中国の習近平国家主席が2019年10月、ブロックチェーン技術を中国が掴むべきチャンスとして称えた際、世界第2位の経済大国における仮想通貨市場にとって幸先の良い兆しと多くの者が捉えた。
その楽観的な解釈は、主要仮想通貨だけではなく、価格操作策と思われるものも含めた投機的熱狂の再来につながった。
しかしそれが、取引所、プロジェクト、メディアおよびブロックチェーンや仮想通貨をテーマにしたイベントを標的にした地元規制当局の取締りの引き金となり、中国が仮想通貨に好意的となる期待を潰した。
習国家主席の発言から数時間後には30%も高騰したビットコイン価格は、発言以前よりも低い水準へと落ち込み、2019年11月25日(現地時間)、6カ月ぶりの安値となる7000ドル(約76万円)割れを記録した。
「最初の値上がりは過剰反応で、特に中国共産党の有名な『アメとムチ』戦略の元では反発が必須と、すでに何度も呼びかけた」と、プリミティブ・ベンチャーズの創業パートナー、ダビー・ワン(Dovey Wan)氏はツイートした。
仮想通貨関連ニュースサイトのザ・ブロック(The Block)は先週、仮想通貨取引所バイナンス(Binance)の上海オフィス閉鎖という、取締りの象徴的な出来事となった事態を報じた。バイナンスのCEO、チャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)氏は当初、上海オフィスの存在自体を否定し、「警察の強制捜査」があったとする報道に不快感を示した。
ザ・ブロックはその後、「当局による訪問」へと表現を和らげたが、CoinDeskの入手した情報によれば、バイナンスは確かに上海に一時期オフィスを持っていた。
上海のテレビ局ドラゴン・テレビジョン(Dragon Television)は11月25日夜、バイナンスの上海オフィスが閉鎖されたことに加え、そのオフィスがアウトソーシングのカスタマーサービススタッフと、開発者によって使われていたことを伝えた。
「エアー・コイン」と中国の取り締まり
指導者習首席の発言によって、中国国内の仮想通貨コミュニティは束の間の活性化を見せていた。
11月8日から9日にかけて中国の烏鎮で開かれた「ワールド・ブロックチェーン・カンファレンス」の参加者は、主催者である8btcの発表によれば4000名を超えた。講演者には、バイドゥ(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)などの従来からのテック企業の担当者、および仮想通貨取引所、ファンド、プロジェクト、マイニング事業の関係者が含まれていた。
楽観的な見通しをさらに支えるように、習国家主席のスピーチの数日後には、中国トップの経済計画機関が、仮想通貨マイニングの国際的ハブとなっている中国からマイニングを排除するよう勧告していた提案を取り下げた。
しかしその後、中国政府は圧力を強め始めたのである。
中国人民銀行の上海支店は11月14日、上海市内各地区の地元政府機関に対して、仮想通貨の取引、資金調達、振興、仲介サービスを提供する企業を調査、一掃することを支持する通達を出した。その後ウェブサイト上に公式に通達を発表し、高まる仮想通貨熱を早いうちに摘み取る計画だと述べた。
そしてどうやら、これは国家規模の取り組みのようだ。深セン金融監督当局は11月21日、同様の通達を出し、ICOや、ブロックチェーンを技術的実体を伴わずにマーケティングの小道具として利用する不正行為を取り締まる意思を表明した。
中国国営テレビ局CCTVは11月24日、北京、上海、深セン、杭州など複数の市が同様の取り組みを始めており、これは序章に過ぎないと述べた。
確かに取締りは今のところ、国営メディアが「エアー・コイン」と呼ぶ、実際のチームや開発を伴わずに、どこからともなく発行された仮想通貨、そしてそれらのコインの価格をパンプ・アンド・ダンプで価格操作するより小規模な取引所を主な標的としている。
中国政府が支援したレポートは先週、中国を拠点とした2万8000のブロックチェーン企業のうち2万5000社は、不法な資金調達手段を通じて仮想通貨を発行したとさえ主張した。
その結果、CCTV、新華社、経済参考報、中国証券報を含む複数の国営メディアは先週にかけて、「エアー・コイン」の復活と中国の取締りの取り組みについて全国向けにニュースを報じた。
ウェイボー、ウィーチャット等のSNSでも
一方、フォビ(Huobi)、オーケーイーエックス(OKEx)、バイナンスなど取引量の大きな大手取引所の取引サービスは今のところ、取締りの影響を受けてはいない。
それでも、これらの取引プラットフォームが少なくとも当分の間、運営、マーケティング、宣伝活動という点では控えめに一歩退く方向に向かっている兆候が見られる。
例えば、中国最大のソーシャルメディア「ウェイボー(Weibo)」におけるオーケーイーエックスの中国語版公式アカウントが挙げられる。ここでは、仮想通貨市場分析、トークンの上場に関する発表、そしてイニシャル・エクスチェンジ・オファリング(IEO)用のジャンプスタート(Jumpstart)プラットフォームでのアクティビティについて定期的なアップデートが投稿されていた。
しかし11月14日以降、同社のウェイボーアカウントはブロックチェーンの基本情報を伝えるブロックチェーン101への投稿、そしてブロックチェーンアプリケーションに関するニュースの投稿のみを行っている。
一方、バイナンスとブロックチェーンプロジェクト「トロン(Tron)」の公式ウェイボーアカウントは、法律、規則、ウェイボーのサービス規約違反というユーザーからの苦情により、いまだに停止されたままである。
さらに安全上の懸念から匿名を条件に取材に応じた2人のイベント主催者によれば、ここ数週間上海で予定されていたブロックチェーンおよび仮想通貨をテーマにした多くのイベントが中止、または規模を縮小して開催された。
イベント主催者の1人は、一連のイベント中止は、安全上の理由、または会場提供者が取締りのニュースを受けて協力を拒んだことを理由とするものであると述べた。これらのイベントは、ブロックチェーン技術や仮想通貨経済を一般的に議論する予定であったにもかかわらずだ。
もう一方のイベント主催者は、実際に開催されたイベントやミートアップも、招待客のみ、または取引関連の討論会を中止するなど、規模を縮小して行われたと述べた。
投機を促すような取引所やプロジェクトに対する取締りはまた、購読者に対して仮想通貨取引についてのコンテンツを届けるウィーチャット(WeChat)の複数のアカウントの禁止にもつながった。
いまのところ、「ワン・コイン」、「クリプト・ボンド」、「トレーディング・クラス」という少なくとも3人のブロガーのウィーチャットアカウントが、アクセス不能になっている。これらのアカウント情報を閲覧しようとすると、次のような文言の書かれたページに移動する。「法律、規則、方針違反に関するユーザーからの苦情をウィーチャットが検討した結果、このアカウントは禁止されたため、コンテンツにアクセスできません」
翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Chinese president Xi Jinping, image via Shutterstock
原文:Crypto Market’s Overreaction to Xi’s Blockchain Remark Prompts Tougher Crackdown