ソニーグループは1月14日に「Web3事業発表会」を開催した。発表会のプレゼンテーションや質疑応答については、以下で伝えたとおりだ。質疑応答では、ソニーグループでの展開、グループ会社との連携について質問が寄せられたが、回答は「今は言えることはない」だった。
発表会終了後、20分という限られた時間だったが、プレゼンテーションを行ったS.BLOX 代表取締役社長 渡辺潤氏がインタビューに応じた。渡辺氏は、ソニーグループ 先端インフラ事業探索部門 部門長とSony Block Solutions LabsのChairmanを兼ねており、ソニーグループWeb3事業のキーマンのひとりだ。
◇◇◇
──Web3事業発表会では、ブロックチェーンのユースケースとして金融とゲームに触れていた。グループ企業との連携は今後とのことだったが、まさにグループ内に金融とゲームを持っておられるなかで、どのような展開を想定しているのか。
渡辺:現段階ではまだ言えることはない。エンタメ面では、具体的に発表できるのはプレスリリースに記した3つの実証実験になる。発表できるタイミングになればお伝えしたい。
関連記事:ソニー、「包括的なWeb3ソリューション」提供開始──Web3事業発表会を元乃木坂46の高山一実氏を迎えて開催
──世界的な企業が自らブロックチェーンを手がける事例は世界にも例がない。構想は、どういうところからスタートしたのか。
渡辺:Web3やブロックチェーン自体は、金融とエンタメがメインのユースケースになっている。我々はエンタメがメインの会社であり、何らか手がけていくことは比較的自然な流れだった。
──グループ内のソニー銀行はすでにNFTを出したり、Web3エンタメ向けアプリ「Sony Bank CONNECT」をリリースしている。そちらとの連携は。
渡辺:それも今後の話になる。グループなので、いろいろ話はある。ソニー銀行のアプリは、ソニーグループのNFTマーケットプレイスを展開するSNFTと連携しており、今日発表したFan Marketing Platformを展開するのもSNFTだ。
Web3への窓口に
──Soniumeは昨年8月の発表後、海外からの問い合わせが多いと聞く。
渡辺:ソニー自体も取引先は日本よりも海外の方が圧倒的に大きい。クリプト関連のユーザーも日本より海外の方がかなり多いので、その意味では自然だろう。もちろん国内からも思った以上の反響があった。
──ブロックチェーンはオープンなものだが、ソニーが手がけるということで、ハードルを感じるところもあったのだろうか。
渡辺:そこは我々はまったく気にしていないし、気にされる方がいらっしゃるかどうかはわからない。一方で、我々が手がけていることで、Web3に参入しやすくなったと考えている方はいるのではないか。今、いくつかの会社と話をしてると、そういう議論も結構あると感じる。
──ソニーグループが手がけていることによる安心感だろうか。
渡辺:安心感をどこに感じるかは会社によって違うだろうが、我々に安心感を感じる人もいるのだと思う。元々、クリプトの世界に縁遠い人にとっては、我々はWeb3へのひとつの窓口になっているのだと思う。
──業種や業態に特徴はあるのか。
渡辺:それほど偏りはないが、エンタメ系がやや多い。ゲームに限らず、エンタメ全般。現状、DeFi(分散型金融)以外のユースケースを考えると、ほとんどエンタメだと思う。
──日本では、DeFiは難しい状況だが、今後可能性があるとすれば、何が必要だろうか。
渡辺:やはり法整備だろう。ただし、日本もこれから期待できるのではないかと思っていて、DeFiは、ブロックチェーンが実現する機能のひとつとして重要なものだと考えている。S.BLOXの事業としては、DeFiの定義は広く、どこまでがDeFiかという議論はあるが、まったく無関係でいることは難しいと思う。だが、具体的なことはまだ決まっていない。
暗号資産取引サービスとしての戦い方
──S.BLOXは暗号資産取引サービスとして、国内市場でどのような戦略、戦い方を想定しているのか。
渡辺:戦うという形になるのかはわからないが、ユーザーにWeb3に入ってきてもらうには、法定通貨を暗号資産に交換してもらうことが必要になる。他のサービスとUXがバラバラだったり、一体化されてないとユーザーはなかなか入ってこられない。今は最初の一歩が非常に難しいので、そこを解消するためには交換業は必要だと思っている。交換はこの会社、次はこの会社でやってくださいというのは、ユーザーにとっては非常にハードルが高くなる。
──「国内には交換業は2社でいい」みたいな発言があったり、今後、規制の枠組みが資金決済法から金融商品取引法に移行した場合は対応が難しくなる事業者も出てきて、業界の競争は激しくなると考えられる。どのように対応していくのか。
渡辺:グループ内に金融業を持っているので、そこはあまり心配していない。シェア獲得はもちろん大事だが、まずはユーザー体験を改善して、できるだけユーザーがWeb3に入りやすくしていくことが役割だと考えている。今、取引所を使っているユーザーは理解度が深い人たちだ。そこのシェアを取っていくことよりも、今、Web3やクリプトに触れていない方に「Web3の世界は楽しいし、便利」ということを伝え、そうした人たちを取りに行こうと考えている。そのためにひとつずつだが、いろんなものを繋げていきたい。
──2025年のWeb3業界はどのような展開になると考えているか。
渡辺:国内ではステーブルコイン元年になるだろう。どれくらい利用されていくか、ユーザーの裾野を広げるという意味で最大のポイントになると考えている。グローバルでは国によって当然、状況は異なるが、クリプトの決済手段としての利用頻度、利用金額はますます上がっていくだろう。決済手段としての機能がかなり増えてくると予想している。
また今、我々はSoniumeを手がけているが、レイヤー2とレイヤー1の垣根がかなり曖昧になってきており、この先、まだまだいろいろな企業がブロックチェーンを手がけるようになるのではないだろうか。
|文・編集:増田隆幸
|撮影:多田圭佑