チケットの不正転売解消と公式リセールを整備するEX構想とは──IISEが社会課題解決フォーラム

NECグループの独立シンクタンク、国際社会経済研究所(IISE)は2月7日、都内で「〜社会課題を解決し、市場を形成するソートリーダーシップの本質と可能性〜」と題したフォーラムを開催した。官民の有識者が登壇し、Web3やブロックチェーンを活用したビジネス拡大やチケットの不正転売防止といった社会課題解決についても意見が交わされた。
「アーティストとファンの価値共創の関係を作り出すEX(エンターテインメント・トランスフォーメーション)とは」と題されたWeb3のセッションには、知開代表取締役社長の半田勝彦氏、デジタル庁参事官補佐の鳥山高典氏、W TOKYO執行役員、東京ガールズコレクション実行委員会チーフプロデューサーの池田友紀子氏、NEC デジタルプラットフォームビジネスユニット バイオメトリクス・ビジョンAI統括部 web3ビジネス開発グループディレクターの樋口雄哉氏、IISE ソートリーダーシップ推進部 プロフェッショナルの鈴木章太郎氏が登壇。モデレーターは、経済キャスターの瀧口友里奈氏が務めた。
同研究所は昨年11月、18〜69歳の男女計約1万人を対象に行った公演チケット購入者のファンクラブ加入率や推し活に関する調査結果を発表。ファンクラブ加入の最大の動機が先行チケットの購入であることや「推し活を行っている」と回答した人が26%いたことなどをまとめた。そのなかで社会課題にもなっているチケットの不正転売を防ぐ手段として、「EX(エンターテインメント・トランスフォーメーション)」と呼ばれる新たな構想を提唱している。
デジタル技術でチケット販売を透明化
半田氏と鈴木氏はEXの概念について、Web3技術を活用しチケット販売の透明性を確保するものと説明したうえで、不正転売の解消とともに二次流通(リセール)の整備も進めることがファンの満足度や利益向上につながると指摘。2019年に施行されたチケット不正転売禁止法に賛成する人が82%いる一方で、本人が行けなくなったチケットを転売したり、購入したりできる公式リセールへの賛成派も80%いるという調査結果の一部が紹介された。

EXの構想には、VC(Verifiable Credentials:デジタル証明)や次世代KYC技術の導入による本人確認の厳格化などが盛り込まれている。こうした取り組みの一例として鳥山氏は、昨年開催された東京ガールズコレクションで、マイナンバーカードを用いた本人確認を行った人向けのチケット販売を行ったと説明。転売ヤーではなく、本当に行きたい人が行けるのは良いことだとするユーザーの声があったとし、3月に開催されるハロー!プロジェクトアイドルのバースデーイベントでも同様の実証実験を行うと話していた。
本人確認がシームレスにできる社会
「署名とか認証という言葉を使うとちょっと堅苦しい。Web3の技術を活用し、いかに敷居を低くして本人確認できるようにするか」が不正転売を解決する鍵だと鳥山氏。樋口氏は、なりすまし防止のため、その人が誰なのかということを「シームレスに理解できるようにすること」が大切だとし、分散型アイデンティティやデジタル証明などWeb3を使って実現できる社会に期待を寄せた。
ファンクラブのあり方について池田氏は、「単にチケットが手に入りやすい場にしたくはない」とし、抽選で選ばれたファンがランウェイで記念撮影できるなど東京ガールズコレクションの取り組みを挙げた。デジタル技術も活用しながら今後も良質なコミュニティーづくりをしていきたいと述べると、ふるさと納税や関係人口の創出など自治体がファンを作る場合でもエンターテインメントの世界に学ぶことは多いと鳥山氏が応じていた。
|文・写真:橋本祐樹