ブロックチェーンで「コストカット経済」から脱却、日本発チェーンの「勝ち筋」とは【JBW Summit at IVS Crypto】

4日から京都でスタートした「IVS Crypto/JBW Summit」、注目のセッションをダイジェストで紹介する。

セッション名:世界と勝負する、日本発チェーンの「勝ち筋」
日時:7月4日 14:00〜
登壇者
・自民党衆議院議員 平将明氏
・Oasys 満足亮氏
・Startail Labs Japan 海老島幹人氏
・YGG Japan/SHAKE 原島和音氏
・N.Avenue/CoinDesk JAPAN 神本侑季(モデレーター)

──日本のWeb3政策はどう進捗しているのか。まず、4月に新しいホワイトペーパーを公表した平先生にお聞きしたい。

:ホワイトペーパーを2回出して「渡辺創太問題」、いわゆる自社保有トークンが時価評価課税される問題を解決し、さらに他社発行トークンの時価評価問題も解決した。だがまだ会計監査の問題が残っている。企業がトークン(暗号資産)を保有すると、メジャーなトークンはいいが、マイナーなトークン(スタートアップが発行したトークンなど)の場合は監査を拒まれてしまう。これを何とかしなければいけない。

暗号資産はビットコインやイーサリアムなどで盛り上がっているが、我々はそれ以外のところで日本の価値、強みを出していくことに着目している。観光体験、食、カルチャーをグローバル価格にするためにNFTを活用することを国家戦略に入れた。

日本の強みはIPやキャラクター、ゲーム。例えば、ゲームからWeb3の成功事例が出てくることをどう応援できるか。ゲーム会社がゲームのNFTやトークンの取引にかかわると暗号資産交換業と見なされる問題がある。ことは、ライトな免許を作って、トークンへのアクセスを改善していきたい。

──この1、2年で法整備は進んだが、AIが盛り上がり、Web3的には「やばい」時期もあったのでは?

:河野デジタル大臣がダボス会議から帰ってきたときに「平さん、Web3は終わった。これからは生成AIの時代だ」と言ったので、「それは違います。ブロックチェーンによって情報の信頼性が担保されて、相互作用で成長します」と伝えた。

さらにラッキーなことに、Web3PTの座長と生成AIのPTの座長はどちらも私がやっている。しかもWeb3ホワイトペーパーを英訳しているのは伊藤穰一さん。伊藤さんがそのネットワークで日本のホワイトペーパーをGAFAに配っていて、日本のローメーカーが何を考えているかをGAFAはリアルに理解している。

──YGGは、エンタメにかかわるなかでWeb3の役割をどう考えているか?

原島:大きな役割がある。ただブロックチェーンが出てきたからといって、Web2的なものが消えることはない。例えば、ビデオゲームが出てきても、ボードゲームは存在しているし、面白い。Web3ゲームにはブロックチェーンがもたらす新しいファンクショナリティ(機能性)が必要だと考えている。

──ブロックチェーンは、Day1から世界と対峙することになる。その点、Oasysではどう考えているのか?

満足:ブロックチェーンは世界中どこからでもアクセスできる。今のコンシューマーゲームは、プラットフォーマーがある程度ルールを決めており、そのなかでグローバルに配信もできるが、ブロックチェーンであれば、プラットフォーマーなしで最初からグローバルにさらされる。ただし、国ごとに税制が違うなど課題もあって、すぐに明日からグローバルに出られるわけではないが、少なくともコンテンツはグローバルにさらされることを意識して出している。

──アスターは、日本発のパブリックブロックチェーンとして、まさにグローバルで勝っている。何を重視しているのか。

海老島:いろいろな捉え方ができるので難しいが、アスターは最初から世界を見据えている。さまざまな取り組みのなかで最近では秋元康さんと連携したり、まだ発表できない取り組みも多いがリアルユースケースを生み出すことに取り組んでいる。日本のコンテンツはグローバルからも引きが強いので、どうハンドリングできるかがポイントになると考えている。

満足:チェーンよりもコンテンツが重要。チェーン側の立場で考えると、いかにコンテンツ側を支援できるか。マーケティングの支援や、ゲームは開発費がかかるのでブロックチェーンをプロジェクトファイナンスのような形で利用し、リスクを分散させる。チェーン自体というより、チェーンを使ってコンテンツクリエーターを支援するようなことができるのではないか。

──web3PTの座長として、チェーンの勝ち筋はどこにあると考えるか

:最近テレビ番組に呼ばれると「デジタル赤字」が話題になり、プラットフォーマーやクラウドサービスに支払っているコストが問題にされる。だが実は、それほど気にすることはないと考えている。いわば地代を払いながら、それを上回る収益を上げればいい。IPやコンテンツは日本が強い。また日本の勝ち筋としては大企業との連携があるだろう。大企業もWeb3に動き出しているので、我々は規制とか税制で支援していきたい。

金融も景色が変わってきたので、web3PTとしてやることがたくさんあると思っている。アメリカでビットコインETF(上場投資信託)が登場し、大きな資金が動いている。これまで暗号資産を「通貨」として扱ってきたが「金融商品」として扱う大転換が必要なのではないかと考えている。

