国内暗号資産(仮想通貨)取引大手が収益を大幅に改善させている。国内金融大手で暗号資産事業を手がけるSBIホールディングスとマネックスグループは、2024年3月期の決算報告書を開示。2社とも暗号資産事業の収益は大幅な増収となった。
要因はもちろん、1月にアメリカで上場されたビットコインETF(上場投資信託)を契機としたビットコイン(BTC)価格の上昇だ。ETF取引開始直後は事実売りもあったが、ETFへの資金流入とともにビットコイン価格は上昇。日本円建てで1000万円の大台を超えると、米ドル建てでも7万ドル超えの史上最高値に達した。イーサリアム(ETH)も同様に日本円建てで史上最高値を更新、さらにミームコインが人気を集め、暗号資産市場は久々の活況を呈した。
SBIは5月10日、2024年3月期(2023年4月〜2024年3月)の決算を発表。暗号資産事業の収益(売上高)は571.4億円、前年の303.2億円から88.5%増となった。損益(税引前利益)は84.3億円、前年の184.3億円の損失から大幅に改善した。
マネックスは、4月25日に2024年3月期の決算を発表済み。コインチェックの取引所での売買代金は2兆9786億円、前年度比で12.9%増加。販売所での売買代金は2346億円、前年度比49.3%増加となった。好調な売買を受けて、営業収益は93.6億円と前年の75.8億円から23.4%増加となった。
特に四半期ごとに見ると、第4四半期の営業収益は44.2億円と、第3四半期の22.1億円から倍増している。
口座数は1000万目前
好調さは、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が毎月公表しているデータにも表れている。暗号資産の現物取引高は2024年3月、2兆4320億円にのぼった。1年前の2023年3月は、9218億円。1年間で2.5倍以上となった。
口座数も3月に991万となり、4月のデータでは1000万口座を超えることは確実だ。2023年3月は680万口座だった。
証拠金取引では第3四半期末の2023年12月時点で、買い建玉(未決済の買いポジション)の枚数は約85億枚で過去最多となったが、2024年3月時点では、約164億枚と約2倍となっている。
口座数の増加、すなわち暗号資産の新規ユーザーの増加に大きく貢献しているのが、メルカリの子会社メルコインのビットコイン取引サービスだ。
メルコインは2023年3月にビットコイン取引サービスを開始。10月には提供開始7カ月で利用者数が100万人を突破したと発表、4月には200万人突破を発表した。同期間、暗号資産の口座開設数は約300万増加したが、同社ユーザーがその6割以上を占めたことになる。
新たなユーザー層の拡大
メルコインのユーザーのほとんどは、メルカリでの売上金でビットコインを購入したユーザーであり、一般的な暗号資産ユーザーとは属性は異なる。保有残高は決して大きくないが、これまでとは異なる新たなユーザー層が生まれている。
また2024年2月にはメルカリでの商品購入時にビットコインが決済に使える機能を発表。3月〜4月の約1カ月で決済回数は10万回を突破した。
ビットコインは「デジタルゴールド」と呼ばれ、価格上昇とともに価値の保存手段としての役割や位置づけがますます強まっている。決済手段としては「使えない」との見方が強かったが新たな可能性が広がりつつあるようだ。
ビットコインは4月に半減期を迎えた。過去の経験則では、半減期の直後は価格は低迷するものの、その後、上昇し、史上最高値を更新している。
だが今回はビットコインETFの影響もあり、ビットコインの歴史上初めて、半減期前に史上最高値を更新、「これまでの半減期とは違う」との声もある。
ビットコイン価格は今後、どのように推移するのか。日本の取引所ビジネスは、ビットコインETFの登場によって資産クラスとして成熟が進んだと言われるビットコインが中心。金融大手2社は、取引所ビジネスをどのように展開していくのか、また競合他社はどのような動きを見せるのだろうか。
|文:増田隆幸
|画像:SBIホールディングス・北尾吉孝会長(撮影:小此木愛里)
※編集部より:本文を一部修正して、更新しました。