FX(外国為替証拠金取引)の取引システムを多数構築し、LINEグループのLVC、DMM Bitcoinなど国内の仮想通貨取引システムも作ってきたシンプレクスが、2020年に向けて、デジタル証券の発行システムを開発している。
同社金融フロンティア ディビジョン エグゼクティブプリンシパルの三浦和夫氏は、その未来についてブロックチェーン同士の相互運用性の重要性を指摘したほか、「デジタル証券に板取引が適しているのかは考え直す必要がある」とも話すなど、新たな金融のあり方を再定義しようとする姿勢を示した。
三浦氏はデジタル証券の流通市場にどのような課題があると考えているのか。また、ブロックチェーンが実現する未来のファイナンスをどう考えているのだろうか。
規制機関と組んでデジタル証券を推進するアジア各国
──なぜセキュリティ・トークンの発行システムの開発を始めたのですか?
ブロックチェーンを触るようになったのは、もともとFXのシステムを納めていたクライアントの1社が仮想通貨のトレードに参入するので、そのシステムも開発したことがきっかけです。2017年ごろの話です。トレード自体にはブロックチェーンは関係ないのですが、ウォレットも作ることになりブロックチェーンを触るようになりました。
その後、2018年に、アメリカで既存の規制に沿った資金調達であるSTOの事例がいくつかでてきて、当社の既存の事業と親和性が高いことが分かった。それで2018年の秋から2019年の春にかけてセキュリティ・トークンの取り組みを始めました。
──10月に行われたブロックチェーンカンファレンスのb.tokyo(N.Avenue主催)では、海外で一号案件を手掛けると発表されました。海外のSTの状況は?
アジアを主に回って情報収集、交換をしていますが、堅実なプロジェクトが進んでいる印象です。対象は開示書類などが少なく取り組みやすい私募証券が中心ですね。広く公募するのではなく、投資家を限定した上でインターネットで募集をかけています。
一方韓国では、不動産に特化したアセットバックの証券を、公募で行う例もあるようです。金融規制機関と一緒に、サンドボックスのなかでやっています。優良な物件に限るなどの制限はありますが、開示書類を減らすなど低コストで発行する仕組みを作ったそうです。
台湾でもサンドボックスを活用してデジタル証券を発行する動きがあります。シンガポールには、世界中からCMSライセンス(Capital Markets Services、資本市場業務ライセンス)をとって市場を開こうという企業が集まっています。
──日本の状況はどう見ていますか?
個別の企業が取り組みを発表していますが、アジア諸国のように金融庁と事業者が一緒になって、サンドボックスを使って一緒に変えていこうという流れはないようですね。
なかでも注目しているのは、MUFGがやっている「Progmat(プログマ)」です。信託銀行を中心にプログラマブル・マネーが組み込まれる可能性を感じるため、興味深いです。世界でみても資金をブロックチェーンに乗せて、権利との決済をすることまで見すえて取り組んでいるプラットフォームはなかなかないと思います。
企業のデジタル化と、クロスチェーンが大事
──ブロックチェーンを用いた金融が広がる上での課題は何ですか?
日本ではブロックチェーンへの取り組みだけではなく、企業のデジタル・トランスフォーメーションが遅れている。その遅れが致命的になってくる恐れがあると思います。
既存産業がデジタルに変わるときに、一部にブロックチェーンを使ったほうがいい領域があると考えています。ブロックチェーンなどの技術を使って、既存産業の業務をデジタルに乗せることで、効率化させて新しい価値を作ることができる。
そこで必要なのは、既存産業とテクノロジーの企業が一緒に変わっていくことです。既存の業務を知っていないと、どこに課題があるのか分からない。技術の知識がないと、それをどう改善できるのか分かりません。両者が一緒になって、デジタル化を進める必要があると思います。
今はまだブロックチェーンの価値や可能性を感じていない人もいますが、多数の企業が絡みあった業務をデジタル化する際には有用な技術で、デジタル証券を含め様々な活用例が出てきています。デジタル化されるものが限られた状態では限定的な効果しかありませんが、将来的には想像できないような流通性やコスト削減効果が出てくると思います。
重要なのは、取り組めるところから始めていくことです。そして将来的にはインターオペラビリティが重要になってくると考えています。これは相互運用性のことで、ブロックチェーン同士をつなぐ技術が可能にします。
今はそれぞれの取り組みが別々のブロックチェーンに乗せられているわけですが、今後はブロックチェーン同士の相互運用性が高められます。そうしてあらゆるブロックチェーンがつながると、さまざまな権利やお金を自動化して効率的にプログラムで扱えるようになります。
──そのとき、資金調達がどう変わるのか気になります。
企業のデジタル化が進んで、その一部としてブロックチェーンも使われ、自動化・効率化が進むと、資金調達もいままでにないものになるでしょう。
現在の資金調達ではIPO(新規株式上場)などの仕組みがありますが、今後は試みたいプロジェクトをトークンとして発行して、社内外からファイナンスしてもらえる仕組みも出てくるでしょう。クラウドファンディングは、その走りだと思います。今までは集まらなかったプロジェクトでも、資金が集まるようになります。
ブロックチェーンを活用したデジタル証券、セキュリティトークンによって証券化のコストが下がります。キャッシュフローを生むものなら、これまでは証券化できなかったものでも証券の仕組みに乗せられると思います。個人や小さな組織が資金調達をして、より挑戦しやすいフィールドができます。デジタル証券にユーティリティ(使い道)を付与することもできます。マネタイズが難しかった文化的な価値も正しく評価できるようになるでしょう。
もちろん新たな金融には、新たなリスクがあります。議論は多く出てくると思いますが、チャレンジすべき価値のある課題だと考えています。
2020年、まず海外でプライマリーを立ち上げる
──実現するまでには時間がかかると思います。まず目の前のアクションとして何をやりますか?
デジタル証券を発行するプライマリー市場がまだ未熟なので、まずは海外でプライマリー市場を立ち上げていきます。
ただ、その取引をするセカンダリー市場として、どういうものが適しているのかについては答えが出ていません。現在、デジタル証券は私募証券が中心で、将来的には身近な資金調達ができるようになると考えたとき、板取引が適しているのかは、考え直す必要があると思います。むしろ私募のセカンダリー市場は、板取引ではないほうがいいかもしれません。
たとえば板で取引するのではなく、売っている人の顔が見えた形でのマッチングが必要になるかもしれません。売りと買いだけが見える無機質な板よりも、コミュニケーションが発生するプラットフォームが適しているかもしれません。取引するものに応じたセカンダリー市場のあり方を考え直す必要があると思います。
──デジタル証券の将来の見通しと、シンプレクスの方向性を教えてください。
業界の規模はより大きくなっていくと信じています。我々は金融のフロント領域を支えてきましたが、デジタル証券の分野では、金融機関だけではなく事業会社やそのプロジェクトも重要です。商品を組成できる企業とも組んで、新しい金融商品を出していくことになるでしょう。
まずはいくつかやってみるしかないかなと思います。本当のメリットが出るのはまだ先ですが、どんどん新しい金融に向けた取り組みが始まっています。FXや仮想通貨取引の仕組みを作ってきた我々としても、いま取り組んでいないと乗り遅れる。まずは海外のデジタル証券分野で、発行部分のシステムを作りますが、日本でも案件を作りたいですし、その準備を進めているところです。
取材・構成:小西雄志
写真・編集:濱田 優
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