先日ある人に「なぜ暗号資産(仮想通貨)業界で開発しているの」と尋ねた。彼の答えは「大金を稼ぐためだ。それ以外にあるか?」だった。うんざりだ。私はかつて、そのような人たちはただ理解していないだけなのだと思い、相手にしないでいた。
私は先月、米CoinDesk主催の「Consensus 2024」で、公共財の資金調達について話すことになった。私がWeb3でのキャリアの大半を捧げて追求してきた暗号資産の中のニッチ分野だ。
私はこのトピックについて多くを知っており、それを世界と共有したいと熱望していた。しかし、すべてを紙に書き出すと、あまりにも実体がないように感じられた。これを理解している人など、いるのだろうか?
ブロックチェーンが支えるボトムアップ型資金調達
私は自分の講演の草稿を書き始め、お金がいかにインセンティブに力を与えるか、そしてそれゆえに世界を変えるようなイノベーションの登場に力を与えるかを説明した。
1950年代に政府による研究資金援助が軌道に乗ると、科学、医療、テクノロジーの分野で飛躍的な進歩がもたらされた。同様に、過去数十年にわたるベンチャーキャピタルの成長は、スタートアップや革新的な企業を加速させた。
私の主張は、暗号資産は最も資金を必要とする分野に資金を分配するボトムアップ型のスケーラブルな方法を支えている、というもの。少なくとも、それが希望だ。しかし、メインストリームで具体的な事例を探そうとしてもほとんど見つからない。
もちろん、まったくないわけではない。 私は、これを実現しようとしている複数の情熱的なプロジェクトを知っている。例えば、GainForestは透明性のある自動化されたシステムを通じて森林保護に取り組んでおり、保全活動の証拠を示した地元の人々に直接資金を分配している。
また、VoiceDeckは、コミュニティ主導の意思決定を通じて、ジャーナリストが過去に遡って資金を受け取ることを可能にしている。私は、寄付者の数に応じて何百万ドルもの資金をプロジェクトに分配する、Gitcoin上のいくつかのクアドラティック・ファンディング・ラウンドに参加した。
これらのプロジェクトは、ブロックチェーンが世界のために何ができるのか、私にインスピレーションを与えてくれた。しかし同時に、これが業界のフォーカスのほんの、ほんの、ほんの一部に過ぎないことに落胆した。
私は昨年後半、シーケンサー(L2のトランザクションをまとめ、メインのブロックチェーンへと送る役目を担うメカニズム)手数料を通じて公共財のための持続可能で耐久性のある資金を創出することを目的としたレイヤー2ブロックチェーン「Public Goods Network」の技術開発と普及を主導した。
我々は、開発者にインセンティブを与え、ブロックスペースを満たし、エコシステムを成長させるために、他の多くのブロックチェーンと競争していた。最も効果的な戦術はお金だった。エコシステムは、チェーン全体の価値を高めることを期待して、資本配分を競っていた。
成功事例
こうしたプログラムの中には、オプティミズム(Optimism)のRetroPGFのように効果的なものもあった。この仕組みは、コミュニティの集合的な知恵と意思決定に基づいて、最もインパクトのあるプロジェクトに、過去に遡って資金を提供するものだ。
RetroPGFは、暗号資産が最も資金を必要としている分野に資金を分配する、協調的で透明性があり、改ざん防止された方法を支えている事例として、私が目撃した最初の大規模でメインストリームの資金調達メカニズムだった。
私の意見では、これは非常に成功した実験だった。各ラウンドは科学実験のように運営され、仮説と制御変数が設定され、 毎回正確にインパクトを評価し、それに報いる精度を上げていった。その後すぐに、ファイルコイン(Filecoin)やセロ(Celo)などの他のブロックチェーンエコシステムもこの春にそれぞれのコミュニティでRetroPGFラウンドを実施して、これに続いた。
これはエキサイティングな展開だったが、それでも私は、なぜこれらの資金調達メカニズムの主な採用者が他のブロックチェーンエコシステムなのか不思議に思っていた。この暗号資産のニッチな分野のすべてが、ブロックチェーン助成金プログラムを改善するためだけに行われていたのだろうか?
私の答えは、イエスでもありノーでもある。
公共財の資金調達メカニズムは一般的に、単なるDAO(分散型自律組織)のツールや社会善の取り組みとして退けられている。しかし規模を拡大し、市場シェアを獲得する競争において、これらの仕組みは競争上の優位性になっている。
ブロックチェーンエコシステムは、前例のないスピードでこれらの斬新なツールやプロトコルを試験運用している。こうしたオープンソースツールが改善されるにつれ、(ブロックチェーンに限らず)どのエコシステムにとっても、自分たちにとって重要なもののために資金調達することが容易になる。
オンチェーンエコシステムは、世界中の何千もの人々で構成され、彼らが共有する目標を中心に斬新な形の経済構造やガバナンス構造が作られている。これはすごいことだ。
人類の歴史において、こうしたシステムはトップダウンで設計されてきた。しかし今、ブロックチェーンによって、ボトムアップ型のグローバルネットワークが、自分たちの価値観に沿ったシステムを設計することが可能になっている。
今後に向けた提言
我々は、資本が社会をどのように流れ、権力と資金がどのように集中するかを完全に変革する可能性を秘めたテクノロジーを開発している。今はまだブロックチェーンを使った資金調達の仕組みは黎明期にあるが、業界が成熟するにつれて、国家規模に匹敵するエコシステムが生まれ、インセンティブを結集し、資本を最も必要とする分野に配分するようになるだろう。
エコシステムを成長させようとしている人たちには、実験を行い、学んだことを公に共有することを勧める。知識を共有することで、業界としてこれらの目標をより早く実現することができる。
外部の投機家に対しては、これらのブロックチェーンを動かしているガバナンスと経済モデルを徹底的に検証することを強く勧める。トークンはエコシステム全体に利益をもたらす方法で配布されているのか、それとも中央集権的な意思決定者グループだけに利益をもたらしているのか?
これらのシステムを動かしている手段と推進力を理解し、あなたの決断がシステムの設計方法に影響を与えることを認識して欲しい。
ブロックチェーンが経済や統治システムを書き換える可能性について語られるとき、実体のない空想的な目標として否定されがちなことは承知している。しかしそんなことはなく、今まさに起きていることだ。そしてそれは、健全なブロックチェーン競争によってさらに加速している。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Blockchains Are Revolutionizing Public Goods Funding