川崎ひでと議員の語り口はいつも明快。2023年11月、前任から自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム(web3PT)事務局長を引き継いだ際は「大きなプレッシャーを感じた」そうだが、取り組みについて語る姿はクリア。そして何よりも楽しそうに見える。
4日から始まる「JBW Summit at IVS Crypto(IVS CRYPTO 2024 KYOTO with Japan Blockchain Week Summit)」に登壇する川崎議員に「新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ」「日本がweb3時代の中心へ」を打ち出した「Web3ホワイトペーパー 2024」に込めた意図・狙いを聞いた。
「事業環境・投資環境の整備」から一歩前へ
「これまでは、日本からシンガポールやドバイに行ったスタートアップをいかに日本に呼び戻すか。また日本でやってみたいという海外の方々への呼びかけになるような政策を提言してきた。今回は違う部分がいくつかある」と川崎議員は話を切り出した。
実際、「web3ホワイトペーパー 2024」(要旨)の冒頭には「我が国をweb3の中心にする」とあるが、さらに「新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ」と記されている。過去2年、「事業環境の整備」「投資環境の整備」を実現してきたことをベースにさらに大きく踏み出した印象を受ける。
「第1のポイントは、ブロックチェーン技術を使ってフィジカル空間、いわゆる物理的な世界とサイバー空間を融合させることを念頭に置いたことこと」
ホワイトペーパーには「ただちに対処すべき論点」として13のテーマが記されているが、その1つ目が「『Society 5.0』実現を見据えた、AIなど他の分野との横断的検討の推進」となっている。
「Society 5.0」とは、内閣府によると「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」のこと。そのためには「省庁を超えた取り組み」が必須であり、サイバー攻撃など万一の際に各省庁が連携して対応できる体制を今すぐにでも作っておくことが重要になると川崎議員は述べた。
DIDは国が積極的に
「2つ目のポイントは今回、DID(分散型ID)を初めて提言に入れたこと。今、インターネットで何かのサービスを利用するときには、個人情報をプラットフォームに渡して、管理してもらっている。今後はそうではなく、自分自身で管理し、必要に応じて提供するという考え方が重要になる。そのためにもDIDを普及させていきたい」
Web3マスアダプションに向けたDID(あるいはウォレット)の重要性は業界関係者の多くが指摘している。Web3に取り組むさまざまな事業者がユーザーにDID/ウォレットを使ってもらうための試みを進めている。
「DIDは国が主導することを考えているのか」という質問に対して、川崎議員は「国・行政が積極的に関わるべきだと思っている」と答えた。
「新型コロナウイルスのワクチン接種証明アプリにはVC(Verifiable Credentials:検証可能な資格情報)が使われ、DID実現に向けた実装はすでに経験済みだ。また日本にはマイナンバーカードがあり、VC、DIDに統合していけばその有用性・可能性はより大きくなる」
5月末、岸田首相とAppleのティム・クックCEOがテレビ会議を行い、マイナンバーカードの機能がiPhoneに搭載されることになったニュースはインパクトを持って伝えられた。DIDはいろいろな事例が出てきているが「グローバルスタンダードはまだない」と川崎議員は述べ、「日本が主導して、日本の国内モデルがグローバルモデルとして通じるような設計を推進していきたい」と続けた。
AIは人間をサポートするもの
急速な進歩を見せるAI(人工知能)との連携、Web3における利活用も見逃せないテーマだ。ホワイトペーパーには「AI」の文字が頻繁に登場するうえ、web3PT座長を務める平将明議員は自民党「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」(AIPT)の座長も務めている。2つのPTが実質一枚岩であることは心強い。
「AIで今問題となっていることに、著作権があるものも含めてデータとして何でも読み込んでしまう問題がある。ブロックチェーンを使えば、著作権を明示し、『これは読み込み不可」と書き込むことができる。また逆にAIを使えば、誰でも簡単にスマートコントラクトを開発できるようになって、Web3はより身近な存在になる」
AIは「人間の仕事を奪う」などネガティブな面が強調されがちだが、人間の作業を支援する、サポートすることが本来の目的。
「Microsoftは、AIツールの名称を副操縦士という意味の『Copilot』とした。メインの操縦士である人間をサポートするということ。この考え方はすべてのAIに共通する」
教育、ステーブルコイン…幅広い視野で
川崎議員はweb3PTのほかに、自民党デジタル人材育成PTにも携わっており、テクノロジーの急速な進歩に対応できる教育の仕組みを整えることが不可欠と述べた。
「すでに去年、学校の宿題にAIを使っていいかという問題が持ち上がり、夏休み直前に文部科学省はAI使用のガイドラインを出した。その際に『使用を制限することはやめてほしい』と伝えた。どこでAIを使い、AIが提示した内容が本当に正しいかを自分で判断することは今後、AIを活用するうえで大切になる」
今年登場が期待されるステーブルコイン(SC)については、流動性や相互運用性の観点から「パーミッションレス型ステーブルコインの流通促進のための措置」があげられている。パーミッションレス・ブロックチェーンを基盤としたSC、あるいは銀行発行型SCは規制の大枠は整備されたものの、当局は「まだそこまで前向きではない」などと聞く。だが川崎議員は「法律を整備した以上、それを使った事例が生まれることを当局は望んでいる」と述べた。
JBW Summit at IVS Cryptoに登壇
こうしたタイミングで開催される「JBW Summit at IVS Crypto」については「華々しく開催してほしい」と期待を語った。
「海外から多くの有識者が訪れ、大きなムーブメントが生まれる機会になると思う。Web3への注目のバロメーターにもなるだろう。いろいろな人と話をして、知見を深め、新しいビジネスを生み出してほしい。web3PTが『DAOルールメイクハッカソン』を開催したときも、終わったあとに参加した事業者の皆さんが名刺交換をしながら話をしていた。実はあれが一番意味があったのではないかと感じている」
なお、川崎議員は4日16時15分からメインステージで行われる「Web3国家戦略の現在と未来 -「web3ホワイトペーパー2024 」ドラフトメンバーを迎えて」や、同じく4日17時45分からの「エッジテクノロジーで京都・関西の潜在能力を解き放つ」などに登壇する予定だ。
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なお、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenue株式会社は、7月5日・6日に一般社団法人JapanBlockchainWeekと「JBW Summit at IVS Crypto」を共催。また、7月31日まで続く「Japan Blockchain Week」のメイン・メディアパートナーを務める。
|文:増田隆幸
|撮影:小此木愛里