサイクルとしてIoTと組み合わせることで、実際に上がった収益を配当として分配するなどの仕組みを作れる。従来は自転車を証券化して皆で収益を分配する仕組みはなかった。シンプレクスは新たな金融の仕組みをゼロベースで研究開発する」

セキュリタイズCEOも登壇へ b. tokyo2日目

10月3日のb.tokyoは開催2日目で最終日。セキュリタイズCEOが出演するほか、シンプレクスが取引システムを提供するLINEグループの仮想通貨販売所LVC代表が登壇する。

N.Avenueが主催する「b.tokyo」は、暗号資産・ブロックチェーンをテーマにした2000人強(のべ登録者数)のカンファレンス。同領域をリードする大手企業やスタートアップ、規制当局が集まり、10月2・3日にかけて業界を網羅した議論やネットワーキングが行われる。

文・写真:小西雄志
編集:濱田 優