BTCとS&P500、スタグフレーショントレードに劣勢──トランプ関税が成長の妨げになる恐れ
  • S&P500とビットコイン(BTC)は今年下落しているが、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のスタグフレーション・バスケットは20%近く上昇している。
  • ビットコインのデジタルゴールドとしての魅力は健在だ、とノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏は語った。
  • 私たちが目にしているのは、関税の影響の前倒しであり、スタグフレーションではないだろう、とマーカス・ティーレン(Markus Thielen)氏は主張した。

トランプ関税と貿易戦争の脅威が迫っていたにもかかわらず、今年初めにダボスで開催された世界経済フォーラムでは、停滞とインフレの合成語であるスタグフレーションの可能性について、あえて口にする者はいなかった。

しかし、投資家たちはスタグフレーションのリスクを認めており、バイ・アンド・ホールドのビットコインやS&P500に比べて、スタグフレーションに関連する戦略のアウトパフォーマンスにつながっている。

コモディティとヘルスケアなどのディフェンシブ銘柄の強さに賭け、一般消費財、半導体、不採算ハイテク株をショートするゴールドマン・サックスの 「スタグフレーション・バスケット 」は先週時点で、年初来で20%近く上昇している。

データソースTradingViewとCoinDeskによると、ウォール街のベンチマークとなる株式指数、S&P500は今年4%下落し、時価総額トップの暗号資産(仮想通貨)ビットコインは10%下落している。

国際通貨基金(IMF)はスタグフレーションを、高インフレが経済停滞、高失業率、経済活動の全般的な低下と重なる状況と定義している。

「株や債券の価格は、成長率の低下とインフレ率の上昇(スタグフレーション)に適応しているように見えるが、他の要因も働いている。例えばヘルスケアは、規制緩和の約束が直接の財源削減を相殺し、その恩恵を受けている可能性が高い」と、ニュースレター「Crypto Is Macro Now」を執筆するノエル・アチェソン氏は語った。

スタグフレーションのささやきは2022年初頭から聞かれるようになったが、トランプ関税と貿易摩擦の激化が主な原因となって、市場は今年になって価格に織り込み始めた。

2年物や5年物のスワップといった将来の見通しを含むインフレ指標は数年ぶりの高水準に上昇し、貿易戦争が消費を割高にするとの懸念が表れている。

一方、国債市場の主要なイールドカーブは最近逆転し、今後の景気後退を示唆した。アトランタ連銀のGDPのようないくつかのリアルタイムGDPトラッカーは、経済活動の急激な縮小を示唆している。

ビットコインはデジタルゴールドとして失敗したのか?

潜在的なスタグフレーションは、ビットコインのような価値の保存手段としての魅力を持つ資産が輝くのに最適な状況だ。金は今年に入って、13%上昇している。

しかし、暗号資産の保有者たちが長年提唱してきたこの主張は、現実のものとはなっていない。実際、ビットコインと米国株の相関関係はここ数週間で強まっている。

アチェソン氏は、だからといってビットコインがもはや安全な逃避先ではないとは限らないとして、次のように語った。

「ビットコインは短期的なリスク資産であり、価格は最後の短期的な取引によって決定される。ただし長期的には、検証可能な供給上限とグローバルな有用性を考えれば、安全な逃避先だ。ここ最近、市場はリスクオフのムードにあるため、マクロポートフォリオはポジションを軽くしており、次の上昇に必要な新規資金流入はまだ見られない。プロの投資家にとっても個人にとっても不確実性が高いため、しばらく時間がかかるかもしれない」。

それでもアチェソン氏は、追い風が続いており、市場が新たな経済情勢に適応すれば、暗号資産市場への資金流入が再開する可能性が高いと説明し、次のように続けた。

「教育が広まり、新しい機関投資家向けサービスが提供され、世界中で機関投資家(そして彼らを通じてメインストリームの個人投資家)が安心できるような規制の枠組みが策定されるなど、追い風は健在だ」。

スタグフレーションは読み違い

10xリサーチ(10x Research)の創設者であるマーカス・ティーレン氏は、この状況をスタグフレーションと読むのは間違っていると、少し違った見方を示した。

「私たちが目にしているのは、関税の影響が前倒しされ、コモディティの需要が一時的に急増していることだろう。今後数カ月で薄れていくはずだ。さらに、DOGE(政府効率化省)をめぐる不確実性が成長期待の重しとなっている」とティーレン氏は語った。

また、今週後半に米連邦準備制度理事会(FRB)がハト派的な基調を示す可能性があれば、ビットコインを含むリスク資産の強気ムードが復活する可能性があると付け加えた。

トランプ氏は先週、カナダからの鉄鋼・アルミ輸入に対する関税を2倍の50%に引き上げる計画を中止した。FRBは3月19日に金利見通しを発表する予定だ。

「最近のトランプ大統領の発言は、好戦的な通商政策が軟化する可能性を示唆しており、今週のFRBがマイルドなハト派的なトーンになる可能性と相まって、成長志向の資産が反発する舞台が整う可能性がある。歴史的に見て、スタグフレーションの長期化に賭けることは過去40年間、勝てる戦略であったことはほとんどなかった」とティーレン氏は指摘する。

|翻訳・編集:山口晶子
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|原文:Bitcoin, S&P 500 Take Backseat to Stagflation Trade as Trump Tariffs Threaten to Derail Growth