Japan Open Chainは7月29日、24日〜30日まで東京で開催のイーサリアム開発会議「EDCON 2024」にあわせて、「web3 Summer Summit 2024 in TOKYO」を開催。衆議院議員 内閣府大臣政務官の神田潤一議員、金融庁総合政策局イノベーション推進室長/チーフフィンテックオフィサーの牛田遼介氏、Japan Open Chainファウンダーの近藤秀和氏が「日本のWeb3の未来 ~既存金融とWeb3の融合~」と題してパネルディスカッションを行った。なお、モデレーターは、N.Avenue代表取締役社長の神本侑季が務めた。
──大臣政務官と金融庁が一緒のパネルディスカッションはかなり珍しい。まず神田議員にWeb3が今、政策的にどのようなポジションにあり、どのように進んでいくのか。現在地を教えていただきたい。
神田:私がこの分野に携わり始めたのが、まさに2015年に日銀から金融庁に出向したとき。そのときに金融庁は、キャッシュレスがどんどん進み、一方で暗号資産やブロックチェーンなどの新しい技術革新もあって、金融や決済の分野が大きく変わっていくと考えていた。また海外はフィンテック企業が既存の金融サービスをディスラプト(創造的破壊)しているが、日本は、既存の金融と新しいサービスをうまくミックスさせながら進めていくべきではないかと思っていた。そのタイミングで2016年にフィンテックサミット、いわゆるFIN/SUMがスタートした。
その後、事業会社を経て、国会議員になった直後に、ユースケースとしてNFTが登場し、日本のコンテンツビジネスや地方創生に役立てることができるということで、自民党としてプロジェクトチームを作って取り組むことになった。1年後にはさらに発展してweb3PTが誕生した。そこから今は、金融庁の大臣政務官として、自民党と連携しながらweb3を推進している。
牛田:神田政務官の何代目か後の担当としてFIN/SUMを担当したり、日本の市場の魅力発信も含めて海外でいろいろなディスカッションに参加している。海外では、伝統的な金融機関や機関投資家とWeb3の融合は間違いなく進んでいると見ている。
海外と比較すると、ひとつの違いは日本では、リテール(個人投資家)の暗号資産取引が引き続き議論の中心との印象があるが、海外では暗号資産というよりはトークナーゼーションに着目し、大手金融機関が外国為替や債券といったコアな金融取引をブロックチェーンを使ってアップデートできないかと取り組む事例が目立っている。海外のカンファレンスでパネルディスカッションに参加すると、一緒になるのがシティやJPモルガン、BNYメロンなどだ。
例えば為替取引では日本とアメリカでは時差があって、双方ともマーケットが開いている時間は6時間しかなく、流動性の分断が起きていたり、決済リスクが残っている。カンファレンスでは、そうしたことを解決するために、ブロックチェーンを使って、24時間365日決済できるようなDVPが作れないかなど、既存の金融システムが抱える課題をDLTでどうアップデートできるかという議論が多いと思う。
MAS(シンガポール金融管理局)ともよく話をするが、彼らは決済手段としての暗号資産は失敗に終わったと捉えていて、ステーブルコインやトークン化預金など、アセットのトークン化に可能性を見出している。
一方、日本ではどちらも重要と個人的には考えている。ビットコインはオープンソースで発展してきたものであり、暗号資産がなければ、既存金融で活用できるようなイノベーションは起きてこないと考えている。暗号資産も、伝統的プレーヤーの取り組みもどちらも応援していきたい。
──海外の話で言えば、今、最もホットな話題はアメリカの大統領選。この数年、日本がWeb3の取り組みで注目されたのは、FTXの破綻など、アメリカがややスローダウンしている状況があったと思う。アメリカのスタンスが変わると、どういう影響がありそうか。
牛田:金融庁職員として他国の選挙についてコメントするのは難しく、まったく個人的見解だが、報道ベースでみると、トランプ氏がビットコインカンファレンスで講演したり、超党派で法案が進んでいるなど、いずれにせよ、少し緩和的な政策になるだろう。日本にとって悪いことではないと思う。
神田:今、トランプ氏の公約を見ると、クリプトが大きな柱になっていて、CBDC(中央銀行デジタル通貨)はいらないと述べている。一方の民主党はバイデン氏からハリス氏に変わったが、トランプ氏が大胆なスタンスを打ち出している以上、逆方向に行くことはできないだろう。結局、どちらが当選しても、今よりも暗号資産にはかなりポジティブになると思っている。
