Web3/ブロックチェーン業界は話題に事欠かない。ビットコイン、イーサリアムといったメジャーなコインの価格変動、人気のアルトコイン、ミームコインの台頭。2024年、大規模な破綻や倒産は見られなかったが、国内ではハッキングによる大規模な流出事件がおきた。そして、2024年ほど、チェーン関連のニュースが多かった1年はなかっただろう。
まず、国内のチェーン関連のニュースを時系列で振り返ると、
- 8月:SBI北尾氏、Oasys(オアシス)への出資を発表──戦略的パートナーシップを締結
- 8月:ソニー、イーサリアム・レイヤー2「Soneium(ソニューム)」発表──アスターはAstar zkEVMをSoneiumに移行
- 10月:アプトス、ハッシュパレット買収──パレットチェーンをアプトスに統合し、日本市場進出を強化
- 11月:Japan Open Chainが「JOCトークン」のIEO、15億円調達を目指す──世界複数の取引所に同時上場も
- 11月:伊藤穰一氏らがレイヤー1「Japan Smart Chain」開発を発表
といった大きなニュースが続いた。
一方、グローバルで見ると、イーサリアムのDencun(デンクン)アップデートという大きな出来事のほか、レイヤー1では、ミームコインの発行母体となったソラナ(Solana)の人気が高まった。
レイヤー2では、開発キット「OP Stack」の提供によって、自らと同様のレイヤー2の構築を容易にし、パートナーづくりを進めるOptimism(オプティミズム)の動きが目立った。
暗号資産VC大手アンドリーセン・ホロウィッツ(略称:a16z)のWeb3部門「a16z crypto」が2024年10月に発表したレポート「State of Crypto Report 2024: New data on swing states, stablecoins, AI, builder energy, and more」にも、この2つの動きが反映されている。
「State of Crypto Report 2024」の分析
レポートは冒頭、2年前に初めて「State of Crypto Report」を発表したときから、暗号資産の状況は大きく変わったと述べている。つまり、2年前は、
- 暗号資産には、政治的な関心は寄せられていなかった。
- ビットコインETF、イーサリアムETFは承認されていなかった。
- イーサリアムブロックチェーンはまだPoW(プルーフ・オブ・ワーク)メカニズムだった。
- レイヤー2はほとんど利用されていなかった(利用されていたとしても、手数料は今よりもはるかに高かった)。
「時代は変わった(Times have changed)」とレポートは記している。
レポートは、ステーブルコイン、米大統領選での関心の盛り上がり、DeFi(分散型金融)人気、AI(人工知能)との関係など、7つのテーマを扱っており、まず第1に「暗号資産のアクティビティと利用が過去最高を記録」したことに触れている。
月間アクティブアドレスは2024年9月、2億2000万を超えた。この数字は2023年末から3倍以上増加しているという。
この増加は、ソラナが牽引しており、そのアクティブアドレスは1億にのぼる。レポートは、EVM(イーサリアム仮想マシン)系チェーンと、非EVM系チェーンに分けて整理しているが、まとめるとNEAR(ニア)が3100万、Baseが2200万、Tron(トロン)が(1400万)、ビットコインが1100万件となっている。イーサリアムは600万。
EVM系からレイヤー2(あるいはサイドチェーン)を抜き出すと、米暗号資産取引所Coinbase(コインベース)が手がけるBaseが2200万で突出しており、Polygon PoS(ポリゴンPoS)が500万、Arbitrum(アービトラム)が300万、Optimism(オプティミズム、グラフでは「OP Mainnet」と記載)が100万と続いている。
米取引所Coinbaseのレイヤー2「Base」
米暗号資産取引所Coinbase(コインベース)が手がけるレイヤー2「Base(ベース)」は、2023年8月に一般公開され、米上場企業がブロックチェーンを運営する初のケースとなった。そして公開直後にすぐに人気を集めた。
2024年に入ると、人気が過熱し、トランザクションが進まず、保留となる事態にもなった。
その人気を「マーケティングの勝利」と分析する記事もあったが、流動性の核となる取引所がブロックチェーンを運用するという、ある意味、きわめて理に適った戦略がうまく機能していると言えるだろう。
資産運用大手もトークン化商品をBaseに展開するようになっている。
日本でもBaseを採用するプロジェクトが登場している。
市場が拡大しているトレーディングカードゲーム(TCG)は、一方で偽造品や流通の透明性が課題となっている。この問題にブロックチェーンで立ち向かうのが「モノリス」だ。NFTを活用したTCGの販売を計画しており、チェーンにはBaseを選んだ。
