野村はデジタル証券プラットフォームで「ファン」形成を狙う──ブーストリー社長

株式や債権、不動産などの所有権や配当を受ける権利をトークンの形で表したセキュリティ・トークン(デジタル証券)が「電子記録移転権利」などに位置付けられる改正金商法が来年、2020年春に施行されるのを前に、デジタル証券プラットフォーム「ibet」を公開したブーストリーの佐々木俊典代表取締役社長が11月25日、日本ブロックチェーン協会の定例会で構想を語った。

証券最大手の野村ホールディングスなどが設立した同社。佐々木氏は今後の証券型トークンの動向について、内閣府令や自主規制がどうなるかがポイントだと述べたほか、2020年にはいくつかの事例が出てくるだろうと指摘。案件が増えていくには、金融機関が対応を始めるかどうかが重要だとの考えを示した。

野村のデジタル証券プラットフォームibetとは

ブーストリーは11月公開したデジタル証券プラットフォーム「ibet」について、権利の作成、売買、利用ができる“権利移転の共有ネットワーク”と説明。

JPモルガンが開発したイーサリアムベースのクオラム(Quorum)を使用した基盤で、ブロックチェーン上で株式や社債、不動産などの所有権、各種会員権、デジタルアセットを流通させる構想だ。

佐々木氏発表資料より

ブーストリーではまず社債が対象になるとの報道もあるが、佐々木氏は「狙うのは社債市場かというと違う。資本市場のなかの社債市場を取り合うのは面白くない。ファイナンス全体のオンデマンド化を狙いたい」と強調。「既存の普通株を(ブロックチェーンで)置き換えるインセンティブは、資金調達側にはない。今後の上場株や優先株の扱いをブロックチェーンでやるのは合理的と思う」と述べた。

ibet開発の経緯については、「資本市場をインターネット化したいと思った」と述べた。2000年代にネット証券が参入したが、パソコンやスマートフォンを通して株式を買えるだけで「裏側の仕組みは何も変わっていない」と指摘、インターネット時代に沿ったP2Pの取引を実現したいと説明した。

野村はファン作り×金融に注力

ブロックチェーンを活用したP2P取引が主流になれば、資本市場が、調達者と投資家が直接つながり(相対)、いつでも売買、いつでも保有者が分かり(即時)、自由な商品設計ができる(自由)なものになると佐々木氏は説明。

佐々木氏発表資料より

そのような資本市場を実現するために、ブーストリーは「ファン作り×金融」に注力すると明かした。佐々木氏はある消費財メーカーの調査を挙げ、株主だと自社商品を買う割合が10倍以上になると指摘、企業とユーザーがより直接的につながるメリットを示した。

その上で、金銭的な価値は誰にとっても同じ価値だが、金銭ではない価値を付け加えた商品設計をすることで投資家(ファン)をつくりたいという考えを示した。

決済手段と秘密鍵の管理が問題に

証券型トークンの今後(佐々木氏発表資料より)

今後のデジタル証券・証券型トークンを取り巻く流れについて、佐々木氏は内閣府令や自主規制がどうなるかがポイントだと述べたほか、2020年にはいくつかの事例が出てくるだろうと指摘。

その後、カギとなる機能として、ブロックチェーンと連動する決済手段と、秘密鍵の管理が問題になると説明した。権利移転の基盤と連動する決済手段ができ、ユーザーが資産を管理する秘密鍵の仕組みが整えば、デジタルアセットが一般に浸透してくだろうとの認識を示した。

文・写真:小西雄志
編集:濱田 優