世界の多くでは、水は当たり前のものだ。一方、世界の多くでは、生死を左右するほど水が足りない。
では、どうすれば水が余っている地域から必要な地域に送ることができるのか? この問題に取り組むことがアトランティス(Atlantis)の使命。アトランティスは、気候変動に起因する問題の解決に専念するプロジェクトで、主に水に焦点を当てている。そして、ブロックチェーンを使ってこの問題を解決しようとしている。
アトランティスは理論ばかりに取り組んでいるのではない。インド・チクマガルル地方の50の村で、持つ者から持たざる者へ水を効果的に移転するよう、人々にインセンティブを与えるWeb3ソリューションを展開した。
巧妙な「報奨金」システムによって、村人たちはこの新しい分配を可能にするタスクを行うようになった。パイロットプログラムは成功した。「我々は2万1000キロリットル以上の水を交換した」と、アトランティスのイルトゥ・スレシュ(Irthu Suresh)CEOは語る。
スレシュCEOは、米テキサス州オースティンで開催される暗号資産・Web3イベント「Consensus 2024」で披露する内容の予告として、アトランティスがブロックチェーンを採用した理由、導入に際して克服しなければならなかった課題、そして、Web3が単に取引のためだけのものではなく、「水問題や貧困との闘いに利用できる」ことを世界に知ってもらいたいと考える理由を説明してくれた(インタビューは要約、編集されています)。
ブロックチェーン採用の理由
──アトランティスはブロックチェーン組織としてスタートしたわけではなく、徐々にブロックチェーンテクノロジーを取り入れていった。何がそうさせたのか?
我々はWeb2企業として、主に水を通じて気候変動に対するソリューションを開発しようとしていた。しかし、コモンズ(共有地)のための開発は、あまり人々の心に響かなかった。
また、インドでは規制から無秩序なマフィアまで、既存の権力構造との間で様々な問題にぶつかった。私企業が作ったアイデアであれば、潰すことはとても簡単。必要なのは大勢の弁護士だけだ。
そのため我々は「このシステムが規模を拡大するにつれて、私や共同設立者が取るに足らない存在になるにはどうすればいいか?」と考えるようになった。そして、分散型システムに注目するようになった。これがうまく機能すれば、誰もそれを潰すことはできないはずだと考えた。
そして、余っている水を集め、それをネットワークに供給しようとしている人々がいることに気づいた。余剰資源のプールが作られていった。そして我々は、「このシステム全体をブロックチェーン上で開発できたらどうだろう?」と考えた。
──具体的にどのようなものか?
世界のほとんどの地域では、水のようなものは厳しく規制されている。中央集権的な配水管のネットワークがある。しかし、都市や空間が拡大するにつれて、こうした中央集権的なネットワークは拡張に苦労することが多い。
しかし、インドは歴史的に分散型コミュニティの上に成立しちえる素晴らしい例だ。小さな村々が自分たちのニーズに対応している。超ローカル。だから我々にとって、資源配分の問題を解決するようなコンセプトを持ち込むのは自然なことだった。
水が豊富で、誰もそれを気にしない地域もある。また、水へのアクセスが死活問題となる場所もある。そこで我々はパイロットにおいて、マーシー・コープス・ベンチャーズ(Mercy Corps Ventures)とパートナーシップを組み、丘の片側は水が豊富で、もう片側は干ばつという、インドのある特定の場所を選んだ。
この地域の人々は、どうすれば余った水を交換できるのか? どうすれば現地にインフラを作ることができるのか? そこで、チクマガルル(50の村がある農村地域)でのパイロットプログラムでは、水ストレス度が異なる地帯に住む人々を対象にした。
プロジェクトの仕組み
──面白い。システムはどのようなものだったのか?
まず、地元の人たちにボランティアとして参加してもらい、プロジェクトのことを広めてもらった。次に水を集める人として登録してもらった。こうして水を集める人たちが生まれ、雨が降ったら雨水を集め、交換する機会を提供した。
──ブロックチェーンはどのように活用されているのか?
