ゲームやVR領域の投資、開発で知られるgumiの創業者で会長の國光宏尚氏は、クリプト・ブロックチェーンに限らず経済メディアやイベントでの発言・発信も多い。「これから人類は圧倒的に暇になる」とし、豊かな生き方の選択肢を増やす取り組みに注力しているという國光氏に19年の振り返りと20年の展望を聴いた。
2019年は「規制当局との向き合い」がテーマだった
──クリプト・ブロックチェーン業界にとって2019年はどんな年だったと振り返りますか?
世界共通した最大のテーマ、一番大きかったトピックは、規制当局との向き合いでしょうね。
日本はもともと、2018年1月のコインチェックがハッキングされた事件以降、規制が世界的にもとりわけ厳しく、取引所はどこも規制対応に力を入れてきました。ただ、ここに来てほぼ規制も明け、最近はステラなど新しい仮想通貨の上場も見られます。
アメリカは思った以上に規制当局の動きが遅いですね。SECもなかなかビットコインETFを承認しませんし、企業側からしてみれば明確な基準が見えにくく対応しづらいと思います。
あとアメリカといえば、そして2019年といえば、何と言っても「リブラ」の話題は避けて通れませんが、規制当局からのすさまじい反発がありました。
この領域に関して米国政府の規制への取り組みが遅い中で、リブラが過激な構想を打ち出してきたから、余計、規制当局の気持ちを逆なでしてしまった感じがありますね。
──リブラが延期された今、米国以上に気になるのが中国の動向です。
中国は当初、仮想通貨、ブロックチェーンを厳しく規制していましたが、国家主席のブロックチェーン大号令で一気に進んだ感があります。DCEP(デジタル通貨電子決済)やCBDC(中央銀行デジタル通貨)の構想も進んで、国家としてスピード感をいきなりあげてきた印象です。ただ一方でクリプトカレンシーへの態度は引き続きネガティブで、取引所への締め付けは厳しくなっています。
つまり、中国はテクノロジーとしてのブロックチェーンには超積極的、 トークンは政府がコントロールして規制・管理するというスタンスが明確です。政府がコントロールする暗号資産って、もはやクリプトとは呼べないですね(笑)。
欧州は政府・中銀がデジタル通貨の構想を出している国もありますが、米中と比べてもニュートラルという印象を持っています。
2019年は「夜明け前」、2020年の5つの注目ポイント
──規制当局との向き合いは金融では避けて通れませんね。技術やテーマなどで、2019年に「これは進んだな」というものはありますか?
そういう観点で2019年を振り返ると、「DeFiの年だった」と言えるでしょうね。DeFi(分散型金融)が思った以上に躍進したのに比して苦戦したのがST(セキュリティトークン)です。「どのアセットを扱ったらいいのか分からない」「わわざわざブロックチェーンを使う意味はあるの?」といった疑問が浮かんできて、足踏み感があるように思えます。
あと「Dappsが立ち上がってきた年」でもあります。まだ“ハネた”とは言いがたいですが、着実に成長してきている。以前は、ブロックチェーンや仮想通貨の領域のプレイヤーの中心は取引所やマイナーで、オープンプロトコルやセカンドレイヤーが(ビジネスの)中心だったわけですが、今年はDappsのユースケースが出始めた。つまり“さらに上のレイヤーで何をやるか”というところにフォーカスが移ってきた。
これらの分野を振り返ってみて、2019年は「夜明け前」と形容できますね。取引所などのプレイヤーに対する規制はある程度落ち着いてきたし、中国もブロックチェーン分野での方向性を示してきた。まだまだとはいえ、Dappsも立ち上がってきた。
──それぞれの分野で、日が昇る前のところまで事態が進んできたということですね。そんな中で最初に日が昇りそうな分野やテーマは何でしょうか?
もちろんそれはDappsだと考えていて、その中でもゲームとかコミュニケーションだと信じています。その他の分野でいうと、2020年のテーマ・注目しているポイントはいくつかありますが、要約すると次の5つです。
(1)規制がどうなるか
(2)DeFiは引き続き伸びる
(3)エンタープライズ向けはPoCフェーズが終わる
(4)CBDC、国家主導のブロックチェーンがどうなるか
(5)オープンプロトコルの戦い
最後のオープンプロトコルの戦いについては、今のところ本命はイーサリアムだと思います。ただイーサリアムの今後のアップデートを考えても不安感しか覚えないし、むしろEOSやTRONなどの競合が自滅気味でイーサしかないという状況になっている。あとオープンプロトコル同士の戦いというより、コンソーシアム型に近いリブラとかクレイトンとか、LINK、テレグラムも含めて、このあたりのどのチェーンが生き残るのか争いが激しくなるでしょう。
──ブロックチェーンゲームはどうでしょうか?
