新総裁が就任、アジア開発銀行のブロックチェーンの取り組みは?【ADB】

アジア開発銀行(ADB)は12月2日、前財務官で内閣官房参与(兼財務省顧問)の浅川雅嗣氏を新総裁に選出したと発表した。ADBの歴代総裁はすべて日本人で、日本銀行総裁の黒田東彦氏も2005年2月から2013年3月まで務めている(第8代総裁。現職は第9代の中尾武彦氏)。

ADBは開発の専門家がブログであらゆる見解を示しており、ブロックチェーンについて取り上げた記事も公開されている。

ADBとはどんな組織なのか

アジア開発銀行はその名の通り、アジア・太平洋地域の経済成長、特に加盟の途上国の経済発展への貢献を目的とする国際開発金融機関。1966年設立、本部をフィリピン・マニラに構え、世界26ヵ国に事務所を持っている。

主な業務としては、加盟の途上国への資金の貸付、開発プロジェクト・開発プログラムの準備・執行のための技術支援及び助言業務、開発目的のための支援促進、開発政策の調整支援などとされている。

設立には日本の大蔵省(当時。現財務省)が深くかかわったとされており、近く就任する浅川氏を含めた歴代10人の総裁はすべて日本人だ。浅川氏は2020年1月17日付けで着任するといい、任期は2020年1月16日に退任する中尾総裁の残りの任期である21年11月23日までだ。

ADBのブロックチェーンの考察とは

そのADBは、開発の専門家がブログでブロックチェーンに対する考え方や、各国・企業の取り組みを紹介している。たとえば「How secure is blockchain?」「How blockchain can revolutionize access to finance」「Blockchain pilots making waves in developing Asia」「4 ways blockchain will disrupt the energy sector」といったものだ。

最近では11月に「Is blockchain a good bet for development?」と題し、ブロックチェーンが開発のための選択肢となり得るのかどうかについて論じている。

この記事では冒頭、「ブロックチェーン技術には見込みもあるがリスクもあり、どう機能するか、安全に効果的に使うにはどうしたらいいのかをよく理解する必要がある」「暗号資産やICO、仮想通貨取引はしばしば、トリックスターやマネーロンダリングをする人たち、好ましくない人たちがはびこる温床になり得る」などと指摘している。

その上で、国際送金のコストが高い問題について触れ、フィリピンのユニオンバンクがイーサリアムベースのプライベートチェーン上で動くネットワーク「i2i」を国内向けに活用している事例を紹介している。

2018年には6金融機関しか利用していなかったが、31にまで増えたこと、8000万ペソに近い送金(575トランザクション)を支えたことを指摘し、これによって節約できた額は、金融機関を利用できていない(アンバンクトな)家庭の1週間の食費額相当に達したと強調している。

さらにユニオンバンクがPHXと呼ばれるステーブルコインを発行したことも紹介。PHXは、フィリピンで銀行が発行した初めてのステーブルコインの事例で、フィリピンペソにペッグされ、ユニオンバンクの準備金に裏付けされているという。記事では、ユニオンバンクはトークン化された法定通貨をシンガポールのOCBCバンクから、フィリピン南スリガオ州の地域銀行であるカンタリアンバンクへの送金にも使ったと報告している。

ダイヤモンド産業、農業でも活用進むブロックチェーン

このほかにもダイヤモンド産業でのブロックチェーン活用についても言及し、「ブラッド・ダイヤモンド」「紛争ダイヤモンド」問題の存在に触れている。

記事では、国連が54の国に対して、紛争ダイヤモンドをサプライチェーンから排除するよう約束させているが、その原因は見える化、出所が分からないことに起因していると指摘。さらにデビアスが2018年「Tracr」と呼ばれるブロックチェーンプラットフォームをローンチし、ダイヤモンドの出所や確実性、トレーサビリティを担保したことも取り上げている。

農業分野での活用についてはまた、オーストラリアのアグリデジタルが農産物コモディティをブロックチェーンに乗せ、穀類の生産者への支払いをリアルタイムでできるようにしたことも紹介されている。

さらにはジョージアが2016年からビットフューリーとの協力で、不動産登記の効率性を高めるためにブロックチェーンを活用していることも報告。不動産分野での活用はオーストラリアのニューサウスウェールズ州やイギリス、ブラジル、インド、フィジーなどでも行われているとした。

「トレードオフであることも理解を」

結論として、ブロックチェーンが目覚ましい進化をもたらすのか、単にワークフローのデジタル化が進化をもたらすのか、その線引きはあいまいであると述べたほか、現状の極めて早い段階では、トレードオフであることについても理解しておくべきと訴えた。

その上で、インターネットやクラウドコンピューティングのようなイノベーションも、その革新がいくつかのステージを経たとして、ブロックチェーン技術の浸透には時間がかかるとの考えを示唆。利用を考えている人は、データベース、ブロックチェーン、分散型台帳技術を含めてその良さを比較、検討して適切に使う必要があるなどとして締めくくった。

文・編集:濱田 優
写真:Asian Development Blog