フェイスブックなどが準備を進める新しいデジタル通貨のLibra(リブラ)。
同社の子会社「Calibra(カリブラ)」の幹部は10月2日、東京・目黒で開かれたブロックチェーンカンファレンス「b.tokyo 2019」で、リブラ構想について語った。
登壇したのは、カリブラでビジネス開発ディレクターを務めるキャサリン・ポーター氏。フェイスブックの関係者が公の場で、リブラ構想について日本国内で語るのは初めてのことだ。
例えばトヨタ自動車や、ユニクロを展開するファーストリテイリングといった日本のグローバル企業がリブラを採用したら、どんなことが起きるだろうか。
ポーター氏が強調したのは、銀行口座を持たない人たちへの企業側のアクセスの向上だ。世界銀行によれば、世界で約17億人の成人が、金融へのアクセスを欠く状態にあるという。
ポーター氏は、こう話す。
「これまでお金を貯める機会のなかった人たちでも、金融エコシステムにおいて価値を生み出むことができるように導くようなやり方で新しい顧客にアクセスすることを考えてみると、そうした人たちをグローバルなビジネスに導くことになる」
グローバル企業にもたらすメリット
フェイスブックがリブラのホワイトペーパーで述べているのは、アジアやアフリカなどで銀行口座を持たない人たちに金融サービスを届ける、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)の考え方だ。
銀行口座がなくても、スマートフォンを持っていれば、アプリの中にお金を貯めることができる。貯金ができれば、ユニクロで洋服を買い、いずれはトヨタの顧客になるかもしれない。フェイスブックが描くのは、金融へのアクセスを広げ、グローバル経済に参加する人を広げていく構想だ。
ポーター氏は、リブラがグローバル企業にもたらしうるメリットとして、為替コストの低減をあげた。世界中でビジネスを展開する企業は、常に為替相場の動きに神経をとがらせているが、ポーター氏はこう語る。
「リブラの通貨としての規模を考えると、支払いのために通貨の交換にかかるコストはなくなることになります」
カリブラの独立性
ポーター氏はスケールメリットを強調するが、リブラに対する懸念が広がっている要因もその規模の大きさにある。
フェイスブックは、ユーザーの人間関係、嗜好、支持政党など膨大な個人データを握っている。ここに、お金に関わる情報まで握ることになると、「危険だ」と懸念を表明するアメリカの議員もいる。
これに対して、ポーター氏は講演の中で、リブラの運営を担うリブラ協会と、カリブラ社の独立性を強調した。
「カリブラは、フェイスブックから完全に独立している。金融データはSNSとは切り離す。リブラのデータは、フェイスブック上のターゲット広告には使わない」
フェイスブックが、リブラの計画を発表したのは6月18日。現時点では、2020年にサービスを開始する計画だ。
マスターカード、ビザ、ペイパルといったグローバル企業が運営主体「リブラ協会」のメンバーに入っていたため、そのニュースは世界を駆け巡った。
カリブラは現在、リブラをスマートフォンに入れておいたり、店舗で使ったり、送金したりする「デジタルウォレット」の開発を進めている。
フェイスブックのMessengerやWhatsAppといったメッセージ・アプリで、送受金ができる仕組みの構築も進めるという。
LinkedIn(リンクトイン)など、20年ほど日本での勤務経験があるというポータ―氏は講演の冒頭、日本語であいさつした。
「新しい国に来て、外国人として、自分でできることは何もない。だから、パートナーシップとコラボレーションが必要です。この話題についても今日から、一緒にパートナーシップをつくっていきたい」
文・写真:小島寛明
編集:佐藤茂