「ビットコインはますます当たり前のものになっていくと確信しています」
公的機関のベテラン銀行員から聞ける言葉としては典型的なものではない。しかし、一部国有であり公的なフランスの投資銀行、BPIフランス(Bpifrance)のヴェロニク・ジャック(Veronique Jacq)氏は、ビットコインは世界経済で重要な存在になりつつあるとCoinDeskに語った。
BPIフランスはビットコインのインフラを作る上で積極的な役割を担いたいと望んでおり、そのため仮想通貨のスタートアップに初めての投資を行った。
ライトニングを専門に扱うスタートアップ、ACINQ 社は、Idinvest Partners主導で、セリーナ(Serena)とBPIフランスが参加したシリーズAにおいて800万ドル(約8.6億円)を調達した。Idinvest Partnersの代表取締役、ニコラス・デボック(Nicolas Debock)氏は、これはIdinvest Partnersにとっても初のビットコイン企業への出資だという。
「ビットコイン関連企業の検討を続ける中で、セカンドレイヤーの機会は大きいものであり、確実に、今後更に注目していくべきと考えました」とデボック氏は述べる。加えて、以下のように続けた。
「デジタル経済を志向するのであれば、まず強力で安全なインフラを作る必要があります。(ACINQについて)私がとても気に入っている点は、彼らは付け焼刃なプロダクトを急いでローンチしようとしていないところです」
デボック氏の見解では、ビットコイン経済への初期の投資の波は、マイニング企業、次に取引所とウォレット提供会社へと変わっていった。しかしIdinvest社のような伝統的な企業は、依然として未成熟な市場と不透明な規制環境の不安定な気まぐれさに晒されるプロジェクトで大きなリターンを得ることを必要とされる「タイミングのゲーム」を警戒していた。
対照的に、長期的にアプリケーションのレイヤーに焦点を当てている企業への投資は、より良い機会があると同氏は述べる。
「もしライトニングがその見込み通りにいけば、多くの取引を仲介することになります」とデボック氏は語る。「多くの取引を手掛ければ、お金を生み出す方法は常に見つかります」
ジャック氏はACINQのビジネスモデルが未だ明確でないことは認めているが、それでも同社がライトニングネットワーク・プロトコルの主要なスタートアップの一つだと考えている。
「ライトニングネットワークは将来大きなボリュームの取引が生じうる際にそこに存在するもので、その取引を可能にするインフラと共に、我々もそこにいたいのです」
記者会見において、セリーナのパートナーであるカメル・ゼルーアル(Kamel Zeroual)氏は、同じく政府系銀行がビットコイン・エコシステムのレイヤー開発に投資したがる理由を説明した。
「通貨戦争とマイナス金利という文脈で、ビットコインの提供価値、すなわちプロトコルに発行ポリシーを持つ、自由で独立した通貨を無視することは不可能です」
ダークホース
ACINQのCEO、ピエール・マリー・パディオ(Pierre-Marie Padiou)氏はこのシリーズAで合計1000万ドル(約10億円)を調達しており、チームが現在の6名から来年は倍増するような成長を遂げるために用いるとCoinDeskに語った。
「採用する人材にはとてもこだわっています。適切なスキルをもつ人材を見つけるのはとても難しいのです」パディオ氏はCoinDeskに語った。「人材は探しています。しかし、時間がかかるでしょう」
振り返ればACINQは長いことライトニング・スタートアップの三つ巴の中でも目立たない一社であった。コミュニティ開発の多くはシリコンバレーのライトニングラボ(Lightning Labs)とブロックストリーム(Blockstream)が中心だったからだ。しかしACINQには独自のライトニング実装である「Eclair」とEclairのモバイルウォレットに加え、ライトニング用のAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)の「Strike」がある。パディオ氏はStrikeを商業決済プロセス提供会社のストライプ(Stripe)になぞらえる。またEclairのライトニング・ウォレットは2018年のローンチ以来、グーグルプレイ(Google Play)経由で15,000ダウンロードされているという。
これまでACINQはネットワーク上で最大容量のライトニング・ノードを運用しており、千以上のチャンネルをサポートしている。ブロックストリームのエンジニアであるラスティ・ラッセル(Rusty Russell)氏は、ネットワークがどのように進化するかは不確かであるため、このような様々な実装はエンドユーザーの利益になるとCoinDeskに語った。
「これまでオープンソース・プロジェクトであるLinuxで自分のキャリアを構築したので、今度はビットコインに活動の場を求めました。あの旅で我々が学んだのは、向かっていると思った場所に行くわけではないということです」ラッセル氏はそう語り、以下のように続けた。
「自分達がどこに向かっているのか分からないので、実験するほど楽しいのです。私に言わせると、(ACINQは)標準化プロセスを支援しています。彼らは全く対等なパートナーです。彼らのスタイルは派手でなく、しかしこの分野の主要プレイヤーであり続けており、私は素晴らしいものが生まれることを期待しています」
モバイルと決済
ACINQに関しては、モバイル機器と決済に注力しているとパディオ氏は語っている。
「プロトコルは同じかもしれないが、最適化したいと考えているものに対して別の見方を持っているため、重要なのです」と彼は語る。「誰でも自分のニーズに合うソフトウェアを作ることができます」
Idinvestのデボック氏は、ライトニングがビットコインの持つ潜在性の「より広範なアプリケーション」であり、より伝統的な株式取引の機が熟していると見ることが出来ると語った。
ACINQのエンジニア、バスティン・タンチュリエ(Bastien Teinturier)氏は仮想通貨の輪を超えて投資家を求めることは、業界全体に利益をもたらしうるとCoinDeskに語った。
「BPIフランスの出資はより大きな変化の現れです。公的機関がこの技術の重要性と将来の適切さを認めているのです」と同氏は語る。「彼らは中止させるつもりも、無視するつもりもないのです。理解し、場合によっては共にやっていきたいのです」
タンチュリエ氏はブロックストリームやライトニングラボのチームによる、スラック・チャンネルコニュニティーの運営やライブ・デモにカンファレンスといった世間への露出に対して感謝を示したが、自らのチームについては近い将来のメディア露出は最小限にする意向だ。
「あなたのおばあさんでも使えるような、個人向けの信頼性のある即時決済の素晴らしいUXを提供できるようにしたいのです」とタンチュリエ氏は語り、加えて以下のように続けた。
「我々はまだ道半ばなので、それについて話をすることに時間を費やすよりも、その約束を確実に果たせるようにしたいのです」
翻訳:下和田 里咲
編集:T.Minamoto
写真:ACINQ CEO Pierre-Marie Padiou image via YouTube
原文:State-Owned French Bank Joins Bitcoin Startup’s $8 Million Series A