新しい世代が生まれてきていますね。ブロックチェーンベースのゲームでは、最初にクリプトキティが生まれ、NFT(ノンファンジブルトークン)の存在と使い方を知らしめました。ただこの場合、NFTは発行するだけだった。
そんな中でMy Crypto Heroes (マイクリプトヒーローズ、マイクリ)が進化させたのは、NFTを発行するだけでなく、NFTを持っていることに意味を持たせた点です。価値付けできた点は、マイクリチームの偉業だと思っています。
(※編注:「My Crypto Heroes」はgumi投資先のdouble jump.tokyo 株式会社が配開発・運営をしている)
なぜ日本がブロックチェーンゲーム・Dappsゲーム大国なのか
──ブロックチェーンゲームで世界最大規模のマイクリは日本発です。日本はこの分野進んでいますね。
マイクリ以外にもクリプトスペルズ(CryptoSpells)、コントラクトサーヴァント(Contract Servant)も出ました。gumiでも、グループ会社のAlim(エイリム)が持つブレイブフロンティア(ブレフロ、世界で3800万超DLされた人気RPG)のIPを、マイクリのゲームシステムを使って配信する取り組みを進めています。サッカーのIPを使ったゲームの企画も進んでいます。
NFTというものを発明したクリプトキティが第1世代、NFTとその価値をアップデートしたマイクリが第2世代として、さらに今後は第3、第4世代が続いて出てくるし、マイクリも進化し続けると思います。
──なぜ日本はそこまで進んでいるのでしょうか?
ブロックチェーンゲームって、モバイルゲームに近いんです。一方のVRゲームはPC、コンソールゲームが近い。もともと日本にはモバイルゲーム専業、そこから生まれたスタートアップが多いので、ブロックチェーンゲームも盛んなわけです。
なぜブロックチェーンゲームとモバイルゲームが近いかというと、両方ともデータドリブンで、ゲーム内のエコノミクスをどう回しながら、どうコミュニティを形成するかが大事なんですね。
一方のVRはコンソール系ゲーム、PCゲームが近いんですが、PCゲームが強かった欧米のほうがVRにも強い。日本では、ゲームセンターを運営していたような、アミューズメント系の企業がVRでは目立っていますね。VRはゲームが買い切り型だし、ネットワークで楽しむモバイルゲームとは異なります。
こうした背景があって、モバイルゲームが強かった日本はDapps、ブロックチェーンゲームに強く、コンソール、PCゲームが強かった欧米はVRで存在感を見せているわけです。
Dappsゲームが広がるための3つの課題
──ただ日本でも、ブロックチェーンゲームはまだ一部でしか広がっていないように見えます。本格的に広がる上での課題は何でしょうか?
ブロックチェーンゲームに限らず、一気に立ち上がる(編注:圧倒的に浸透するという意味)には、まずハードが整ったうえで、キラーコンテンツ、キラーユースケースが登場する必要があります。
たとえばスマホゲームがいつ立ち上がったかというと、iPhone4sが出た後なんです。最初のiPhoneは2Gで、スペックもまだまだ。App Storeは2008年にiPhone 3Gの発売と同時にでき、通信も3Gになりました。4sくらいで本体のスペックがゲームを動かすのに十分になったわけです。そうしてハードが整った上で、アングリーバードやパズドラなどのキラーコンテンツが生まれたから一気に立ち上がった。
この点、VRゲームはあと少しなんです。もともとヘッドセットや高スペックのPCなど、VRゲームを楽しむのに30万円くらい必要だったのが、オキュラス クエストという399ドル(2019年12月16日時点)のヘッドセットが登場した。あとはパズドラのようなキラーコンテンツが出てくるだけです。
そしてブロックチェーンゲーム、Dappsゲームには課題が3つあると思っていて、それは「イーサリアム買わないと遊べないのはしんどい」「ウォレットは自己管理もしんどい」「スマホ・ネイティブアプリでできないとしんどい」です。
1つ目は、ビットコインやイーサなどを仮想通貨取引所でKYCして口座開設して、イーサを買わないとゲームが楽しめないという時点で詰んでますよね。2つ目は、買った仮想通貨の管理は、自分でしなければいけない。一部の詳しいユーザーならともかく、メタマスク(イーサリアム管理用のウォレットの一種)に入れたりしたくないはずです。最後に、ゲームをPCにしてもスマホにしてもWebブラウザでするのはキツい。やはりゲームはスマホで楽しみたいし、できればネイティブ(アプリ)でできるようにしなければいけないと思います。
──その課題を超えるにはどうしたらいいのでしょうか。