チェーン選択においては、コストが重要になる。モノリスの齋善晴(さいよしはる)CEOは「ユーザー体験を損なわないようすべてガスレスで提供するため、ガスコストの低いチェーンが必須でした。イーサリアムで運用するのはコスト的に現実的ではないため、EVM互換のレイヤー2チェーンの中から選定を行っています」と述べた。
そして、複数のレイヤー2の中からBaseを選んだ理由については「ガスコストの安さに加え、その勢いとエコシステムの成長への期待です。チェーンのTVLは2024年12月時点で第6位と、Polygon(ポリゴン)や他のレイヤー2チェーンを上回っており、NFTの取引高・取引量もイーサリアムに次ぐ規模となっています」と説明した。
モノリスが手がける「CNPトレカ」のアルファ版では、Polygonを利用していたが「Baseの成長とエコシステムの将来性を考慮し、Baseへの移行を決定しました」と語った。開発面においても「EVM互換チェーンであることや、Alchemy(アルケミー)をはじめとする各種開発者向けツールでサポートされていることから、現時点では特に懸念点はありません」と続けた。
Optimismの「Superchain」構想
a16zのレポートでは触れられていないが、Baseは、OptimismのOP Stackを使って構築されている。Optimismは、BaseをはじめOP Stackで構築されたレイヤー2を束ねて、より大きなエコシステムを形成する「Superchain」構想を進めており、Baseはいわばその代表格だ。a16zのレポートにあるように、アクティブアドレスは、本家のOptimismを超えている。
レイヤ−2に特化したデータサイトL2Beatを見ると、上位20のうち、Optimismをはじめとする9つがそのエコシステムに属するチェーンとなっている。TVL(Total Value Locked:預かり資産)のトップはもちろんBaseだが、9つのTVLを合計すると、約230億ドル(約3兆6430億円、1ドル148円換算)となり、単独で最大のレイヤー2であるArbitrumの約175億ドルを上回っている。
Optimismが提供する開発ソフトウェア群であるOP Stackで構築されたレイヤー2は、必然的にOptimismと高い互換性を持つことになる。“Optimismクローン” と言ってもよいだろう。
Superchainには、Baseのほか、ChatGPTで有名なサム・アルトマン氏の暗号資産プロジェクトWorldcoin(ワールドコイン)の「World Chain(ワールドチェーン)」、DeFiプロジェクトUniswap(ユニスワップ)の「Unichain(ユニチェーン)」、米暗号資産取引所Kraken(クラーケン)の「Ink(インク)」など、暗号資産業界のビッグネームが名を連ねている。
1月14日にメインネットローンチを発表したソニーグループの「Soneium(ソニューム)」もOP Stackを使っており、Superchainの一員となっている。事実、Soneiumを手がけるSony Block Solutions Labs(Sony BSL)はリリースで「Optimism Foundationが開発したOP StackとSuperchainを活用することで、個人やコミュニティが協力し、創造し、デジタル空間にエモーションをもたらすことを可能にするパブリックブロックチェーンを提供する」と記している。
こうしたレイヤー2の相互運用性に関する取り組みは、Optimismだけのものではない。例えば、Polygonは「AggLayer(アグレイヤー)」と呼ばれる取り組みを進めている。
「世界のソニー」はSoneiumで何を狙う
Soneiumは、2024年8月に発表され、その後、テストネットのローンチ、米ドル連動型ステーブルコインのUSDCとの提携、インキュベーションプログラム「Soneium Spark」の展開と積極的な動きを見せた。とはいえ、多くの人が興味を持っているのは、ソニーグループの既存ビジネスとの連携・融合だろう。
ソニーグループの事業・製品は、Webサイトを見ると「ゲーム&ネットワークサービス」「音楽」「映画」「エレクトロニクス製品」「イメージング&センシング・ソリューション」「金融事業」に分かれている。Web3マスアダプションを考えたときに、最も注目されるのはPlayStationを抱えるゲーム事業だ。また銀行、保険などの金融事業はブロックチェーンのコアなユースケースであり、ステーブルコイン、トークン化MMFなどグローバルな事例はもちろん、日本でもセキュリティ・トークン(デジタル証券)の人気が高まっている。
さらに直近では、KADOKAWAの筆頭株主になっており、アニメ・マンガといったIPへのブロックチェーン活用も期待される。
だが、Soneiumのメインネットローンチに合わせて開催された「ソニーグループWeb3事業発表会」は、傘下のブロックチェーン関連会社3社(Sony BSL、S.BLOX、SNFT)が、「Soneium(ソニューム)」、暗号資産取引サービスのリニューアル版「S.BLOX」、NFTを活用した「Fan Marketing Platform」の3つの取り組みを開始するという内容に留まった。