我々はモバイルアプリでプロダクトを作った。アプリ上で、誰もがプロフィールを作成し、サインアップし、まずは自分のスキルを伝えることができる。そして、そのスキルに基づいて我々はタスクを与え始めた。これらのタスクは、ピアツーピアの水ネットワークを構築するためのものだった。
調査に参加したり、水のサンプル検査に参加したり、ワークショップを通じて認知を広める人として登録したり、水を集める人になることもできる。
タスクはすべてゲーム化されており、私たちは「バウンティ(報奨金)」と呼んでいた。人々は登録し、必要なステップをこなし、そしてインセンティブを得る。これにはまず、改ざんできない分散型台帳が必要で、ブロックチェーンがそれに役立つことは分かっていた。
──素晴らしい。これまでの成果を数値化できるか?
これまでに2万1000キロリットル以上の水を交換した。ネットワークには3000人以上が参加し、50の村を網羅している。3000人のうち、大半は水を利用するためにネットワークに参加している消費者だ。しかしネットワークには、150人近くの水を集める人もいる。そして、調査員やバリデーターもいる。
──ここでいうバリデーターとは?
例えば、あなたがネットワークに接続して、「私は水を集めることができる」と言ったとしよう。そうすると我々は、その地域の誰かがバリデーターとなって、あなたのところに行き、「この人は水を集めるためのインフラを持っている」ことを検証してくれるよう、報奨金を出す。要するに、我々は地元でグリーンジョブを大量に創出している。そして、これらの様々な仕事は報奨金システムを使ってゲーム化されている。
直面した問題
──どんな問題に直面したか?
ひとつはオフランプ(参加プロセス)だ。特にインドでは、規制がまだグレーゾーンにあるため、オフランプが難しい。
オンボーディングの初めの段階で、最初のMVP(必要最低限の機能を備えたプロダクト)から、人々にウォレットに接続するよう求めると、うまくいかなかった。
人々は皆、「ウォレットって何?」という状態だったからだ。そして私はUIとUXについて究極の教育を受けた。ブロックチェーンやWeb3の用語をいつ導入するのが適切なのかを見極める必要があった。
そして、人々を教育するために特別なステップを踏まなければならなかった。人々は「これは暗号資産だ。ということは詐欺だ」という感じだったから。それに対して我々は、「いやいや、ちょっと待って!」「もっとたくさんの可能性がある!」という感じだった。
──どのようなトークンを使って仕組みを動かしているのか?
内部トークンは準備してあり、いずれローンチするつもりだ。パイロット版ではそれを積極的に使用した。しかし、Web3市場がどのように機能しているかを見て、強力なプロダクト・マーケット・フィットを達成しない限り、トークンをローンチすることは我々にとって意味がないと強く信じている。
そこで我々は、様々なトークンをプラットフォームに導入できる仕組みを取り入れた。ソラナ(Solana)を使ってアフリカの水プロジェクトに資金を提供したい人がいればできるし、オプティミズム(Optimism)を使ってベトナムの水プロジェクトに取り組みたい人がいればできる。我々は、相互運用性の部分に力を入れた。気候変動は、人々がどのチェーンを使っているのかなど気にしない。
ブロックチェーンの活用例を人々に伝える
──まったくその通りだ。最後の質問になるが、Consensusで最も楽しみにしていることは?
我々のプロジェクトにとって、最大のライフラインのひとつはビットコイン。Consensusは、今、我々が使っているテクノロジーのパイオニアである人々に会える素晴らしい場所だ。
我々がブロックチェーンを使って行っていること、それは必ずしもDeFi(分散型金融)取引だけではないことについて、話すことができればと思っている。
我々は、「水問題や貧困と闘うために使うことができる」ということを知ってもらいたい。分散型台帳というアイデアは非常にパワフル。実際に使われている例があることをもっと多くの人に知ってもらう必要がある。
──素晴らしい。これまでの成果に祝福を。オースティンで会いましょう。
イルトゥ・スレシュ(Irthu Suresh)氏は、5月29日から31日までテキサス州オースティンで開催される米CoinDesk主催のカンファレンス「Consensus」に登壇する。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:アトランティスのCEOイルトゥ・スレシュ氏
|原文:Irthu Suresh: Using Blockchain Tech to Reduce Water Shortages