- 医療機器メーカーのセムラー・サイエンティフィック(Semler Scientific)が保有する現金をビットコインに変える決断を下したのは、エリック・セムラー(Eric Semler)氏が2023年4月に積極的な投資家となってから1年余り後のことだった。
- セムラー氏は、同氏と取締役会はビットコイン投資戦略を採用したマイクロストラテジー(MicroStrategy)の成功を研究したと述べた。
- セムラー・サイエンティフィックはその後、6000万ドル(約88億円、1ドル147円換算)以上を投じてビットコインを購入、増資がSEC(米証券取引委員会)に承認され次第、さらに購入する予定だ。
朝鮮戦争で飛行外科医として従軍した後、ポートランドの病院で循環器内科を率いた医師のハーバート・セムラー(Herbert Semler)氏が、2007年にセムラー・サイエンティフィックを共同設立したのは、ビットコインが誕生する2年以上前のことだった。
それから17年後、同社は保有する現金の多くをビットコイン(BTC)に変え、さらに多くのビットコインを購入することを目指している。
「彼はとても興奮していた」と、同社会長でハーバート・セムラー氏の息子であるエリック・セムラー氏は、この新しい投資戦略に対する父親の反応について語った。
ハーバート氏の父、エリック氏にとっては祖父であるハリー・セムラー(Harry Semler)氏はかつて、金を素晴らしい投資対象と考えていたため、同社が「新しい金」に投資するのを見れば喜んだろうとエリック・セムラー氏は語った。
96歳近くになるハーバート氏はすでに引退しており、セムラー・サイエンティフィックにはもう関わっていない。エリック氏でさえ、2023年4月に会社のガバナンス問題をきっかけに、より積極的な役割を果たすようになるまで、同社の受動的な投資家でしかなかった。
エリック・セムラー氏が積極に関わるようになって以来、多くのことが変わった。特に今年5月に発表された、財務戦略としてビットコインを採用するという会社の決定がそうだ。
揺るぎない信念
セムラー社は、マイクロストラテジーに倣おうとしている。マイクロストラテジーは、マイケル・セイラー氏のリーダーシップのもと、保有する現金をビットコインに変え始め、現在では約140億ドル相当のビットコインを保有していることで知られている。
「マイケル・セイラー氏の、小規模で株式市場で注目されていない、大量の現金を持つゾンビ企業についてのコメントが、我々取締役全員の心に響いた」とセムラー氏。そこで彼らは、マイクロストラテジーの成功を研究し、その戦略を採用することに価値を見出した。
セムラー・サイエンティフィックは、同社の第2四半期決算報告書によると、これまでに929ビットコインを総額6300万ドル、平均価格で6万8000ドル弱で購入している。
最近の約5万7000ドルへの価格下落により、保有資産の価値は約1000万ドル切り下げられたが、それでも取締役会の確信は変わらないとセムラー氏は述べた。
「何かを強く信じているとき、信念を持っているときは、自分に不利になるようなことがあっても、買い進めなければならない。信念が究極的に試されるのは、20%も割高のときに買って、今は値下がりしているものを買うかどうかだと思う」
さらにセイラー氏の戦略から学び、セムラー氏は資本市場で資金を調達し、はるかに大量のビットコインを購入しようと動いている。同社は6月上旬に1億5000万ドルのミックス・シェルフ・オファリング(資金調達のために、複数の種類の証券を登録し、必要に応じて発行する手法)を申請し、現在SECの承認を待っている。
マイクロストラテジーのような資金調達のベテラン企業は通常、すぐにSECから承認を受けるが、セムラー・サイエンティフィックは小規模な会社であり、この種の調達は初めてのため、承認に時間がかかっている。
初期からの信者
1998年からプロ投資家として活動してきたセムラー氏は、ビットコインが誕生してまもない時期にビットコイン起業家と出会い、2016年から個人的に購入を始めた。自らの投資の焦点は常に将来のトレンドにあり、スモールキャップからラージキャップになる可能性のある銘柄や企業を探すのが好きだとセムラー氏は語る。
「ビットコインはそのカテゴリーに当てはまる」と語るセムラー氏は近年、ビットコインが持続力を見せていることに気づいた。特に2023年に銀行取り付け騒ぎに屈した3つの金融機関のうちの1つであるシリコンバレー銀行が破綻した際に、同氏はそれを実感した。この3行はいずれも暗号資産(仮想通貨)企業に銀行サービスを提供しており、その結果、業界の不確実性が増した。
「その危機を乗り越えたビットコインの耐久力に感銘を受け、ビットコインについての私の考え方は影響を受けた」とセムラー氏は振り返る。
ビットコインを準備資産として使うという最終的な決断は、単純にビジネス上の動きだったとセムラー氏は説明する。同社はバランスシートに潤沢なフリーキャッシュを持ち、毎年プラスのキャッシュフローを生み出していた。そのためセムラー氏は、自分の会社がウォール街から正当に評価されていないと考えていた。
「どうすれば株主価値を提供できるかを真剣に考えた結果だった」と、セムラー氏は語った。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Semler Scientific Studied MicroStrategy’s Success Before Adopting Bitcoin Strategy