SEC、暗号資産企業の提訴が止まらない

投資アプリを手がけるRobinhood(ロビンフッド)が、SEC(米証券取引委員会)の怒りを買った会社のリストに新たに名を連ねた。同社は先週末、SECから提訴する意向を伝えるWells notice(ウェルズ通知)を受け取ったと報告。SECへの提出書類「8-K」の中で、証券法違反の疑いでSEC執行部門から書簡を受け取ったことを明らかにした。

今となっては、SECのアンチ暗号資産(仮想通貨)的な動きがどれほど恥知らずのものであっても、驚くことはない。

長年の協力の後、受け取った通知

どうやらSECは、RobinhoodがSECの暗号資産業務に関する調査の呼び出しに協力した後、ウェルズ通知を送ったようだ。ウェルズ通知は実質上、批判されている側がSECに対して、法に違反していないことを納得させる最後のチャンスであり、この通知の大半が訴訟に発展することを除けば、誠意の表れと言える。

Robinhoodの法務・コンプライアンス・コーポレート責任者のダン・ギャラガー(Dan Gallagher)氏が声明で指摘したように、同社は何年もの間、暗号資産サービスに関してSECと直接コミュニケーションしてきた。これはまさに、暗号資産に少し手を出しただけの会社に期待されることだ。

SECがどのトークンを有価証券と見なしているかは通知から明らかではないが、ライバル会社に対する以前のSECの訴えに対応して、同社ががソラナ(SOL)、ポリゴン(MATIC)、カルダノ(ADA)を始めとする、多くのトークンの上場を積極的に廃止したことは注目に値する。

「当社は、自社プラットフォームに上場している資産は証券ではないと固く信じており、Robinhood Crypto(ロビンフッド・クリプト)に対する裁判が事実上も法律上も根拠が薄いものであることを明確にするために、SECとやり取りすることを望んでいる」(ギャラガー氏)

ギャラガー氏は特に、同社の「規制の明確化のためにSECと協力しようとする長年の誠意ある試み」と、法的に中途半端な状態にある他の暗号資産会社と同様の「『SECを訪れて登録する』というよく知られた試み」について言及した。

さらに、Robinhoodは「SECの要請」に応じる形で、特別目的ブローカーディーラーとしてSECに登録しようとした。ライセンスを取得している暗号資産会社は数多いが、現状、「暗号資産証券」の保管と取引を許可するために2020年に導入された特別目的ブローカーディーラー(SPBD)のライセンスを取得した実質的に唯一の会社は、Prometheum Ember Capital(プロメテウム・エンバー・キャピタル)のみだ(だが同社はまだ、取引する資産を提供していない)。

憶測に過ぎないが、元SEC委員で証券法の専門家でもあるギャラガー氏が、議会で、SPBDのプロセスは取り返しのつかないほど破綻しており、リソースの無駄遣いと証言した頃から、SECは提訴に乗り出したような感触がある。

「SECのゲンスラー委員長が2021年、『SECを訪れて登録しろ』と言ったとき、我々は言われた通りにした」とギャラガー氏は2023年6月の下院農業委員会の暗号資産公聴会で述べた。

「特別目的ブローカーディーラーとして登録するために、SECのスタッフと16カ月かかるプロセスを踏んだ。3月、そのプロセスは終了し、その取り組みお成果を見ることはできないとあっけなく告げられた」

要するにSECは、ライセンス付与をいわば拒否した後に、ライセンス登録を怠ったとしてRobinhoodを訴える意向を表明した。ただし正確には、SPBDライセンスを付与するのは、自主規制機関のFINRA(金融業規制機構)だ。

「脅しの戦術」

これは長年のパターンに合致する。ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長は2021年の就任以来、暗号資産業界はSECの管轄下にあるとして、業界の取り締まりを続けてきた。

取り締まりは、FTX破綻をきっかけに劇的に強化された。FTXの破綻劇は、創業者兼元CEOのサム・バンクマン-フリード氏が米規制当局と親密な関係であったことを考えると、米規制当局にとっては特に恥ずべきことだった。

SECは現在、大小を問わず、暗号資産企業に対する法的措置に不釣り合いなほどの時間と資金を費やしている。SECは2023年11月以来、暗号資産企業に対して毎月少なくとも1件の訴訟を起こしており、その大半は気づかれることなく、通常は和解で終わっている。

「SECはRobinhoodにウェルズ通知を送ったばかり。ここ数カ月で暗号資産に関して彼らが送った通知の数は驚くべきものだ。彼らが一度にこれほど多くの執行措置を起こす(起こせる)とは想像しがたい」とVariant Fund(ヴァリアント・ファンド)の法務責任者ジェイク・チェルビンスキー(Jake Chervinsky)氏はXで語った。

「彼らは今、ウェルズ通知のプロセスを脅しの戦術として悪用しているように思える」

ある意味で、こうした訴訟、特にCoinbase(コインベース)やRobinhoodのような有名企業に対する訴訟は、暗号資産業界が本質的に無法地帯であることを示そうとする試みだ。

これはSECが全面的に悪いわけではなく、議会が10年以上も暗号資産規制を放置し、今は党派間の対立に阻まれているということでもある。

「(SECが)なぜこのようなことをしたのかはわからない。しかし、今となってはルールを後戻りさせることはできない」とイェール大学ロースクールの博士候補で、影響力のある暗号資産法論文の共著者であるボー・J・バウマン(Beau J. Baumann)氏は述べ、「その意味で、すべてが不誠実。仮に執行措置が違法なら、規制の策定はより明らかに違法だ」と続けた。

「議会は法的な落とし穴を避けるために新たな法律を制定すべきだが、実際にそうするかどうかは私にはわからない」とバウマン氏は付け加えた。

市場の受け止め

ゲンスラー氏は、ビットコインを除くすべての暗号資産は証券と見なすという自身の見解から、暗号資産に特別な法律やガイダンスが必要とは思わないと明言している。

SECは勝訴したこともあるが、敗訴も多い。Robinhoodが実際に訴えられるかどうか、そして訴えられた場合、CoinbaseやConsensys(コンセンシス)のように、独自のアグレッシブな法的キャンペーンを展開するかどうかが注目される。

もし明るい兆しがあるとすれば、暗号資産のパイをすべて独占しようと何年も取り組んできたゲンスラー委員長率いるSECが、手に余るところまで手を出してしまった可能性があることだ。

Robinhoodの株価は市場前取引で下落したが、その後は反発しており、市場が少なくとも実質的には、SECの行動を深刻に受け止めていないことを表してもいる。

結局のところ、仮にSECが勝ったとしても、ステラルーメン(XLM)やドージコイン(DOGE)の取引ができないようにする具体的なメリットがあるとは考えにくい。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長(Jesse Hamilton/CoinDesk)
|原文:The SEC Can’t Stop Suing Crypto Companies