デジタル資産市場向けのローン管理ソフトウェアを提供するMembraneのプロダクト責任者、クレイグ・バーチョール(Craig Birchall)氏は、法人向け暗号資産(仮想通貨)レンディング市場の回復を、革新的な構造、魅力的な利回り、および更に強力なリスク管理能力が牽引していると述べる。
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2022年、暗号資産レンディング市場は、ルナ(LUNA)およびテラUSD(UST)の暴落、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)の破産、FTXの破産など、一連の壊滅的な出来事の後に崩壊した。レンディング市場の取引高のかなりのシェアを誇っていた主要レンディング企業のブロックファイ(BlockFi)、セルシウス(Celsius)、ボイジャー(Voyager)、ジェネシス(Genesis)などは、その後、閉鎖を余儀なくされた。しかし、市場内に存在する多くの問題が明らかになり、次のサイクルでより健全なエコシステムを構築するうえで青写真が示されたことは、この間に生じた数少ない明るい兆しの1つであった。
暗号資産レンディング市場は、暗号資産の異常なリターンと長年の低金利環境の中で、2021年から2022年にピークに達した。強気相場ではローンの不履行は珍しく、投資家は売上高の成長を強く求めているため、暗号資産レンディング企業の多くにとって、リスクプライシングとポートフォリオの健全性は二の次であり、絶対的な利回りを競う環境になっていると認識していた。
構造や条件に対する競争圧力の高まりにより、無担保融資の急増、引受・デューデリジェンス基準の緩和、高利回りのDeFi(分散型金融)戦略への割り当ての増加につながった。この高レバレッジ環境は、複数の悪い要因によってすべてが崩壊した際、火種となった。
回復の兆し
2年後、市場は大きく様変わりし、ようやく回復の強い兆しが見え始めている。 1月に米国でビットコインETF(上場投資信託)が発売されたこともあって、法人向けレンディングサービスは2024年に急速な拡大を遂げている。公表データから、その例をいくつか紹介しよう。
- コインベース・プライム(Coinbase Prime)の融資事業は、2024年第1四半期のローン総額が3億9900万ドル(約583億円、1ドル146円換算)から7億ドル(約1020億円)へと前四半期比75%増加した。
- 暗号資産レンディング・プラットフォームのLednは、2024年第1四半期の法人向けローンが5億8400万ドル(約852億円)、前四半期比400%増加した。
- ローン関連のテクノロジー・プロバイダーのMembrane(筆者の所属先)は、2024年上半期のローンが2023年全体の3倍になった。
リスク管理の実践
レンディング事業者はリスク管理を重視しており、損失を出さず、取引相手の信頼を維持することに注力している。2021年とはまったく対照的に、詳細なデューデリジェンスと資産の検証は、現在では初期に行う標準的な手続きとなっている。
融資の中では「過剰担保型」が主流となっており、多くの借り手は担保を三者間取引として、カストディアンに預けることを求めている。市場シェアがはるかに小さい無担保融資は、現在では一般的に十分な資本を持つ特定の借り手に限定されており、しばしば構造的な保護措置や継続的な監督要件が含まれている。
透明性も重視な要素となっている。つまり、多くのレンディング企業とその資本提供者は、借り手の融資の使用状況を監督するための可視性を求めているからだ。一方、借り手は担保が保管されているウォレットへの継続的な監視を求めている。
新規参入者と革新的なテクノロジー
市場に参入する新規レンディング企業の増加は、2021年以降、これまでで最大規模となる可能性がある。シグナム(Sygnum)、Amina、Dukascopyなどのスイスの銀行が市場に参入している。またキャンター・フィッツジェラルド(Cantor Fitzgerald)が20億ドル(約2900億円)の資本金で新しくビットコインファイナンス事業を発表したのを筆頭に、従来の金融市場から大手金融機関もこの分野に参入している。これらの新規参入者は、より広範な取引コミュニティおよび暗号資産の既存レンディング企業の両方に資本を供給し、最終的にはより堅牢で流動性の高い市場を牽引している。
ビットゴー(BitGo)や Copperなどの大手カストディアンはプライムファイナンス事業に注力しており、多くの新しいクレジットファンドがアジア太平洋地域で立ち上げられ、いくつかのETF発行者は資産を配分して、利回りを生み出す方法を積極的に模索している。
ローンおよび担保管理のためのツールの改善により、これらレンディング企業の多くはリスクを軽減し、商品提供を拡大できた。その代表例が、レンディング・プラットフォームのトライデント・デジタル(Trident Digital)。同社は、取引所から資金を引き出すことなくトレーディング企業にレバレッジを提供するための商品を組成し、常に過剰担保の状態を維持しながら、トレーダーに資本効率のメリットを提供している。
より効率的なリスクベースのマージン機能から融資の使途の可視性まで、金融機関は、カウンターパーティリスクを軽減し、新しい相手との取引に対する信頼を高めるために、より幅広くツールを利用できるようになった。
暗号資産による資金調達の持続可能性と継続的な成長は、イノベーションとリスク管理のバランスにかかっている。透明性、安全性、効率性に優れたレンディング・サービスを提供するツール、そして慎重なリスク管理の実施は、堅牢で効率的な暗号資産レンディング市場の構築には不可欠だ。
|翻訳・編集:T.Minamoto
|画像:Shutterstock
|原文:After 2022’s Bust, Scars Are Healing In Crypto Lending