ビットコインエコノミーでは、4年ごとに半減期というストレステストが実施されるため、マイナーはコストを最小化することが求められる。マイナーは安価な電力を求めて、電力メーターを挟んで2つの戦略を取る。つまり、電力メーターの前では電力網との接続についてであり、電力メーターの後は発電所でのマイニング装置の設置(ダイレクト・コロケーション)などだ。
電力網との接続では、「規模の経済」を活用できる。大規模なマイニング事業者は、電力契約に応じて、安価な電力料金を設定することが可能なうえ、「デマンドレスポンス」や付随サービスを得ることもできる。
コロケーションモデルでは、電力の需要と供給におけるミスマッチに着目し、発電量が不安定になりがちな再生可能エネルギー(太陽光や風力など)とベースロード電源と言われる安定的な電力源(水力、原子力、地熱など)をターゲットとしている。垂直統合、提携、合弁事業などのビジネスモデルが可能で、マイナーはエネルギー裁定取引や再生可能エネルギー証書(REC)の発行が可能になる。
コモディティとしてのハッシュレート
ビットコインネットワークを支える計算能力であるハッシュレートは、興味深く、ユニークな投資対象商品として台頭している。代替性、分割性、耐久性、希少性は、魅力的な資産クラスとなっている。
ハッシュレートは、ハードウェアを所有することなく、ビットコインマイニングに参加できる投資機会を個人に提供する。さらに、デリバティブ商品により価格変動に対するヘッジが可能となり、マイナーや投資家にとってはリスク管理ツールとなる。ハッシュレートの価値は、ビットコインマイニングの需要に左右され、ビットコインの価格やマイニングの収益性にも影響を受けるが、規制上の問題にも影響を受ける。
こうした課題はあるものの、ビットコインのハッシュレートは、ユニークな投資機会と取引機会を提供する新しいコモディティとして注目されている。ビットコインのエコシステムが進化するにつれ、取引可能な資産としてのハッシュレートの役割と重要性は拡大し、資本市場におけるさらなる注目とイノベーションを誘発する可能性がある。
ハッシュ価格 vs ハッシュコスト
ハッシュ価格とハッシュコストは、ビットコインマイニングに影響を与える重要な指標だ。混同されることが多いが、これらはマイニングの収益性の異なる側面を表している。
ハッシュ価格は、ハッシュパワーの単位あたりの価格であり、マイニング能力の現在の市場価値を反映している。1日あたりのマイニング収益の総額をネットワークハッシュレートで割ることで算出される。ハッシュ価格が高いほど、マイナーにとっては収益性が高いことになる。
ハッシュコストは、ハッシュパワーを生成するためのコストであり、電気代、ハードウェア、メンテナンスなどの費用を含む。ハッシュコストが低いほど、マイニングは効率的で収益性が高いことを意味する。
ハッシュ価格とハッシュコストの差額がマイニングの収益性を左右する。ハッシュ価格がハッシュコストを上回ると、マイナーは利益を得る。逆にハッシュコストがハッシュ価格を上回ると採掘者は損失を被る。ハッシュ価格が高ければ、より多くのマイナーが参入して競争が激化し、ハッシュ価格が下落する可能性がある。逆にハッシュ価格が低ければ、マイナーが減少してネットワークハッシュレートが低下し、ハッシュ価格が上昇する可能性がある。
ASIC(いわゆるマイニング機器)の入手可能性もハッシュ価格とハッシュコストに影響を与える。マイニング機器と電力価格がハッシュパワーを左右し、マイニング難易度に影響する。ASICが容易に入手できない場合、ハッシュパワーは価値が高くなり、ハッシュ価格とハッシュコストの差は拡大してマイナーにとっては有益な機会となるはずだ。
ハッシュ価格とハッシュコストの関係を理解することは、マイナーが情報に基づいた決定を行ううえで極めて重要だ。ハッシュ価格とハッシュコストの差は、マイナーの資金調達能力にも影響を与える。マイナーは収益性を高めるためにハッシュコストの削減を目指しており、それが資金調達能力に影響を与える。
ハッシュ価格とハッシュコストの差が小さいと、マイナーはエネルギーコストやマイニング難易度といったビットコイン価格に起因する影響を受けやすくなる。逆に、差が大きいと回復力を持ち得る。融資リスクを評価する貸し手は、この差を精査し、低リスクのリターンを好むため、資金を必要とする非効率的なマイナーに圧力をかける。
例えば、最近ビットコインでNFTを作成する方法としてリリースされたルーンズ(Runes)は、一時的にビットコインのブロックスペース需要を増加させ、取引手数料の高騰と検証の遅延を招いた。この間、ハッシュ価格先物は現物価格を上回る価格で取引され、市場は将来のブロックスペース需要が高まる可能性が高いことを示唆していた。
この状況から、ビットコインマイナーはハッシュ価格先物を売却し、将来の収益を確保した。これは、半減期後にブロックスペース需要が冷え込んだため、賢明な判断だったことが証明された。ハッシュレートに連動する商品が利用可能になったことで、ブロックスペース需要と取引手数料に与える将来の影響を予測するための、多くの財務データが提供されるようになっている。
|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:発電所に設置されたマイニング装置(Greenidge Generation)
|原文:The Coming Financialization of Hashrate Markets