RWAトークンの新たなユースケースを探る──ガイドライン作成に向け、JCBAがセミナー開催【レポート】

11月29日、RWA(Real World Asset)ビジネスに関わる事業者やステークホルダーを対象としたオープンセミナー「RWAビジネスの最新動向と発展に向けた課題」が開催された。

本イベントは、経済産業省「Web3.0・ブロックチェーンを活用したデジタル公共財等構築実証事業」の一環として実施されたもので、現物資産や無形資産のデジタル化市場構築に向けた利用規約やガイドラインの整備を目的としたものだ。

実証事業の事業者に選ばれた一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)が主催し、後援として一般社団法人 ブロックチェーン推進協会と一般財団法人スポーツエコシステム推進協議会が参加。CoinDesk JAPANがメディアパートナーを務めた。

冒頭の「経済産業省におけるWeb3.0・ブロックチェーン分野の取り組み」と題した特別講演に登壇したのは、経済産業省イノベーション・環境局イノベーション政策課フロンティア推進室長の吉田修一郎氏だ。RWAには大きな期待があるとしながらも、現状では制度的な課題が多く残っていると語り、次の3つの論点を挙げた。

  • デジタル資産の債権債務関係の実務上の整理、それを前提とした円滑な会計監査の実施
  • RWAトークンの移転を資産の移転とみなすための要件整理(民法の第三者対抗要件問題含む)
  • デジタル資産を含む無体物に所有権が観念できない現行制度

「新たなユースケースの創出を加速する、より良いガイドライン策定に向けた活発な議論をお願いしたい」と吉田氏は語った。

[経済産業省イノベーション・環境局イノベーション政策課フロンティア推進室長 吉田修一郎氏]

価値ある現物資産をトークン化しなければ意味がない

次のセッションでは、「ベンチャーキャピタルからみる日本のWeb3.0スタートアップ企業の動向」と題し、Nonagon Capital Founding Partnerの岡本和士氏、Decima Fund 共同創業者マネージングディレクターの松澤翔太氏が登壇、MZ Web3 Fund General Partnerの白石陽介氏がモデレータを務めるパネルディスカッションが行われた。

岡本氏はサンフランシスコを拠点に活動しており、米国におけるWeb3の状況を報告。ビットコインETFの承認やトランプの次期大統領当選が大きく影響し、暗号資産への資金の流入がかなり増えているという。一方でRWAは米国であまり注目されていないと岡本氏。「RWAのような金融商品以外に注目しているのは日本特有のトレンドだろう」と語る。

[リモートでの参加となったNonagon Capital Founding Partner岡本和士氏]

また松澤氏は、RWAはまだまだ流動性が足りないと指摘する。

「現物資産をトークン化するということは、何かをPDF化することと一緒だ。トークン化やPDF化自体に価値があるわけではない。価値が高いものがトークン化され、それが人々の興味関心を惹きつけ、流動性が高まっていくのが理想だ」(松澤氏)

そして、まだまだ日本の案件は小粒なものが多いと松澤氏。海外のプロ投資家に提案するには、数百億円規模の案件が必要だと語る。「小さな成功体験を増やし、より大きなリスクを取る日本企業が出てきて欲しい」(松澤氏)

[Decima Fund 共同創業者マネージングディレクター 松澤翔太氏]

最後に白石氏は、日本がRWAで一番盛り上がっているという岡本氏の言及を受けて「逆にいえば、日本がパイオニアを取れる可能性があるということ。日本には、これまで議論を積み上げてきた過去がある。RWA領域で日本から面白いスタートアップが生まれることに期待したい」と語り、セッションを締め括った。

[MZ Web3 Fund General Partner白石陽介氏]

RWAトークンの金融規制上の立ち位置と現実資産の規制、両面の分析が必要

次に登壇した、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士/NY州弁護士 長瀨威志氏は、「RWAトークンを発行する上での主要な規制にかかる考え方」と題した講演を行った。

