機関投資家の現実資産(RWA)トークン化を除いて、ほとんどのWeb3セグメントは企業を参入させるのに苦労している。企業が暗号資産(仮想通貨)に関与することを熱望する、次の最も論理的な拠点となるのはDePINだと、Outlier Venturesのジョン・ゴールドシュミット(John Goldschmidt)氏は述べている。
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数週間後、リスボンでは再び世界最大級のテクノロジーカンファレンス、WebSummit 2024が開催される。他の優れたテクノロジーカンファレンスと同様、このイベントは、開発者、企業、投資家が一堂に会し、イノベーションを探索し、紹介し、学び、未来の次の波を推進する市場のフィードバックを集める機会となるだろう。
急速に進化するテクノロジーの分野において、DePIN(分散型物理インフラネットワーク)は、単なるイノベーションにとどまらず、大手企業にとってパラダイムシフトを意味する。DePINは、ブロックチェーンを基盤とするエコシステムであり、エネルギー網、無線ネットワーク、交通システムなどの物理的インフラがトークンインセンティブによって管理・拡張され、不可欠なサービスへのアクセスと管理が民主化される。
2020年にメインネットをローンチしたヘリウム・ネットワーク(Helium Network)は、コミュニティ主導のワイヤレスネットワークの初期の注目すべき例であり、市民ネットワークサプライヤーに大幅な報酬を与えながら、コストを削減し、ユーザー(特定の地域に限る)のアクセス性を向上させた。ヘリウムの「ヘリウム・モバイル(Helium Mobile)」サービスは、現在もTモバイル(TMobile)によって強化されているが、依然として人気が高く、最近では33万5000人の加入者がいると報告されている。また、スケーラビリティ、コスト効率、分散化により、AI(人工知能)の進歩にますます不可欠なものとなっている、Filecoin、Storj、Arweaveなどの初期の分散型ストレージネットワークも、多くの人々に知られている。
最初のDePINが市場に登場してから数年が経ち、我々はデジタルイノベーションの岐路に立っている。DePINは、効率性、セキュリティ、運用上の整合性を飛躍的に向上させたいと考える企業にとって、重要なインフラストラクチャのひとつとして台頭している。企業がDePINを採用する必要がある理由を以下に示す。
セキュリティ強化のための分散化
従来の集中型インフラ管理モデルは、サイバー攻撃から単一障害点に至るまで、多くの脆弱性をはらんでいる。今年初めに発生したクラウドストライク(CrowdStrike)社の事件が航空業界に与えた打撃について、改めて説明する必要はないだろう。DePINは、ブロックチェーン技術を活用することで、強固で本質的にレジリエンスのあるセキュリティレベルを実現する。
スマートコントラクトの実行と組み合わせた透明性の向上により、企業は経済的に重要なインフラのホスティングを分散化、自動化し、最終的にリスクを軽減することができる。これは、ネットワーク上の各ノードが取引履歴のコピーを保持しているため、冗長性が生まれ、不正な活動が事実上不可能になるためだ。さらに、インフラを単一の第三者機関の管理下に置かないことで、政治的および地政学的なリスクが軽減されるため、一部の大企業あるいは民間企業による公的管理をより警戒すべき市民にとっては、より深く共感できるだろう。
コスト効率と運用上の拡張性
企業にとってコストは最重要事項だ。DePINテクノロジーは、仲介者の排除と、トークンエコノミーによるコミュニティ主導型または自立型のインフラモデルの促進により、運用コストの削減を約束する。つまり、企業はインフラコストを比例して増やすことなく、業務を拡大できるということだ(本質的には従量制の設計)。DePINは、大規模な投資や資本要件なしに、拡張性のあるオンデマンドのリソースを提供することで、企業がインフラについて考える方法を根本的に変える可能性がある。
インフラが整備されていない地域で、ローカライズされたコンピューティングパワーやデータストレージなどのサービスを提供することで、企業は、そうでなければコストがかかりすぎたり時間がかかりすぎる市場に参入することができる。スターリンク(Starlink)の分散型で小規模なバージョンを想像してみてほしい。企業は常に、より多くの消費者を獲得できる枠組みを構築したり、そこに投資したりしたいと考えている。DePINは、これを実現する最も効率的な方法だ。イノベーションは、ゲーム、AI、または分散型ソリューションが効率性とコストメリットの両方を提供できるデータ集約型の産業など、特定の分野に特に有益だ。
DePINの成長における企業の役割
ルフトハンザ(Lufthansa)やドイツテレコム(Deutsche Telekom)といった大手企業がDePINに参加していることは、Peaqネットワークでの立ち上げからも明らかなように、このテクノロジーが強力に支持されていることを示している。 これらの企業の参加は、単に新しいテクノロジーを採用するというだけでなく、業界標準を設定し、他のセクターがDePINをどのように見て、どのように統合していくかにも影響を与えるものだ。 このような支持は、業界全体でのさらなるコラボレーション、統合、イノベーションを促進し、企業によるテクノロジーの採用において「DePIN時代」とも呼べるような状況をもたらす可能性もある。
Outlier Venturesは、Peaq、Impossible Cloud、Acurastとともに、11月12日に開催されるWeb Summit 2024でDePIN Dayを開催する。
DePINに関心のある人、特に企業を歓迎する。DePINの採用が単に技術トレンドに追随するだけではなく、二歩先を見据え、技術リーダーとなることである理由をともに探求し、議論しよう。
|翻訳:CoinDesk JAPAN
|編集:井上俊彦
|画像:Shutterstock
|原文:Enterprises Need DePIN More Than DePIN Needs Enterprises