7月4日〜6日にかけて京都で開催された「IVS Crypto/JBW Summit」、注目のセッションをダイジェストで紹介する。
セッション名:2,800万人が訪れる2025年大阪・関西万博で日本のWeb3とFintechはどのように変わるか
日時:7月5日 13:15〜
登壇者
2025年日本国際博覧会協会 企画局長 河本健一氏
三井住友フィナンシャルグループ Chief Digital Innovation Officer 磯和啓雄氏
内閣府大臣政務官・衆議院議員 神田潤一氏
HashPort代表取締役CEO 吉田世博氏(モデレーター)
万博は「未来社会の実験場」
吉田:来年の大阪・関西万博に向けた「EXPO 2025 デジタルウォレット」が7月1日に正式リリースされた。どういうものか。
河本:万博は来年4月13日から始まり、180日間に2820万人の来客を見込んでいる。大規模・長期間のイベントで、会場内は全面的にキャッシュレスになり、基本的には現金は使えない。この万博のコンセプトは「未来社会の実験場」だ。キャッシュレス化を進めていくきっかけにしたい。
決済可能なブランドは60ぐらい用意する。VisaやMasterなどのクレジットカードをはじめ、国内の主要流通系・交通系電子マネー、コード決済も使えるようにする。
「EXPO 2025 デジタルウォレット」のサービスは、機運の醸成、理解浸透などの目的で、開会前から始めている。万博独自の電子マネー「ミャクペ!」は、SMBCグループに提供いただいたもので、会場内で支払手段の1つとして使える。
「EXPO 2025 デジタルウォレット」は「ミャクペ!」などのWeb2金融サービスと、ブロックチェーンを活用したWeb3サービスを1つのアプリで提供するという、ある意味革新的なサービスになっている。
そして、Web3時代のデジタル経済圏を、力強く拡大していくのがNFTだろう。改ざんできないデジタル資産という独自性を生かし、万博独自のデジタルコンテンツを提供することで、利用者の皆さんに新しい技術やサービスを実感・体感していただきたいと考えている。このサービスはHashPortに協賛をいただき、譲渡ができないSBT(ソウルバウンドトークン)を活用したサービスとして展開している。
7月1日のウォレットのバージョンアップで「金融連携サービス」も加わり、電子マネー「ミャクペ!」、ポイントサービス「ミャクポ!」や「ミャクミャクリワードプログラム」などがスタートした。「ミャクペ!」は会場外でもVisaのタッチ決済やiDに対応した230万台超の決済端末で使える。会場内ではコード決済に加えて、顔情報を事前登録していると、顔認証で顔パスで買い物をするという画期的なサービスも受けられる。
「ミャクポ!」は、りそな銀行に提供いただいているポイントサービスで、すでにキャンペーンが始まっている。ポイントは、チケットやパビリオンで受けられるサービスと交換できる。NFTの「ミャクーン!」は、SBIホールディングスの提供で、万博オリジナルNFTであるSBTを獲得できる仕組みだ。
また、「ミャクミャクリワードプログラム」では、「ミャクペ!」や「ミャクポ!」の利用、万博への参加などでステータスが上昇し、それに応じた万博オリジナルの特典を受けられる。
吉田:「EXPO 2025 デジタルウォレット」は決済だけではなく、中にWeb3ウォレットが入っていて、Web3ウォレットの大規模普及につながるようなサービスになっている。万博に関わる店舗、博物館、観光施設も巻き込んで、地域の店やコミュニティにSBT会員証の発行や、関連サービスの提供などをしてもらいながら、広範囲の機運情勢を実現していきたい。
河本:連携サービスやイベントとの連携は、すでに会期前から始まっている。自治体との連携も進め、会期中や会期後にもイベントを開催するなど、さまざまなユースケースを作っていきたい。いろいろな自治体が連携を検討しているので、今後どんどん発表していきたい。
会場内では顔認証決済も可能に
吉田:ウォレットの決済部分について、磯和さんからお話をいただきたい。
磯和:「ミャクペ!」は、独自のプリペイド電子マネーだ。チャージは銀行口座やクレジットカード、「ミャクペ!ギフト」経由などで可能だ。会場内外ではコード決済(MPM方式)が使えるほか、VisaやiDでも決済できるが、ミャクペ!という決済音が聞けるのは会場内だけ。使っていくと「ミャクミャク」との記念撮影など、特別な体験ができるようになる。会場内で独自決済を使うことで、没入感を得られるイメージだ。
