- 金融テクノロジーコンサルタントのブロードリッジ(Broadridge)は、大手銀行がかかわるレポ取引を同社のパーミッションベースのDLRプラットフォームで1日あたり500億ドル(約8兆円、1ドル160円換算)処理していると述べた。
- また欧州に特化した証券金融のプライベートロックチェーン企業HQLAxは、同社のプラットフォームによって、銀行は年間1億ユーロ(約171億円、1ユーロ171円換算)節約できると述べた。
- 数兆ドル規模のレポ市場は、資本市場における資金調達の生命線だ。
暗号資産とTradFi(伝統的金融)の双方におけるトークン化の支持者は、1兆5000億ドルをはるかに超える価値のレポ取引や他の形態の証券金融取引がプライベートブロックチェーンを使って毎月実行されていると聞いて驚くかもしれない。
これは高度に断片化された、数兆ドル規模の市場のほんの一部であり、こうしたプライベートブロックチェーンは世界最大級の金融機関の多くにそれなりの規模で採用されている。実はイーサリアムブロックチェーンのような、大々的にアピールされているオープンチェーンに関連するRWA(現実資産)トークン化の規模を軽々と凌駕している。
実際、こうしたパーミッションベースのあまり注目されていないレポ台帳は、現存するブロックチェーンテクノロジーの用途で最も成功しているもののひとつと言える。なぜなら、レポ(多くの場合、流動性の高い国債を担保に、合意された買い戻し日と価格で現金を借り入れること)は資本市場における資金調達の生命線だからだ。
JPモルガンやゴールドマン・サックスのようなウォール街の金融大手は、レポ取引のような分野に関しては具体的なデータの共有に消極的。JPモルガンは自社ブロックチェーン「オニキス(Onyx)」で1日に20億ドルもの取引を処理しているとされる。
オニキス・デジタル・アセッツ(Onyx Digital Assets)のグロース責任者ニキル・シャルマ(Nikhil Sharma)氏によれば、顧客は「単一の台帳上で現金と担保をトークン化して受け渡すことができるスマートコントラクトを使って、数十億ドル相当のレポ取引を数分以内に決済できる」という。
システム上重要な銀行のいくつかは、テクノロジーコンサルタント会社であるブロードリッジの分散型台帳レポ(DLR)プラットフォーム上で数千億ドルのレポ取引を実行している。
ブロードリッジのDLRプラットフォームは、ソシエテ・ジェネラル、UBS、HSBC、あるいはシカゴを拠点とするトレーディング大手DRWなどが利用しており、1日500億ドル相当のレポ取引を処理している。
また、欧州を中心とするHQLAxも有力なプレーヤーだ(同社の社名は、High-quality Liquid Asset:高品質流動資産の頭文字を取っている)。
あらゆる場所での相互運用性
高い取引高を誇るだけでなく、これらのプラットフォームはクロスチェーンの相互運用性を構築し、銀行グレードの現金決済トークンを統合している。
R3のエンタープライズグレードの台帳「コルダ(Corda)」を使用して構築され、HSBC、BNYメロン、ゴールドマンがプラットフォームに参加しているHQLAxは先週、ロンドンを拠点とするスタートアップFnality(イーサリアムのパーミッションドバージョン上に構築された機関グレードのデジタルキャッシュのプロバイダー)とのDvP(証券資金同時受渡)レポ決済を完了した。
デジタル・アセット(Digital Asset)が作成したスマートコントラクト台帳「Canton Protocol」を使用して構築されたブロードリッジのDLRは先月、イーサリアムのプライバシーに焦点を当てたバージョンで動作するJPMモルガンのJPMコインと相互運用可能になった。DLRはコメルツ銀行にも採用されており、さらに多くの銀行が近々採用する予定だ。
「キャッシュサイドにおけるJPMコインとの連携は、おそらく世界最大のデジタルキャッシュの取り組みであり、我々はおそらく、世界最大の担保の取り組みを進めている。そのため、相互運用性を目指して協力することは非常に重要だ」とブロードリッジのデジタル・イノベーション責任者オラシオ・バラカット(Horacio Baraka)氏は述べた。
ゴールドマン・サックスのデジタル資産担当グローバル責任者マシュー・マクダーモット(Mathew McDermott)氏は、長年にわたるレイヤー化と断片化がもたらした従来のレポや証券貸付市場の非効率性を指摘した。
「DLTは既存のプロセスを大幅に改善し、日計りレポや日計りFXのような新市場を創出する可能性を秘めている。そのため、ブロードリッジのDLRやHQLAxのようなプラットフォームが成長し、規模を拡大し続けていく成功を見るのは素晴らしいことだ」とマクダーモット氏は述べた。
「スパゲッティのような混乱」
証券金融に携わる人々にとって、ブロックチェーンは常にキラーアプリケーションのように思えていた。
HQLAxのギド・ストローマー(Guido Stroemer )CEOは、大手銀行が担保義務を果たすために物理的に移動させる必要がある膨大な証券の複雑さを「信じられないほど絡み合ったスパゲッティのような混乱」と表現している。
このような複雑さは、銀行が緩衝材として高価な過剰担保を購入して、ときおり発生する決済の失敗や、日計りのカウンターパーティー信用リスクにつながるタイムラグに対処しようとすることにつながる。
「こうした逆風を和らげることで、銀行は控えめに見ても年間5000万ユーロから1億ユーロを節約できると考えている。我々は、銀行業界が有価証券を保管場所から移動させることなく、有価証券の所有権を選択した担保債権へと移すことを可能にする」とストローマー氏は語った。
ストローマー氏は、HQLAxの取引高が年内に数百億ドル規模に達すると見込んでいるとして、次のように語った。
「機関投資家がHQLAxのプラットフォームに移動させることを計画している、非常に多くの取引がある。HQLAxの市場シェアはいずれ、4000億ユーロから5000億ユーロに達するだろう」
入り口?
トークン化が暗号資産の世界にしっかりと根付いていることを考えると、こうしたプライベートチェーンがパブリックブロックチェーンとTradFiの融合のストーリーにどのように食い込んでいくかは興味深い。
ブロードリッジの日計りレポビジネスはあまり注目を集めていないだろうが、トークン化の全領域の中で最も優れたプロダクト・マーケット・フィットを実現しているかもしれないとVC企業ドラゴンフライ(Dragonfly)のゼネラルパートナー、ロブ・ハディック(Rob Hadick)氏は述べた。
「この種のオンチェーン商品はウォール街の標準になるだろう」とハディック氏は語り、次のように続けた。
「とはいえ、これがパブリックチェーンや、より広範な暗号資産エコノミーにとって、どのような価値をもたらすかはわからない。いわば『入口』になり得るという議論もあるが、それには多くの信用が必要となる」
ブロードリッジのバラカット氏は、証券がパブリックネットワーク上で発行され、オープンなデジタルキャッシュで決済されるようなトランスフォーマティブなシナリオもあり得ると指摘。だが、そのためには規制の変更が必要であり、新しいテクノロジーを取り入れる際、特にレポ取引にパブリックブロックチェーンを使用するようなディスラプティブな事例の場合には、当然のことながらリスク回避も起こり得ると述べた。
「そうしたことが起きることを待っていては、今、すでにある多くのチャンスを逃してしまう。プライベートネットワークやセミプライベートネットワークが次々と登場している」とバラカット氏は述べた。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Don’t Tell Anyone, but Private Blockchains Handle Over $1.5T of Securities Financing a Month