その意味では、アメリカが少しスローダウンしている間に日本が先に進むというフェーズは変わり、アメリカに再び注目が集まるが、それに負けないように日本も進んでいかなければならないフェーズになっていくと思う。
近藤:私はWeb1.0の時代から仕事をし、当時は検索エンジンを開発していたが、当初、検索エンジンは著作権法に違反すると言われていた。それを思うと、Web3は、政治家の皆さんも、省庁の皆さんも詳しくて、理解がある。そこが日本のすごいところだと思っている。実務上の課題は、例えば、税制やIEOの審査など、まだいろいろあるが、一気にいろいろなことが進んだ。
神田:税制は年に1回しか変えることができない。12月に向けて、夏ぐらいから要望が出て、それを取りまとめて、優先順位をつけて財務省に提出する。大体は減税の要望が多いが、減税すると税収が減るので財務省は簡単には認めない。そこを自民党の税制調査会が中心となって財務省と調整して、落としどころを見つける。それが12月。その機会を逃すと、1年先になる。
Web3については、一昨年に自社保有の暗号資産の期末時価評価課税の問題が解決し、昨年は第三者長期保有の暗号資産も期末時価評価の対象外となった。税制を変えることは、難しいプロセスだが、Web3については2年連続で改正が実現した。実は、他の業界からは「なぜWeb3ばかり」と言われることもある。だが自民党としても、政府としても、この分野は重要であり、ボトルネックを緩和していきたい。
牛田:IEOについては、JVCEA(日本暗号資産取引業協会)でまず審査を行い、その後、金融庁・関東財務局が審査を行うプロセスになっているが、JVCEAの努力もあり、IEO以外の上場審査も含めて審査期間はかなり短縮化が図られていると考えている。
トークンのリスティングに係る制度を整えていない国も多いが、グローバルな当局間の議論でも規制の必要性が議論されている。今後は徐々に平準化が図られていくと考えており、これまでも漸次見直しを行っているが、今後も必要に応じて対応を行っていきたい。過去の例を見ると、IEO前後で大きく価格が変動した例もあり、投資家保護の視点も含めて、考えていくことが必要だと思っている。
──もう1つ、最近の話題でいうと、ETF(上場投資信託)がある。アメリカではビットコインETFに続いて、イーサリアムETFも登場した。日本は「資産運用立国」を目指すなかで、暗号資産ETFをどう捉えていくのか、実現に向けてはどのようなハードルがあるのか。
神田:答え方が難しいが、金融庁の大臣政務官ではなく、1人の政治家として答えると、前述した通り、アメリカはクリプトにかなりポジティブな方向に変わる。その意味では、暗号資産ETFの導入も進んでいくと予想できる。
では、日本は今のままで良いかというと、そうではないと個人的には思っている。個人の資産形成を政府は今、あと押ししているが、その資産の中に暗号資産は入っていない。だから税制も分離課税ではなく、雑収入となって最大55%の課税となっている。
だが今後、Web3のユースケースが広がり、ビットコインやイーサリアムなどを保有して、資産形成に結びつけていきたいというニーズは強まっていくと考えている。どこかの段階で、暗号資産の中でも比較的安定感があり、信用度が高いものについては、資産形成の手段として認めていくことを検討しなければならないだろう。
近藤:資産形成の観点から見ると、IEO後に価格が下落している例があるとの指摘があったが、IEOは株式と違い、IEOした時点では、IEOした取引所でしか取引できない。IEOに参加した人は売却を狙うので、どうしても売りが優勢になって価格が下がるという構造的な問題があると考えている。株式と違い、トークンの世界は世界中の投資家が取引できる環境が作りやすい。日本に世界中から投資を呼び込むような施策が推進できると良いのではないか。
神田:今日の議論で感じていただけたかもしれないが、金融庁としても、自民党としても、Web3やブロックチェーンに非常に期待している。皆さんにユースケースを作っていただき、一方で我々が規制緩和を進めていくという両輪で進めていくことが重要と考えている。
牛田:Web3、暗号資産については、さまざまなイベントが開催されているが、金融庁は来年の3月3~7日にFIM/SUMも含めたJapan Fintech Week 2025の開催を予定している。この機会にもさまざまな議論ができればと考えている。
近藤:Web3業界は、官民が連携して推進している稀有な業界であり、今後、大きなインパクトを生み出す、今までになかった業界と考えている。次の新しい世の中をここにいる皆さんと作っていきたい。
|文・写真:CoinDesk JAPAN編集部