アメリカがイランの司令官を殺害した後にビットコイン価格が高騰したことによって、投資家の間で長く続いている議論が再燃した。つまり、地政学的・経済的な危機が高まった際、ビットコインはゴールドのような安全資産として機能するのか否かという議論だ。
急騰するビットコイン価格
ビットコインは、イランのカセム・ソレイマニ司令官がアメリカのドナルド・トランプ大統領が許可したドローン攻撃によって殺害された後、10%ほど上昇し、1月6日(現地時間)には約7500ドル(約81万円)で取引された。一方、アメリカの株価はこのニュースを受けて値下がりした。投資家の間に2国間の対立は、長引く破壊的な戦争にエスカレートするという懸念が広がったためだ。
一部のアナリストと投資家にとって、今回のビットコイン価格の上昇は、大きな戦争の経済的な結果であるインフレに対するヘッジ手段と受け止められているビットコインの価値を強調するものになった。世界の主要産油国としてのイランの立場を反映して、石油価格は高騰し、アメリカの消費者にとって、ガソリン価格の値上がりの前兆となる可能性もある。
「暴力や戦争はインフレを引き起こす可能性がある。過去には実証されてきた」と仮想通貨市場の分析を行うデジタル・アセット・リサーチ(Digital Asset Research)の共同創業者グレッグ・シポラロ(Greg Cipolaro)氏は述べた。暴力の高まりはビットコイン需要の高まりの前兆となる可能性があるとしながら、シポラロ氏は次のように注意を付け加えた。
「ビットコインがインフレへのヘッジ手段となる範囲において」
伝統的な投資では、トレーダーがリスクの高まりを恐れたり、株式市場が大きく変動する場合に価格が上昇する資産を「安全資産」と呼ぶ。つまり、お金がリスクの高い資産から引き上げられ、ゴールドやアメリカ国債といった、「より安全な」ものへ移され、より信頼できる価値の保存手段として期待される。
ビットコインとゴールドの関係
ビットコイン投資家の間に広がる1つの理論は、ビットコインは価値の保存手段として、ゴールドのような長く、輝かしい実績はないが、マイニングの困難さという重要な特徴は共通しているというもの。新しいビットコインの供給は、11年前の元々のプログラミングコードによって厳格に定められている。
さらに一部のビットコイン支持者は、ビットコインの利用に必要なプライベートなデータアドレス、すなわち「キー」は、理論的には戦時の混乱した世界、あるいは単にハイパーインフレに苦しむ世界において、金塊よりも、はるかに持ち運びしやすいと指摘した。
しかし、仮想通貨に深く関与しているトレーダーの間でさえも、ビットコインは実際に安全資産として取引されるのかという議論は続いている。
仮想通貨と外国為替の取引所に特化しているクオンタム・エコノミクス(Quantum Economics)の創業者マティ・グリーンスパン(Mati Greenspan)氏は、ビットコインとゴールド──大半の投資家からインフレに対する伝統的なヘッジ手段として受け入れられている──の間の相関関係が最近、マイナスからプラスへと転じたことを示す、コインメトリック(CoinMetrics)提供のグラフをクライアントにメールで送信した。
しかし、CoinDeskとのその後のやり取りの中でグリーンスパン氏は、相関関係は「弱く」思えると述べた。
「強い相関関係ではまったくない」とグリーンスパン氏は述べた。コインメトリックスのデータによると、ゴールドとビットコインの相関係数は現在わずか0.15、2018年の5月のマイナス0.04からは上昇している。
イランでは、人々が財産をインフレから守るために現金をビットコインに変えようとしている可能性があるとの憶測がある。イランがグローバル金融から経済的に孤立していけば、そうした事態が起こる可能性はある。
イランの指導者さえも、制裁による圧力の回避手段として仮想通貨の利用を検討している。2019年12月、ハサン・ローハニ大統領は、マレーシアでのスピーチで「米ドルとアメリカの金融体制による支配から自分たちを守るために」イスラム世界は独自の仮想通貨を必要としていると述べた。
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投資会社ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)のCEOで、仮想通貨業界で最も注目される投資家の1人であるマイケル・ノボグラッツ(Michael Novogratz)氏は1月5日、「今回のイラン情勢を分析すればするほど」、ゴールドとビットコインについてはますます強気になるとツイートした。
「中東が不安定になることは、ボラティリティが高まること」とノボグラッツ氏はツイートした。
ビットコインは安全資産なのか?
データ提供企業メッサーリ(Messari)のライアン・セルキス(Ryan Selkis)氏は1月3日、クライアントに宛てたメールで、近代史における最も激しいハイパーインフレのいくつかは、第1次世界大戦、第2次世界大戦、そして冷戦が終わる頃に起きたと指摘した。
しかしセルキス氏は、ビットコインは「リスク資産」であり、「グローバルな経済的かつ規制上の不確実さが高まった場合に」投資家が最初に清算する資産の1つと述べた。
「そうした循環的な痛みは、仮想通貨業界に対する取締りの強化によって悪化する可能性がある」とセルキス氏は述べた。
しかし、すべての仮想通貨観測筋がイランとの緊張の高まりが最近のビットコイン価格の上昇と関係していると考えているわけではない。取引プラットフォーム、eトロ(eToro)のイギリス市場アナリスト、アダム・ベテッセ(Adam Vettese)氏は1月6日、一部の市場観測筋は最近の価格上昇は「ビットコインの安全資産としての地位を支持するもの」と主張するが、価格変動は単に「7000ドルでの支持線からのテクニカルな動き」の可能性もあるとメールで指摘した。
つまり、テクニカル分析という主観的な手法を使って、パターンから価格チャートを精査するトレーダーが決定したように、底値と見られた7000ドルから単に跳ね上がっただけというわけだ。
安全資産という言葉が「ゴールドと同じ意味」になることは「決してない」とベテッセ氏は述べた。
「仮想通貨は一般的に、ハイリスクと考えられている。それゆえ、そうした表現はそれ自体が矛盾している」
最も確実なことは、ビットコイン市場におけるこの議論はすぐには決着がつかないということだ。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Bitcoin as a Safe Haven? US-Iran Tensions Rekindle Debate