マネックスグループが2022年3月に発表した暗号資産(仮想通貨)取引所コインチェック(Coincheck)の米ナスダック上場がまもなく実現する見通しだ。12月10日頃には、SPAC(特別買収目的会社)との合併が実行され、合併完了翌日から米ナスダックでの取引が開始されるという。
米ナスダック上場まであと1カ月弱。待望のマイルストーンを控えた松本大氏(マネックスグループ 取締役会議長兼代表執行役会長)にオンラインインタビューを行い、米ナスダック上場の意義や上場後の戦略などを聞いた。
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──2022年3月に米ナスダック上場計画を発表してから、2年半以上経過してのSEC承認となった。まず率直に今の心境をお聞きしたい。
松本氏:まだ終わっていないので、しっかりやり切らなければいけない。しかし大きな山を越えたのは事実。あまり感想を持たない人間だが、ここまでやり続けられて良かったと思う。
──SEC側の審査プロセスの問題だが、ここまで時間がかかったのはどのような要因があったと考えるか。2022年春以降には暗号資産市場が低迷し、11月にはFTXが破綻するなど、いろいろなことがあった。
松本氏:いろいろなことがあったし、新しいビジネス、新しい業界なので、新しく整理しなければいけないこともあったと思う。環境的にもいろいろなことが起きた。だが、もともと我々が登ろうとした山がそういう山だったということ。
ビジネスでは時間がかかることは多々あり、それぞれにおいて、それぞれのタイミングで判断するだけ。本件だけが、何か特別なハードルがあったわけではない。会社として、主体的に考え方を変えることもある。確かに期間が長かったので、判断のタイミングは多くなった。何度も考えるタイミングがあって、やめることもあり得た。やはり強い目的があったから、やり続けることができたと思う。
買収通貨=アクイジション・カレンシーの重要性
──日本の暗号資産交換業として初の株式上場であり、しかも国内市場ではなく、米ナスダックへの上場。その意義をどう考えているか。
松本氏:Web3/暗号資産というビジネスは新しいビジネスなので、借り入れは簡単ではない。成長戦略として投資が必要なときには、自己資金か、あるいは親会社から借りるしか調達方法がない。成長にはブレーキがかかりがちになる。
株式上場によって、株式市場から成長資金を調達できるようになる。株式を発行して資金を調達することもできるし、あるいはアメリカであれば、株式交換での買収は一般的。Web3/暗号資産ビジネスで大きく成長していくためには、買収通貨=アクイジション・カレンシー(Acquisition Currency)を持つことが非常に重要であり、上場は成長戦略として非常に重要になる。
アクイジション・カレンシーをWeb3/暗号資産業界で考えたときに、米ナスダックの株式に勝るものはない。海外のWeb3企業を買収しようとか、優秀な人材を採用しようとするときには、米ナスダック株が最も優れている。いわば世界共通言語のようなもの。
──日本のWeb3/暗号資産業界にどんなインパクトを与えると思うか。
松本氏:例えばオンライン証券会社の場合、カストディ(管理・保管)は日本なら、ほふり(証券保管振替機構)、アメリカならDTCC。接続先も日本なら東証、アメリカはNYSEやナスダックと、日本とアメリカで違うものを使っている。だが暗号資産の場合は同じ土俵に立っている。流動性の確保も世界中に向かう。
レギュレーションは各国で違っても、ビジネスそのものは完全にグローバル。グローバルに考えないと意味がないし、日本でできるものはグローバルでもできるはずだし、日本だけでしか通用しないものは、おそらく日本でも通用しないと思う。このビジネスに関しては、人材もテクノロジーも流動性もすべて完全にグローバルに考えないといけないと思っている。
世界でただ2つの上場暗号資産取引所に
──2022年3月に米ナスダック上場計画を発表されたあと、4月にCoinDesk JAPANでインタビューを行っており、その際には「コインベースと戦うことは考えていない」とおっしゃっていた。
松本氏:かつて、日本のプロ野球選手がメジャーリーグで活躍できるとは誰も思っていなかった。しかし、同じルールでやっているから、野茂、イチローが出てきて、今、大谷選手が大活躍している。もし、日本独自のルールでやっていたら、永遠にメジャーリーガーは生まれなかった。
我々も2年半前はグローバル大手のコインベースやFTXと戦うとは考えていなかった。それが今ではFTXが去り、コインベース一強のようになっている。もうすぐ、我々は世界でただ2つの上場暗号資産取引所の1つになる。戦い方、戦略は変わってくる。すぐには戦えないとしても、同じルールでやっていれば、いつかメジャーリーグに行けるかもしれない。そういう可能性をつかむために、今までやってきた。
上場自体が目的ではなく、アクイジション・カレンシーを手に入れて、暗号資産のトレーディング・プラットフォームのみならず、広くブロックチェーン、Web3の分野で、ビジネスや人材を拡大していきたい。
──グローバルにビジネスを進めるなかで、今の日本のWeb3の状況をどう見ているか。可能性はあるが進展が遅いのか、何かブレイクスルーが必要なのか。
松本氏:法的な環境、規制当局の姿勢は立法府も含めて、前向きだと思う。だが税制が今のままでは、暗号資産のトレーディングだけではなく、トークンを使ったいろいろなエコノミーにおいてきわめて大きな足かせになる。海外から大勢が「日本は金融庁も自民党も前向きらしい」「エル・ドラド(黄金郷)だ」とやってきても、税金のことを知ると「ビジネスできない」と帰ってしまう。
例えばドイツですら、投資と決済を分け、決済にはそれほど税金をかけないようにしている。日本は規制当局も立法府も前向きだが、税制が新しい時代にフィットしていない。そこが非常に残念。ビットコインETFも、日本はすでにさまざまなインフラが発達しており、アメリカの次に、整備された形でできるだけのポテンシャルを持っているはず。日本はある意味では非常に進んでいる、あるいは進めるはずだと思う。
|文:増田隆幸
|画像:松本大氏(提供:マネックスグループ)