メキシコ政府が承認したモバイルアプリがある。アメリカに滞在する2万人の移民労働者が、ステラ(Stellar)ネットワークを使ってメキシコ本国での請求書の支払いに対応できるようにするアプリだ。
ペソに裏付けられたステーブルコインを利用したアプリ「サルド(Saldo)」の生みの親、マルコ・モンテス・ネリ(Marco Montes Neri)氏は「ステラは、すべての規制上の義務に対応するために一連のプロトコルと基準を生み出した」と述べた。
「人々の実際のお金を扱いたければ、規制当局と協力することが不可欠」
このテーマは、11月上旬にメキシコシティで開催されたカンファレンス「ステラ・メリディアン(Stellar Meridian)」で繰り返し語られた。カンファレンスの約350名の参加者の大半はステラの開発者だった。
金融規則を受け入れることは決定的なテーマだったようだった。フェイスブック(Facebook)の「素早く動き、破壊する」という合言葉はここには相応しくなかった。
「ステラを実際に人々にとって便利なものにすること」は常に目標だったと2014年にステラを生み出したジェド・マケーレブ(Jed McCaleb)氏は語った。
「最終的には常になんらかの規制にまつわる状況に行き着く。(中略)我々はそれを避けることはできない」
マケーレブ氏は現在、ブロックチェーン・ベースのグローバル決済をめぐる競争がますます激化するなか、ステラ開発財団(Stellar Development Foundation:SDF)のCTO(最高技術責任者)を務めている。
2012年、マケーレブ氏はリップル(Ripple)を共同創業した。リップルは現在、国境を超えた銀行送金に重点を置いているが、フェイスブックのリブラ(Libra)プロジェクトによってここ数カ月、仮想通貨を使った送金の議論は規制当局による厳しい監視の目に晒されている。
ステラの強みは、プロトコル自体にコンプライアンス・レイヤーが搭載されており、すでに稼働していること。これによってユーザーは、一般的な顧客確認(KYC)とアンチマネーロンダリング(AML)基準に対応することができる。
ネリ氏は、このことが自分が行っているようなビジネスにとって、例えばイーサリアムではなく、ステラを有益なものにしていると述べた。
「他のテクノロジーには、そのようなレイヤーはまだ存在していない。なぜなら重点ではなかったから」とネリ氏。
「開発は可能。だが、同じようことを目指す他のプロジェクトと互換性がないことが問題だ」
SDFのCEO、デネル・ディクソン(Denelle Dixon)氏は、人々が規制に対処することをサポートしたいだけではないと述べた。
同氏は規制を設定する側の人たちのところに行き、ブロックチェーン・テクノロジーがいかに世界をより秩序ある場所にしているかを示したいと考えている。
「我々は、より多くの規制当局を巻き込むことに重点を置く必要がある」
コミュニティの賛同
カナダの仮想通貨取引所コインスクエア(CoinSquare)のCEO、コール・ダイアモンド(Cole Diamond)氏は、メリディアンに来ていた聴衆に向けて「我々の多くが規制当局にとっての道しるべとなった」と語った。
ダイアモンド氏は、コインスクエアは同社の本拠地がある州の法律を受け入れることで多くの資金を残すことができたと語った。カナダの他の取引所が崩壊していくなか、同氏はその方針を悔いていない。
「規制に従うことの重要性を強調しすぎることはない」とダイアモンド氏は述べた。
ステーブルコインを扱うスタートアップ、ワイレックス(Wirex)のパベル・マトヴェーエフ(Pevel Matveev)氏は、集まったステラファンに対して「規制に従わないことは実際にはかなりリスキーなこと」と語った。
しかし、政府の取り組みが苛立たしいほど遅い点は誰も否定しなかった。
コンプライアンス・アズ・ア・サービス・プラットフォームを構築するフィンクルーシブ・キャピタル(FinClusive Capital)のCEO、アミット・シャルマ(Amit Sharma)氏は、議員にアイデアを積極的に提案するよう創業者たちに呼びかけた。
「なぜならイノベーションのスピードは本質的に規制当局のスピードをしのぐから」とシャルマ氏は述べた。
インターステラ・ウォレット・アンド・エクスチェンジ(Interstellar Wallet and Exchange)の創業者兼CEO、アーネスト・ムベンクム(Ernest Mbenkum)氏は希望を抱かせた。
「政府は永遠に拒絶することはできない。同時に、コントロールできることを望むだろう。興味深い事態だ」
中央銀行の見方
業界にとっては不安な結果となるが、国家が仮想通貨を受け入れる道が1つある。
法定通貨をブロックチェーンに乗せることだ。