長瀨氏は、RWAトークンにも暗号資産やNFTなど様々な種類があるが、それが金融規制上のどういう位置付けになるのかという分析が必要だという。また、RWAトークンの裏付けになっている現実資産の取引についても、何か特別な法律で規制されているのであれば、その分析も必要となる。例えば、倉庫で預かっているものにRWAトークンを紐づけた場合は「倉庫業法」が、中古品のハンドバックや時計などとRWAトークンを紐づけた場合は「古物営業法」が関わってくる可能性があるのだ。

「RWAトークンはメリットも多いが、現実世界の資産の取引に関する論点というのは、どうしても残ってくる。今後も、こうした論点への議論が必要だ」と長瀨氏は語る。

[アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士/NY州弁護士 長瀨威志氏]

ガイドライン案の概要を公開、広く意見を募集

今回の事業の一番の目的である「実証事業にかかる利用規約・ガイドラインのドラフトの説明、質疑応答」と題した講演は、KPMGジャパン Web3.0推進支援部 部長であり、有限責任 あずさ監査法人 金融統轄事業部 ディレクターの保木健次氏が担当した。本講演では、「RWA(現実資産等)トークンの利活用に関するガイドライン(案)」の概要を説明した。

(現在このガイドライン案は、JCBAのサイトで公開され、広く意見を募集している。期間は2024年12月19日まで:https://cryptocurrency-association.org/news/main-info/20241125-001/

[KPMGジャパン Web3.0推進支援部 部長 有限責任 あずさ監査法人 金融統轄事業部 ディレクター 保木健次氏]

RWAに期待されるメリットは、現実資産をトークンに紐づけることで、小口化しやすくなり流動性を高められる点だ。しかし、トークンと権利がしっかり紐づいていなければ、トークンの利点を生かせない。

ここで問題となるのは、トークンの移転の際に係る「第三者対抗要件」というものだ。トークンの移転をもって、それと紐づいている現実資産の移転とみなすことは、当事者同士が合意していれば成立する。しかし当事者同士だけでなく、移転したことを第三者に示すための要件である「第三者対抗要件」をいかに具備するかを検討する必要がある。不動産であれば、所有権移転登記が必要となり、動産であれば「現実の引渡し」が必要となるが、これをトークンの移転ごとに実施するとなると、現実資産でやる場合と何ら変わらないことになってしまう。ガイドラインでは、これらに対してどのような方法が考えられるかを示す。

また会計監査の際に問題となるのが、そのトークンどのような権利を保証しているものかが明確でない場合、判断が難しくなるという点だ。ガイドラインでは、この解決手段として利用規約に着目し、どのような内容を盛り込めばいいのか検証していく。

さらには、デジタルアートなどの法的な位置付けが定かではない資産について、トークンと紐づけた場合も検討する。これには、無体物についても所有権を認めるなどの法改正が求められるため、中長期的な課題として取り上げる。

[実証事業において、どのような課題に取り組むかが示された]

「今回のガイドラインは、RWAの論点でもかなり網羅的なものになる。ぜひ一読いただいて、ご意見をいただきたい」と保木は語り講演を終えた。

小口化のグラデーションをどう扱うか

最後は「RWAに係る近時の動向」と題したセッションだ。NOT A HOTEL Web3事業リードの岡本伊津美氏と、リーフ・パブリケーションズ 業務統括取締役 副社長/弁護士の羽間弘善氏が自社のRWAビジネスの事例を紹介、創・佐藤法律事務所 代表弁護士/NY州弁護士の斎藤創氏と森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士/一橋大学特任教授の増田雅史氏が、最近のRWAの動向について解説した。モデレーターはCoinDesk JAPANを運営するN.Avenue代表取締役社長の神本侑季氏が務めた。

