時価総額がビットコインに次ぐ仮想通貨「イーサリアム」。その開発者会議「デブコン5」が2019年10月11日、閉幕した。日本では初開催となったデブコンには、大阪で8日から開かれており、世界中から3000人以上が詰めかけ、技術の未来について語りあった。
メインテーマはイーサリアム2.0、レイヤー2など先端技術の話題
会場は大阪南港のATCホール。参加者はTシャツやタオルなどの特典をもらえるが、“イーサリアムらしい”特典として、ノン・ファンジブル・トークン(NFT)ももらえた。イーサリアム・ブロックチェーンに刻まれ、デブコン5に参加した証として固有の価値を持つという。
会場では大小さまざまなセッションが開かれた。最大のテーマは、イーサリアムのアップグレード版「イーサリアム2.0」だ。新たにビーコンチェーンを付け加え、PoSに移行しファイナリティも付与する。そのステーキング手法やスケーラビリティを解決する種々の技術、他のブロックチェーンとの相互運用性などが話し合われた。
オープンソースの開発者が集まったこともあり、雰囲気は開放的。セッションでは質疑応答が飛び交った。イーサリアム考案者のヴィタリック・ブテリン氏など、著名な開発者もいたるところで見かけた。話しかければ即座に議論が始まっていた。
ブテリン氏は講演で、クリプトエコノミクス(暗号経済学)について話した。クリプトエコノミクスとは、インセンティブ設計によりシステムを自律的に維持させる議論のことで、同氏は「(ビットコインを作った)サトシはクリプトエコノミクスを発明した」と強調し、イーサリアムに活かそうと呼びかけた。
ブロックチェーンと社会の関わりについての講演も。イーサリアム財団リサーチャーのヴラド・ザムフィア氏はブロックチェーンのイノベーションと法秩序について話し、調和がなければ無秩序になりうるなどと警鐘を鳴らした。
台湾のデジタル担当政務委員(日本でいう大臣)のオードリー・タン(唐鳳)氏も講演、IT機器を使いこなしながら、なぜ台湾が新しい技術の導入ができるかなどについて説明した。日本の情報通信技術(IT)政策担当大臣についての見解にを聞かれると「(台湾と日本を)比較するのはフェアではない」として回答を避けた。
日本の開発勢も注目を浴びる
日本勢の開発勢も発表し、繰り返し言及されるなど注目された企業も。ブロックチェーンの研究開発を行うレイヤーXの中村龍矢氏は、イーサリアムで将来的に導入が期待されるコンセンサス・アルゴリズム「CBC キャスパー」に関する発表を行った。同社は日本で初めてイーサリアム財団からの助成プログラムに採択され、デブコンでも財団のコアリサーチャーなどから言及された。同社の須藤欧佑氏は、プライバシーを保護したトランザクションを行える「ゼロチェーン」について発表した。
スケーラビリティ問題を解決する研究開発を行うクリプトエコノミクスラボの部谷修平氏らは、ブロックチェーンの外で処理を行うレイヤー2技術の開発に貢献、デブコン5でも同社の西島ゆり子氏がプレゼンテーションした。
また、イーサリアムを用いたブログサービスを提供するアリスの安昌浩氏と石井壮太氏は、慶應義塾大学の坂井豊貴教授とともに取り組んできた新たな投票の仕組み「マジョリティ・ジャッジメント」などについて講演した。
このほか付帯イベントも多く開かれ、(開催前に売り切れていた)デブコンのチケットが取れなくても、技術者に実際に会って議論することができた。
禅の体験会、デジタル盆踊りも
日本では初めての開催だけあって、“日本らしい”イベントも行われた。
たとえば最終日には、休憩ルームで禅体験会が開かれた。禅僧が英語で禅を行い、意義について「瞑想は呼吸だと言われることが多いけれど、違います。重力を知ることです。あなたの身体を知ることです」などと説明。外国から訪れた開発者ら参加者は興味深そうに体験していた。
また2日目のキーノート講演を前には和太鼓の演奏が披露された。パフォーマンスが盛り上がるたび、会場から指笛が響きわたっていた。
そして4日間を締めくくったのは、デジタル盆踊り。各人が思い思いに写真を撮ったり、踊りに加わったり。ブロックチェーンという革新的な技術と、盆踊りという日本の伝統が溶け合った演出だった。
文・写真:小西雄志
編集:濱田 優