「中央銀行が中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行すると決断した場合、それはトークンの形態になり、委任型になる」とカナダ銀行(Bank of Canda)のリサーチアドバイザー、フランシスコ・リバデネイラ(Francisco Rivadeneyra)氏は11月5日(現地時間)朝、ステージ上で予測した。
委任型の中央銀行デジタル通貨とは、銀行が承認を管理し、支払いを追跡することをパートナーが支援することを意味する。EOSや現在計画されているリブラのようなブロックチェーンとある意味、似た形だ。
パリの理工科学校「エコール・ポリテクニーク(Ecole Polytechnique)」で金融経済学の教授を務めるリンダ・シリング(Linda Schilling)氏は次のように述べた。
「仮想通貨の台頭はある意味において、中央銀行にいかに競争するかを考えさせた」
シリング氏は、仮想通貨が国際的に受け入れられれば、国民は中央銀行の政策を受け入れなくなる可能性があることを中央銀行は理解していると考えている。
経済面のかなりの部分で仮想通貨を利用できるユーザーは、インフレや経済成長を管理するための中央銀行のプランから隔てられることになる。
だが、仮に中央銀行が仮想通貨企業の先を越し、ピア・ツー・ピア決済に乗り出し始めれば、膨大な量のデータは、結局のところ政治組織である中央銀行に蓄積していく。
「中央銀行デジタル通貨に向かえば向かうほど、フェイスブックやグーグルなどのビジネスモデルにより近づくことになる」とシリング氏は述べた。そして何よりも、政府から任命された人物が、選挙人、反体制派、政治的ライバルに関する大量の情報を保有することになる。
迫り来るリブラ
もちろん、中央銀行のこうした取り組みを最も誘発したのは、リブラだ。
偶然にも、リブラは基本的にステラと同じビジョンを掲げている──スピード、低い手数料、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)、トークン作成の容易さ。これらのテーマは、マケーレブ氏のファンには非常に馴染みのあるものだ。
「リブラに関する騒ぎのすべては、ある種のネガティブな結果になったと言って差し支えない」とワイレックスのCEO、マトヴェーエフ氏は述べた。
一方、マケーレブ氏は、フェイスブックのCEOのマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏とリブラについて同氏を補佐している人たちは、何に足を踏み入れつつあるのかを真に理解していないと思うとCoinDeskに語った。
「彼らのアプローチは少し傲慢に思える。少なくとも外部の人間の観点からすると。発表の仕方が少し時期尚早だったと思う」
マケーレブ氏は、リブラは自分には十分に分散化されていないように見え、設立パートナーはリブラを十分に分散化することはないと思うと語った。だが同氏はその見方にバイアスがあることを認めた。
リブラは、SDFがすでに構築したグローバル決済ネットワークと本質的に同じものを大規模に構築しようとしている。
しかし、インターステラ・ウォレット・アンド・エクスチェンジの創業者のムベンクム氏は、非銀行利用者層に手を差し伸べるステラの強みは、その仮想通貨であるステラ(XLM)にあるのではないと述べた。むしろ、ネットワーク上で資産に裏付けられたトークンを生み出している企業を意味するステラ用語である「アンカー」システムにある。
「ステラ、ビットコイン、これが第一の波。次の波は資産に裏付けられたトークン」とムベンクム氏は述べた。
同氏は、実際のモノに裏付けられた数多くの新しいトークンに巨大なポテンシャルを見ている。新興市場の人々は、仮想通貨のような抽象的なものを理解しないとムベンクム氏は述べた。
「人々はお茶を理解する。ヤムイモを理解する」と同氏。人々はそのような商品の将来的な受け渡しを約束してくれるものを理解すると述べた。
「新興市場においては、このような方向に進んでいる」
マケーレブ氏も、進展が遅いことは理解しているが、楽観的だ。同氏は、サルドのペソに裏付けられたステーブルコインや、人々の資金の出し入れをサポートすることで徐々に確立しつつあるナイジェリアの別の取り組みを引き合いに出した。
マケーレブ氏は、それらを過大評価してはいなかったようだが、以下のように語った。
「我々は、人々の生活を実際に向上させる取り組みの最前線にいるようだ」
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Stellar Development Foundation senior strategist Lisa Nestor and Stellar founder Jed McCaleb speak at Meridian 2019, photo by Brady Dale for CoinDesk
原文:Stellar’s Plan to Win Global Payments: Play Nice With the Finance Cops