NOT A HOTELは、別荘の「一棟購入」や年間10泊からの「シェア購入」などといった販売方法に加えて、別荘の利用権を小口化したNFTを販売したことで大きな話題を呼んだ。さらに今回、GMOコインを通じて暗号資産「NOT A HOTEL COIN(NAC)」のIEOを実施し、12月13日に取引が開始される。このNACを持つユーザーには、1泊単位での利用権を付与し「NOT A HOTEL DAO」として運営していくという。

「小口化を進めたことで、購入対象者を広げることができた。サポートの工数は増えたが、しっかり説明すればお客様はWeb3の難しさを必ず乗り越えてくれる。先行事例として、我々が苦労してきた点を積極的に発信し、業界の発展をさらに推進していきたい」と岡本氏は語る。

[NOT A HOTEL Web3事業リード 岡本伊津美氏]
[小口化を進め、購入対象者を広げてきたNOT A HOTELの戦略]

増田氏は、不動産のような小口化へのニーズがある程度見えているものが、RWAに適していると語る。

「NOT A HOTELの一棟から一泊までのグラデーションを埋めようという発想は、まさにその通りで膝を打つ思いだ。金融規制の課題は、本来グラデーションであるものを縦に切って、ここからは暗号資産に当たるなどとしてしまう点にある。これを検討するのが、今回のガイドラインを作る目的の一つだろう」(増田氏)

[森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士/一橋大学特任教授 増田雅史氏]

リーフ・パブリケーションズは、日本酒を購入し、自分の好きな保存期間を設定して熟成保管ができる「Sake World NFT」を運営する。2023年12月のサービスローンチ以降、酒蔵の申込数は250を超え、現在、500銘柄の日本酒を販売しているという。このNFTは二次流通が可能で、売れた場合は、酒蔵に一定の割合でロイヤリティが支払われる仕組みだ。

「サービス立ち上げまでに、様々な法規制に対応する必要があったが、一番時間がかかったのが酒税法だ。日本酒に紐づいているNFTを一般の方が販売する際、免許が必要かどうかという点が論点となった。NFTを『引換えチケット』という考え方にし、国税庁に利用規約とともに確認を取ったところ、酒税法に抵触しないとの確認が取れている」と羽間氏は説明する。

[リーフ・パブリケーションズ 業務統括取締役 副社長/弁護士の羽間弘善氏]

また2024年11月より、初の海外となるシンガポールへの配送も可能となった。

「今後は、各国の法制度に対応しながら、1ヵ国ごとに拡大していく計画だ。もともと我々は京都のグルメ出版社で、京都の酒蔵とのつながりの中でこのプロジェクトが始まっている。世界に向けて日本酒をさらに盛り上げていきたい」(羽間氏)

増田氏は、「地方創生」の文脈でのRWAの活用に期待を寄せる。日本の文化や地域の魅力をRWAトークンで小口化することで、隠れた観光地にも注目が集まるのではないかという。「東京や京都などのオーバーツーリズムの是正につながる可能性もあるだろう。多様な日本の魅力が世界に伝わってほしい」(増田氏)

最後に斎藤氏は、RWAビジネスの立ち上げの際には、こうした成功事例を研究して真似するのもいいと提案する。例えば、日本酒でなくワインなどへの応用も可能かもしれない。

「最初のリーガルの検討の部分にどうしてもコストがかかってしまう。参入バリアを下げるためにも、今回のガイドラインなどを有効活用してほしい」と語り、セッションを終えた。

[創・佐藤法律事務所 代表弁護士/NY州弁護士 斎藤創氏]

なお、経済産業省「Web3.0・ブロックチェーンを活用したデジタル公共財等構築実証事業」では、選ばれた6事業者での取り組みのほか、6事業者とアドバイザリーボードなどの有識者が一堂に会するワークショップ開催がプログラムに組み込まれており、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueがワークショップ企画運営および広報業務を担当している。

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|文・写真:橋本史郎
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
※編集部より:本文を一部修正して、更新しました。