期待されたゲームや金融、映画・音楽といったグループ企業との連携について、プレゼンテーションを行ったS.BLOX 代表取締役社長 渡辺潤氏は「今はそのような計画はない」「今は言えることがない」と述べた。
NFTを活用したファンマーケティングは、Web3のユースケースとして期待される分野だ。多くの人気アーティストを抱えるソニーが、この分野に乗り出すことは、「推し活」の新たな可能性やファンを基盤したトークンエコノミーを実現するものとして期待が高まる。
だが、渡辺氏は発表会の質疑応答で「まだソニーグループのアーティストなど、どこのアーティストで行うかは決まっていない。グループも含めて、オープンなプラットフォームとして広く使ってもらうことを想定している」と述べている。
分散性への懸念
Soneiumはメインネットローンチで本格的なスタートを切ったが、SNS上では一部、批判あるようだ。
昨年8月にテストネットがローンチした後、ミームコインを発行するプロジェクトがあったが、ミームコインに使われたキャラクターのIP(知的財産権)侵害などが指摘された。それを受けて、Soneium側がプロジェクトをバン(凍結)したことで、ミームコインを購入したユーザーは資産を回収できなくなったとの声があがっている。
IP侵害は許されることではない。だが、パブリックチェーンにおいて運営サイドがそうしたプロジェクトをバンするプロセスとしては、どのようなプロセスが適切だったのか。
レイヤー2、特にSoneiumはソニー、BaseはCoinbaseといったように大手企業が運営している。そのため、ブロックチェーンの本質である分散性が損なわれるのではないかと見ることもできる。
レイヤー2の老舗Polygonの戦略
Optimismが注目を集める一方で、2024年、あまり動きが見られなかったのがPolygon(ポリゴン)だ。
2019年にICO(新規コイン公開)を行った “老舗レイヤー2” として、2、3年前にはゲーム業界での採用や、特にアメリカでのスターバックスの顧客ロイヤルティプログラム「Starbucks Odyssey(スターバックス・オデッセイ)」での採用が大きな話題を呼んだ。
同プログラムは、Web3ビジネスの先駆的なユースケースとなったが、2024年3月に終了している。
とはいえ、2024年は東京ゲームショウに大型ブースを出展して、ゲーム会社との連携をアピールしたほか、カーボンクレジット実証実験、日産自動車のWeb3プロジェクト「NISSAN PASSPORT」などでPolygonが採用されている。
ソニー銀行のWeb3エンターテインメント向けアプリ「Sony Bank CONNECT」もPolygonを採用しており、さらに同行はステーブルコインの発行に向け、Polygon Labsなどと実証実験の検討を開始している(話は逸れるが、ソニーグループはPolygonを採用したこうした取り組みをSoneiumに集約していくのかも要注目だ)。
Polygon Japanは、1月14日(Soneiumのメインネットローンチと同日)に「2025年のPolygonを理解するために覚えておきたい出来事8選」と題した記事を公開し、2024年のPolygon PoSチェーンのデータを紹介している。
- アクティブウォレット数:5,500万(昨年度比+66% )
- 合計トランザクション数:10億以上(+17%)
- NFT:合計約5,700万Txn で市場規模約28.9億円(+125%)
- RWA:市場規模は約8,500万円(+26%)
- ゲーム:合計2.2億以上のTxn(+950%)、1060万以上のウォレット(+698%)!!
これを見る限り、2024年は順調な成長をみせている。確かに、グローバルで見ると、米大統領選関連の賭けで人気を集めた「Polymarket(ポリマーケット)」はPolygon上で稼働している。Polymarketは「賭けサイト」として批判されることの多かったWeb3予測市場が、従来の世論調査よりも優れた予測を示す可能性を示した。
Polygonも前述したように、レイヤー2の相互運用性向上を目的に「AggLayer(アグレイヤー)」と呼ばれる取り組みを進めており、2025年はその推進に注力するとしている。
Polygon Head of APACのビール依子氏は、AggLayerについて「Polygonブランドではなくニュートラルなインターオペラビリティ技術として開発」していると説明。レイヤー2を乱立させることは、ユーザーや流動性を分散させる結果となり、相互運用性の重要性は業界関係者の「共通認識となっている」。
「ニュートラルなものを使うか、色が濃いところに入ってそのベネフィットを受けるかなどは、チェーンやコミュニティの方針次第だ。相互運用性については、皆がつながっていく場であり、我々はPolygonの色を出さずにニュートラルなスタンスで望んでいる」と語った。
ここまで、レイヤー2の動向がかなり長くなった。後編では、レイヤー1の動向を見ていく。
|文:増田隆幸
|画像:Shutterstock
※編集部より:「Soneium」の数カ所、誤記載しておりました。お詫びして訂正します。