2020年はプルーフ・オブ・ステーク(PoS)ブロックチェーンがついに出現する年になる。たぶん。
業界で最も期待されている2つのPoSネットワーク、イーサリアム(ethereum)とカルダノ(Cardano)は第1四半期に(再)ローンチする予定。
時価総額で世界第2位のブロックチェーン・プラットフォームであるイーサリアムは、2014年以来、PoSへの移行を目指している。共同設立者ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏は、PoSをイーサリアム完成への鍵と見ている。
「イーサリアム1.0は、世界規模のコンピューターを構築しようとする数人の断片的な試み、だが(PoSに基づく)イーサリアム2.0は、実際に世界規模のコンピューターとなるだろう」と同氏は述べた。
概念的には、PoSは2012年頃から存在している。だがこれまでのところ、イオス(EOS)、テゾス(Tezos)、コスモス(Cosmos)などのブロックチェーン・プラットフォームでのPoSの適用は、その利用状況や市場価値の点で、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)プラットフォームを上回ることが証明されていない(例えば、ビットコイン、イーサリアム)。
PoSでは、バリデーター(検証者)は、検証する通貨を所有しなければならない。つまり「フォージャー(通貨の生成者)」は、常に生成されたコインを所有する。PoSにはマイニングは存在しない。つまり計算問題を解くために莫大な電力を使うことはない。
PoS支持者は、PoSは従来のPoWブロックチェーン・システムよりも、よりスケーラブル、持続可能で、安全なものになると主張している。だが、その比較優位性と、ガバナンスが機能するかどうかについてはまだ結論は出ていない。
カルダノは、新しいPoSシステムをローンチするのではなく、既存のPoSプラットフォームをパブリック・ネットワークとしてアップグレードしようとしている。
時価総額で12番目に大きな仮想通貨であるカルダノは、現在、カルダノ財団(Cardano Foundation)、インプットアウトプット香港(IOHK)、エマーゴ(Emurgo)の3つの組織からなるトランザクション・バリデーターの連合システムによって運営されている。この構造は権限が過度に集中しているとの批判を招いた。
IOHKのCEOチャールズ・ホスキンソン(Charles Hoskinson)氏は、パブリックネットワークではビットコインやイーサリアムなどのPoWシステムと比較して、100倍のユーザーがソフトウエアを実行できるようになるとインタビューで語った。
「これは(カルダノ)プロトコルを完全にコミュニティに渡すための出発点になる」とホスキンソン氏は「シェリー(Shelley)」と呼ばれる来年のネットワーク・アップグレードについて述べた。
マルチブロックチェーン・ステーキングサービス提供企業Stakedの創設者兼CEO、ティム・オギルビエ(Tim Ogilvie)氏は、2019年はすでにPoSにとって重要な年と述べた。
「何百万ドルものPoS資産を問題なく、何十億ドルもの電力コストをかけずに運用できる」と同氏はCoinDeskに語った。
「すぐに、カルダノやイーサリアムのようなビッグプロジェクトがこうした結果をさらに発展させていく姿を見ることになるだろう。我々は確かに興奮している」
さらにオギルビエ氏は次のように述べた。
「我々が“大きな市場規模のPoSコイン”と呼ぶものが恐らく5~6種類あり、カルダノはその1つ。それが我々がこのビジネスに参入した理由だ。これらの大規模でエキサイティングなプロジェクトは、イーサリアムのようにPoSに移行するか、カルダノのようにPoSでローンチするかのどちらかだ」
テストケースとしてのカルダノ
カルダノは、世界中のユーザーを対象としたPoSシステムの実行可能性についての実行中のテストケース。自身もイーサリアムの最初の共同設立者の1人であるホスキンソン氏は、過去2年間の「研究とエンジニアリング」がすべてここにつながっていると述べた。
PoWのように外部の計算コストとネットワークに電力を供給するエネルギーに依存するのではなく、PoSシステムは、内部のインセンティブ・メカニズムを使ってユーザーの参加を促す。
PoSブロックチェーンをスムーズかつ安全に運用するために、ネットワーク報酬とペナルティを適切な量に調整するには、何年もの学術的な研究が必要とホスキンソン氏は述べた。
カルダノの長いロードマップについて、パブリックPoSブロックチェーン、テゾス(Tezos)の共同クリエイターであるキャサリン・ブレイトマン(Kathleen Breitman)氏は次のように語った。