来年には万博もある。今、京都にインバウンド客が大勢訪れているように、世界では「プチ日本ブーム」が起きている。日本人があまり価値を見出していなかったものに、海外の人たちが価値を見出している。

日本のデジタル化の一番の課題は「経費」のデジタル化ばかりやってきたこと。人員削減とか、効率化ばかりで、「売上」のデジタル化を進めなければならない。数量×単価の世界で、数量はECサイトやSNSの活用で個人経営のお店でも世界を相手にできるようになっている。残るは単価。ここにブロックチェーンやNFTを活かす。実際、いろいろな体験をNFT化することで、一瞬にしてグローバル価格になった事例がある。国として、コストカット経済から脱却しなければならない。

NFTは、デジタルアートではなくて、日本が1000年、2000年かけて培ってきたアナログの価値を最大化するもの。そのためのブロックチェーンだと考えている。

──今年、Web3ゲームへの期待が高まっているが、大手ゲーム会社やIPがWeb3に参入するには何が必要か。

満足:課題は、法律や会計処理などいろいろあるが、例えば、クレジットカード決済をブロックチェーンにつなぐとなると、システム構築はそれほど難しいわけではないが、ブロックチェーンだけで完結する場合よりも手間がかかってしまう。シンプルなNFT販売の話だったものが、周辺課題が広がり、最後には「そんなにコストをかけて回収できるのか」という話になる。暗号資産だけ、すべてブロックチェーンで行う事例が増えてくれば、回収しやすくなる。いまはちょうど微妙なラインになっている。

三島:アスターは、パブリックブロックチェーンがメインで、周辺の開発などはパートナーさんとともに取り組んでいる。実際に大手企業のNFTプロジェクトなどに取り組んでいるが、パートナーと連携してさまざまな課題を解決していきたい。

原島:Web3ゲームはまだ一般的な人にはハードルがあり、しかも彼らが触ってゲームは以前流行ったプレーツーアーン(P2E)ゲームだったりする。そうした背景から「これをやらないとブロックチェーンゲームではない」みたいな先入観が残っているケースもあり、「このモデルで収益化できるのか」という議論になることもある。だがそれは古いビジネスモデルであり、今は状況が変わった。もう1段、2段のイノベーションが必要で、まだ我々が見ていない新しいモデルを作らないといけない。

なお、このセッションの前には、「『PJ Katanaとは?』~YGG Japanの新事業発表~」が行われ、YGGJapan/SHAKEの原島和音氏が、ゲーム特化レイヤー3プロジェクト「KATANA」のプレゼンテーションを行った。

「KATANA」は、Starknetのゼロ知識証明(ZK)技術と、ゲーム開発の定番言語Luaを統合したレイヤー3ソリューション。プレゼンテーションで原島氏は、まずイーサリアム創設者ヴィタリック・ブテリン氏のStarknetについてのコメントを紹介し、「イーサリアムのガス代(取引手数料)が高騰したり、送金に長い時間がかかるようになったためにスケーラビリティの問題が大きなトレンドになり、この問題を解決するためにレイヤー2という概念が生まれた」と解説。

「レイヤー3はさらに領域に特化したプロトコルを作ることで、ユーザー体験を向上できる」と述べ、「KATANA」については、「レイヤー3の中でも、ゲーミングに特化した環境を構築する」ことの目指していると続けた。ブロックチェーン開発者がより手軽に開発を進められることに加えて、ユーザーが簡単にブロックチェーンゲームを楽しめる環境を提供できるという。なお、「KATANA」Starknetとパートナーシップを締結している。

関連記事:YGG Japan、ゲーム特化レイヤー3ブロックチェーン「KATANA」を「IVS Crypto/JBW Summit」で発表

さらに原島氏は「Starknetのエコシステムでは新しいゲームの形が始まっている」と紹介。「ゲーム内アイテムがブロックチェーン上に存在するだけではなく、ゲームロジックそのものもブロックチェーンに乗るという新しい形のゲーム」であり、これにより、ゲーム開発者とユーザーがともにゲームを作り上げていくという「ゲームの新しい形が可能になり、ブロックチェーン活用の新しい可能性の1つとなっている」と述べた。「オートノマスワールド(Autonomous World)」と呼ばれているものだ。

「KATANA」はこうした先進的なStarknetエコシステムに、ゲーム開発で世界で最も利用されている言語の1つであるLuaを統合したもの。より多くの人がブロックチェーンの世界で自由にゲームを開発できるようにしたいと原島氏は述べた。

またこの日、「KATANA」に戦略的パートナーとして参画することを発表したチューリンガムの田中遼氏も登壇。日本のゲームやコンテンツのグローバル展開などに連携して取り組んでいくと述べた。

なお、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenue株式会社は、7月5日・6日に一般社団法人JapanBlockchainWeekと「JBW Summit at IVS Crypto」を共催。また、7月31日まで続く「Japan Blockchain Week」のメイン・メディアパートナーを務める。

|文・写真:増田隆幸
※編集部より:本文を一部修正して、更新しました。