マイニング企業、戦略の分かれ目──AIに賭けるか、市場シェア追求か
  • 純粋なマイニング企業が市場シェアを拡大​​しているにもかかわらず、投資家は人工知能(AI)や ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)データセンターに多角化したマイニング企業にプレミアムを支払い続けている。
  • マラソン(Marathon)、ライオット(Riot)、クリーンスパーク(CleanSpark)はいずれも、9 月の生産量が 8 月より増加した。
  • マラソンは、4 月の半減期以降、9 月に最も多くのビットコインを生みだした。

ビットコイン(BTC)のマイナーは、利益が乏しいこの時代に、極めて奇妙な脅威に直面している。AIやHPCを推進する方向転換をして株価が急騰するのを見るか、元々の領域に留まって支配的な立場となるものの株価が低迷するかを迫られている。

株式のリターンの観点から見た 9 月のマイニングについての総括はこれに尽きる。

時価総額が最も大きいマイナーであるマラソン、ライオット、クリーンスパークはいずれも、先月マイニングされたビットコインの総量に占める割合を8月比で増加させた。これらの企業はバランスシートがはるかに強固で、マイニング事業も大規模であるため、4月のビットコイン半減期を原因としたマイニング収益性の低下を乗り切るのに寄与している。

しかし、投資家はこれらの企業の株式にプレミアムを支払っておらず、9月もパフォーマンスは低迷した。一方、コア・サイエンティフィック(Core Scientific)、TerraWulf、IRENなど、AIとHPCに重点を置くマイナーは、9月にビットコインを上回るパフォーマンスを見せた。

Bitcoin Miner Share Price In September (TradingView)

投資家の感情の変化は驚くべきことではない。4月の半減期(ビットコインのマイニング報酬が50%削減された)により、マイニングの競争が激しくなり、利幅が狭まったためだ。ネガティブな感情に拍車をかけているのは、米国で最近ビットコインのスポット上場投資信託(ETF)が承認されたことで、投資家のマイニング株への関心が減ったことだ。

代わりに投資家の目は、収益の多様化を図るためにデータセンターの一部をAIやHPC関連のマシンのホスティングに使用しているマイナーに注がれている。AIやHPCには大量の電力が必要で、ビットコインマイナーはすでにそれを確保しているため、事業を急速に拡大したいAIやHPC企業にとって魅力的なリソースとなっている。

実際、9月の上場マイナーの株価を見ると、時価総額が大きいマイナーの株価は4~9%上昇した。AIやHPCに関連のあるマイナーは、この月25%もの上昇を記録した。ビットコインの価格は約7%上昇し、広範な暗号資産(仮想通貨)市場のベンチマークであるCoinDesk 20は約12%上昇した。

ビットコインが比較的横ばいだったにもかかわらず、10月もマイナーはすでに急上昇を見せている。ライオットは 12% 上昇し、サイファー・マイニングは 8% 上昇した。10 月は歴史的にビットコインが最も好調な月の一つでもあり、「Uptober」という異名が付けられている。

9月を振り返って

半減期後、マイニングをめぐる経済は厳しい状況となっている。

ビットコイン・ネットワークのハッシュレートは、7 日間の移動平均で、平均ハッシュレート 630 エクサハッシュ/秒 (EH/s) を維持しながら、史上最高の 693 EH/sに上昇した。ハッシュレートは、マイニングにおける競争力の指標であり、ネットワーク上でオンラインにある計算能力を計測したものだ。

9 月には、ビットコインの難易度 (ネットワークで新しいブロックをマイニングするのがどれほど難しいかを示す指標) も史上最高を記録した。この指標は、計算能力に基づいて 2016 ブロックごとに調整され、ブロックが 10 分ごとに一貫してマイニングされる上での難易度を表す。一方、グラスノード(Glassnode)によると、マイナーの収益性の指標であるハッシュプライスは、過去最低に近い水準にとどまっているにもかかわらず、1か月ぶりの高値である48.0ドル/秒を記録した。

Bitcoin: Miner Hash Price (Glassnode)

個々のマイナーの月次データを詳しく見ると、時価総額48億ドル(約7055億円、1ドル=147円換算)で最大の上場マイナーであるマラソンは、9月に好調だったようで、9月のハッシュレートは5%増加して36.9 EH/秒となった。同社はまた、前月から5%増加して705ビットコインをマイニングし、4月の半減期以来、1か月間で最多のマイニング量となった。そして同社はビットコイン保有量を26842に増やし、上場企業の中ではマイクロストラテジーに次いで2番目に大きいものとなった。同時に、2024年末までに50 EH/秒に到達する見込みも維持している。

Marathon Monthly Bitcoin Production (Farside Investors)

時価総額で3位のマイナーであるライオットも、施設全体の計算能力を増強したことで、9月にマイニングされたビットコインを28%増加させた。同社は、2024年第4四半期にハッシュレート36.3 EH/s、2025年後半までに56.6 EH/sに達すると予測しており、現在はバランスシート上に10427ビットコインを保有している。

ハリケーン・ヘレンの影響、用地購入にビットコインを売却

  • 9月に目立ったその他のトレンドとしては、ハリケーン・ヘレンの影響がある。時価総額で4位のマイナーであるクリーンスパークも影響を受けた。同社は、インフラに重大な損失はなかったが、一部の業務を停止しなければならなかったと述べている。
  • ビットコインマイナーにとって資本市場が厳しい中、企業は事業拡大のために資金調達に独創的な手段を使い始めた。その1社としてサイファー・マイニングは、9月に155ビットコインをマイニングし、923ビットコインを売却して300メガワット(MW)のマイニング用地を購入し、HPCホスティングに利用するという点で目立った動きだった。同社は現在1512ビットコインを保有している。

|翻訳・編集:T.Minamoto
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Miners at a Crossroads: Gain Market Share or Go All-In on AI?