新たな「ブロックチェーンのトリレンマ」が登場、だがテクノロジーに関してではない

従来の「ブロックチェーンのトリレンマ」は、ブロックチェーンの分散性、スケーラビリティ、セキュリティにはトレードオフがあり、同時には2つしか成立しないというものだった。EYのポール・ブロディ(Paul Brody)氏は、新しいトリレンマは、製品、顧客、規制当局の認可だと述べた。

従来の「ブロックチェーンのトリレンマ」は、ブロックチェーンは分散性、スケーラビリティ、セキュリティは、同時にすべてを満たすことはできず、最大2つしか成立しないというものだった。新しいトリレンマは、製品、顧客、規制当局の認可で、ここでも同時に2つしか成立しないという。

「テクノロジーのトリレンマ」については、少なくともイーサリアムブロックチェーンは、強力な分散性と堅牢なセキュリティを備えていると以前から考えられていたが、性能については深刻な制約があった。今日、これら3つの優先事項の間のトレードオフがなくなったわけではないが、ブロックチェーン自体が大きく進歩したため、3つの事項すべてについて、ほとんどのユーザーは「十分」と考えている。

多くの人々にとって、イーサリアムブロックチェーンがプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に移行し、複数のレイヤー2ネットワークが誕生したことは、トレードオフが大きな影響を及ぼしていた時代からの転換点と考えられている。イーサリアムブロックチェーンは、ベースレイヤーとして引き続き強固なセキュリティと分散性を提供しているが、数多くのレイヤー2ネットワークが大規模なスケーラビリティも提供している。

新しいトリレンマへの移行は、米国でビットコインとイーサリアムのETFがほぼ同時期に承認されたことと、欧州で暗号資産市場規制(MiCA)が施行されたことを契機に今年はじめにスタートした。この2つの画期的な出来事と、デジタル資産規制を導入する多くの国々に挟まれ、市場には根本的な変化が起きている。

第1に、デジタル資産業界の大手企業の多くは、製品や顧客を有しているが、規制当局の認可を得ていない。暗号資産および取引の70%以上は米国外で、暗号資産企業の多くは、最近の下落傾向を受けて米国市場でのライセンス取得に向けた取り組みを縮小した。その結果、これらの企業は既存の顧客基盤と多数のデジタル資産製品を有しているが、事業を米国内に移し、新たな収益源を確保するために必要な規制当局の認可を得られていない。

2番手グループを構成するのは、規制市場で事業を展開しているデジタル資産ネイティブ企業だ。彼らは製品と規制当局の認可を有しているが、顧客がいない。これらの企業は、規制環境下でのデジタル資産の開発に重点的に取り組んできた。彼らは伝統的金融機関に先行しており、製品の認可も得ているが、製品を販売するための顧客基盤を持たない。

3番目には、最も規模が大きく、成熟した金融機関が存在している。銀行は膨大な顧客基盤と成熟した規制遵守プロセスを有しているが、多くの場合、提供できるデジタル資産を持っていない。

技術的なトリレンマと同様に、そうした3タイプの企業をマッチさせ、規制当局の認可、膨大な種類の製品、巨大な顧客基盤をすべて備えた完璧な組み合わせを実現する完璧なソリューションは存在しない。一方で、実現を阻むハードルはいくつもある。

何よりもまず、最大のハードルは、規制当局そのものだ。なぜなら規制当局は繰り返し、マスマーケットの顧客に最適で、安全と考えられる製品と、熟練した投資家向け製品とを明確に区別している。暗号資産はハイリスクで、変動が激しく、給料日前に支払いに追われるような人々にはあまり向いていない。

2つ目の大きなハードルは、これらの異なる事業体のカルチャーだ。最も法令を遵守し、監査も経営も行き届いたオフショアの暗号資産ネイティブ企業であっても、世界規模の大手銀行とはまったく異なる存在だ。暗号資産は詐欺だと友人や家族に言われたにもかかわらず、先んじて暗号資産企業を作った人々だ。大手銀行のカルチャーの中では、うまくやっていけないだろう。

最終的には、私の予想では技術的なトリレンマと同様に、市場はあらゆるタイプの顧客と製品に関して、「十分」な成熟度に達するだろう。リスクを求める人々は、規制されたエコシステム内でニーズを満たすことができるが、保守的な伝統的金融機関では難しいだろう。そして個人ユーザーは、デジタル資産に対して、厳選された、よりリスクの低いアクセス手段を見つけることができるだろう。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Shutterstock
|原文:The New Blockchain Trilemma Is Here, and It’s Not About Technology