アプローチは2つあります。一つは大穴ですが、携帯のハードメーカーが対応すること。サムスンなどがブロックチェーンに対応した、ウォレット機能が使えるスマホを出していますが、ああいう感じです。Appleが参入してくれれば一番早いんですが、すぐには考えられないでしょう。ありえるとしても時間はかかる。
もう一つは、メッセンジャーアプリがウォレットになること。これはリブラが本命でしたが、遅れているので他のプレイヤーに期待したい。たとえばカカオのクレイトン(Klaytn)、LINEのLINK、テレグラム。テンセントのWeChatが先駆ける可能性もあるのではないでしょうか。スマホで送金できる額を制限するとか、引き出す時や大量に送る時にはKYCをかませれば、ML対策もできます。
やはりスマホでできることが大切です。フィアット(法定通貨)でDappsゲームを楽しんで、仮想通貨・トークンを意識させない。そしてNFTを送る時はメッセンジャーアプリで。そういう世界を作らなきゃいけない。
──VRとDappsを比べると規模にまだ差がありますね。
たしかにブロックチェーンゲームと比べると、VRのほうが3年くらい進んでいる印象です。たとえばVRの大ヒットゲーム「Beat Saber(ビートセイバー)」はダウンロード数150万本突破、年間の売上が50億円でフェイスブックに買収されたほどです。
一方のブロックチェーンゲームは、一番売上が多いマイクリで1万6,000ETHくらい(2億円程度)で、DLも10万いっていない。それくらい差があるんです。グループとしても当面はVRとブロックチェーンゲームそれぞれ取り組みますが、2−3年以内にここは交わってくると思います。
圧倒的に暇になる時代に備え、多様な生き方ができるようにしたい
──業界やグループの方向性についてうかがってきましたが、個人でやりたいこと、成し遂げたいことはありますか?
これから人類は圧倒的に暇になると思うんですよね。産業革命後の数百年、物質的な豊かイコール人生豊かだったわけです。だからとにかく働きまくってきた。しかし今、みんながそこがイコールじゃないことに気づいちゃったわけです。
AIやロボティクス、ブロックチェーンが進化していくと、モノづくりの過程で人間がやってることで、AIやロボにもできないことってほぼないんですよ。作業をブレークダウンしていけば、ほぼ置き換えられる。
モノづくりだけでなく、飲食などの調理や接客もそうだし、弁護士などの士業だって判例のデータベースがあってAIがあればいい。会計士もそうでしょうし、さらにいえば看護師だってそう。家族に看護師がいるので怒られちゃうんだけど(笑)、ご飯あげたり風呂入れたりとか、業務のかなりの割合がロボにさせられると思うんですよ。それでできた時間で患者のおばあちゃんと話したりすればいいし、話し相手だってAI搭載のロボットでもできるかもしれない。
有給の取得が義務化されたり、36協定の例を出したりするまでもなく、労働時間は短くなっていく。週休3〜4日は珍しくないとか、1日3〜4時間しか働かないということになっていきます。
そうやって暇になると、人生の幸せはその暇な時間をどう有意義に過ごすかというところにかかってくる。だからFiNANCiE(フィナンシェ)のような夢を応援するプラットフォームが大事だし、なりたい自分になるVRの空間が必要なんです。おじさんが美少女になるとか、なりたい自分になって、好きな人たちとコミュニティをつくって生きていける。
これまでは一つの外見、コミュニティ、人間関係があって、コミュニティから期待される人格でしか生きられなかったのが、これからは複数の外見やコミュニティで生きていけるようになる。人に生き方の多様性、チョイス(選択肢)を増やしたいと思っています。
──そこで思うのは、「日本人は勤勉で休みを取りなれていないから、暇を持て余してまた仕事してしまうのでは?」ということです。
そうは言っても、歴史をみると決してそんなことないんですよ。江戸時代なんてほとんど働いてなかったし、そもそも武士なんて何もしないのが仕事のようなものでしたから。だから日本人が仕事ばかりして、余暇や暇な時間をうまく使えないなんてことはないんですよ(笑)。
──なるほど。AIやロボティクス、ブロックチェーンなどを活用した分散型の社会が実現していくことで、国のあり方や人々の生活の態様は変わっていくのでしょうね。
分散型の議論でいえば、セントラライズドにしてもディセントラライズドにしても、過度にどちらかに振れるのはよくないと思うんです。過度にセントラライズドされた国家は独裁だし、その逆は無政府状態です。そのどちらも決して国民を幸せにしない。
AIは独裁者や権力の暴走を後押しする側面がある。そういうことを防ぐ仕組みが必要です。ブロックチェーンはディセントラライズドなガバナンスの仕組みをつくるのに向いていると思います。その意味でもブロックチェーンに対して期待を持っています。
取材・構成・撮影:濱田 優