「PoSネットワークの進化を見ることは、実際のところ、極めて無粋で、不快なものであると言える。(中略)PoSネットワークへの切り替え、あるいはPoSネットワークのローンチは極めて困難な作業。その理由は、他のいかなることよりも、はるかに多くの調整コストが存在するから。簡単な作業ではない」
シェリー・アップグレードのすぐ後、カルダノは分散アプリケーションを機能的に可能にするスマートコントラクトを追加する計画だ[同社はこの開発フェーズを「ゴーゲン(Goguen)」と呼んでいる]。それに続いて、毎秒1万以上のトランザクションを可能にするスケーラビリティの向上が予定されている[こちらは「バショー(Basho)」と呼ばれている]。一方、イーサリアムは現在、毎秒約15トランザクションを処理している。
シェリーからバショーまでのカルダノ・プラットフォームのフル開発と、オンチェーン・ガバナンスに特化した「Voltaire(ボルテール)」と呼ばれる追加フェーズは、2020年末までに完了する予定だ。
課題
カルダノは2017年はじめにICOで6300万ドルを調達した。その後の2018年、IOHKはカルダノ・ブロックチェーンのための新しい企業の買収と政府とのパートナーシップで「9ケタ」の収益を上げたとホスキンソン氏はCoinDeskに語った。スニーカーメーカー、ニューバランス(New Balance)との直近の提携は9月に開催されたカルダノ・サミットで発表された。
ホスキンソン氏は常に移動しており、各地、各プロジェクトの間を飛行機で飛びまわっている。ホスキンソン氏は、年に200~250日、出張していると語った。ゴーゲン、シェリー、バショーと同様に、彼の会社IOHKも企業向けブロックチェーン・ソリューション(Atala)を開発している。ホスキンソン氏は、大部分の仮想通貨の幹部たちよりも発展途上国に重点を置き、モンゴル、ルワンダ、エチオピアなどでパイロットプロジェクトを行っている。
ホスキンソン氏は、2015年には2人だったチームを成長させ、今では200の請負業者と従業員を世界中に抱えるまでになった。ホスキンソン氏は、IOHKは全カルダノプロジェクトを完成させるための技術的ノウハウを蓄積したと確信している。
イーサリアム・クラシック・コーオペレイティブ(Ethereum Classic Cooperative)のエグゼクティブ・ディレクター、ボブ・サマーウィル(Bob Summerwill)氏は、そのチームをアカデミックな相互評価に重点を置いた「世界的な開発チーム」と呼んだ。
ブテリン氏とホスキンソン氏はそれぞれのPoSプロジェクトの詳細について論争しているが、サマーウィル氏は、2人の個人的なライバル関係が基本的な類似点を覆い隠しているものの、カルダノとイーサリアムは「多くの共通した遺伝的特徴を持つ兄弟プロジェクト」とCoinDeskに述べた。
技術的な問題と同様に、ホスキンソン氏はプロジェクトパートナーとうまくやっていかなければならない。だが、それは彼がいつも得意だったことではない。
ホスキンソン氏は2014年6月までイーサリアム設立チームのオリジナルメンバーだったが、プロジェクトからの離脱を求められた。ホスキンソン氏はイーサリアムに企業構造を望み、ブテリン氏は財団構造を好んだ。
ホスキンソン氏はまた、カルダノ財団からも抜けている。同財団はブロックチェーン構築の最初の5年契約の一環として設立され、2015年に日本のビジネスマングループと契約を結んだ。
この独立した非営利団体は2018年までコミュニティの成長をマネジメントする予定だったが、ホスキンソン氏との間で権力争いが起こり、ホスキンソン氏のビジネスパートナーの中からリーダーを受け入れることになった。
ホスキンソン氏が成功した際には、彼はおそらくかなりの期間、皆をハッピーにしておく必要があるだろう。このような複雑な一連のプロジェクトを成功させ、PoSを機能させ、ガバナンスの課題を解決するには、おそらく何年もかかるだろう。2020年はただの始まりにすぎない。
ホスキンソン氏自身、次のように語っている。
「まだ非常に初期の段階」
協力:リー・クエン(Leigh Cuen)
翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸
写真:Charles Hoskinson image via Twitter
原文:From Cardano to Ethereum, 2020 Could Be Deciding Year for Proof-of-Stake