また、会場内では顔認証決済もできるようになる。顔認証はセキュリティを気にする方もいると思うが、あくまで本人が同意して、自ら顔情報をアップロードした場合だけ使えるようになるものだ。しかも、顔情報は国内のクラウドサーバーできちんと保管されるので、安心して使っていただければと思う。決済時にカードやスマホを出したりしなくてもいい、顔パスでモノが買えることは、今までにない感覚だと思う。ぜひ体験していただきたい。
「ミャクペ!」は万博会場外でも使えるのでチャージ残金が無駄になったりはしないし、リワードプログラムが7段階あるので、どんどん使ってもらいたい。すでに想定より多い人数にダウンロードしてもらえている。今後はUXを改善していきたい。
過去最大規模の実証実験
吉田:日本のWeb3、フィンテックは万博をきっかけに変わっていくのか。
神田:私は金融庁に2015年から2017年まで出向していたが、その頃、まさに電子マネーや日本のキャッシュレス決済を増やそうという取り組みをしていた。2015年は20%未満だったのが、2023年には39.3%まできている。電子マネーだけではなく、デビットカードやコード決済も増えている。
Eコマースや決済はもちろん、Web3、ブロックチェーン、NFT、コンテンツビジネス、エンタメ領域でも、規制緩和や制度変更が行われている。
例えば、暗号資産の税制については、ガバナンストークンの期末時価評価の見直しがあった。監査をしやすくしたり、分散型自律組織(DAO)の法制化も進めている。2023年にはステーブルコインの法制化もされた。
今年3月には、「Japan Fintech Week 2024」という1週間にわたる過去最大規模のフィンテックイベントを金融庁主催で行い、来年も開催する予定だ。大阪・関西万博は、2800万人がWeb2とWeb3のウォレットを使うという、過去最大規模の実証実験になるだろう。実験にとどまらず、その後の生活にもWeb3ウォレットが入り込み、広がっていくという世界観になってほしい。
またNFTは、地方創生にも親和性が深いと思う。Web3ウォレットも含め、地方・地域の課題を解決する方向に向かってほしい。大事なのはセキュリティ認証をきちんとして、安全安心で使えるというところだ。これを大阪・関西万博で実証していただきたい。
大企業とスタートアップが連携
吉田:最後に、会場へのメッセージと万博に向けた期待を話してほしい。
河本:今回の万博はもちろん大阪・関西が中心となるものだが、正式名称は「2025年日本国際博覧会」なので、日本全国の人たちに盛り上がっていただきたい。全国自治体との観光連携や、新規事業のきっかけになってほしい。万博のデジタルウォレットがきっかけになって、日本のWeb3サービスのユースケースが増えることを期待している。
磯和:我々SMBCグループはOliveを中心にして金融サービスのデジタル化に取り組んでおり、スタートアップと組んだ新しいビジネスも多い。私の下にも8社、合弁会社を作っている。もし皆さんの中に、組みたいという人がいれば連絡してほしい。
神田:実は、私も河本さんも磯和さんも同じ大学の出身で、同時期に体育会系のスポーツをやっていた。河本さんとは陸上部で先輩後輩だ。キャッシュはレスだけれども、体育会系的な情熱を我々みんなが持っている。皆さんもパッションを持って、大阪・関西万博に向かっていただきたい。
吉田:我々HashPortもスタートアップとして万博に関わっており、今回の万博は大企業とスタートアップが協力して進めているのが大きな特徴だ。エキスポウォレットをきっかけに、来場者ともコラボレーションしていけたらと思う。
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なお、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenue株式会社は、7月5日・6日に一般社団法人JapanBlockchainWeekと「JBW Summit at IVS Crypto」を共催。また、7月31日まで続く「Japan Blockchain Week」のメイン・メディアパートナーを務める。
|文:渡辺一樹
|編集:増田隆幸
|画像:CoinDesk JAPAN編集部