「決済に時間もお金もかかる」
「何で裏付けされているのか?」
「アンチ・マネーロンダリングを遵守できるのか?」
「セキュリティに重大な欠陥がある」
「きわめて大きな運用リスクがある」
「安定性に懸念がある」
これらのコメントは現金に対するものだろうか、それとも仮想通貨に対するものだろうか? 明確にはわからない。
現金と仮想通貨の類似性は、不快な真実を表している。特にこの3年間、仮想通貨に対して批判を突きつけてきた多くの関係者が、現金そのものの発行者であり擁護者だったことを考えた時にはなおさらだ。そう、中央銀行だ。
多くの中央銀行の関係者や有力者が集まり、金融の将来について話し合う世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、いわゆる「ダボス会議」の前に、これまでの歩みを振り返る価値はある。特に、過去の遺物である現金の特徴──と、その影響──を忘れてはならない。
以前から考えていたことだが、もし今、現金が発明されたなら、政治家、銀行家、法執行機関は、悲惨で、ばかげており、危険として却下するだろう。規制当局は脱税やテロリストへの資金供与を心配し、中央銀行はマイナス金利を設定するその権限に影響が及ぶことを懸念するだろう。金融システムの中心にいる幹部たちは、こうした時代遅れのシステムを一蹴するだろう。
「これで、どうしろというのだ?」「スーツケースに入れて持ち運ぶのか?」と。
にもかかわらず、過去100年間、物理的な現金は国際金融システムの中心だった。時代の先を行く経済学者ケネス・ロゴフ(Ken Rogoff)氏は、2014年に著した『The Costs and Benefits to Phasing Out Paper Currency』の中に、米連邦準備銀行のM2(現金通貨+預金通貨+準通貨+CD[譲渡性預金])の約10%は紙幣で保管されていると記した。明らかにこれは多くの問題を抱えているものの、現金の需要は依然として高い。
これは少しも不思議なことではない。物理的な現金は(つい最近まで)デジタル通貨が決して提供できなかった数多くの素晴らしいメリットを提供してきた。現金は預金口座よりも銀行や政府による差し押さえを免れやすい。現金は地下経済にプライバシーの隠れみのを提供する。そしておそらく最も重要なことは、現金は銀行口座を持っていない人に対して、お金を貯め、決済する能力を与えている。こうした能力が紙幣に対する需要の重要な基盤となっている。
紙幣は今も重要だが、世界は別の方向に動いている。アリペイ(AliPay)やゼル(Zelle)といったデジタル決済システムは、現金に取って代わろうとしている。こうした変化は、世界中の政策立案者、政治家、専門家が、次世代の通貨として中央銀行デジタル通貨(CBDC)や企業が発行する通貨を検討する動きを加速させた。スウェーデン国立銀行(Riksbank)は現金利用の減少に直面し、「e-クローナ(e-Krona)」に取り組んでいる。フェイスブックのリブラは、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏自身によって中国のデジタル人民元への直接的な答えと定義されている。リブラもデジタル人民元も実在し、具体化しつつある。
しかし、情報や概念実証(PoC)が溢れる中で、政策立案者はおそらくデジタル通貨の最も重要な実験であるビットコインが、目に見える形で10年以上も運用されていることを忘れてはならない。2019年は中央銀行デジタル通貨や企業が発行する通貨が世の中の注目を集めた。だが仮想通貨は多くの場合、脚注に格下げされ、使い物にならず、支持できず、そして非倫理的でさえあるとして退けられた。
しかし仮想通貨は長い間、国際金融システムの中心を担ってきたものと多くの共通点を持っている。「現金」だ。仮想通貨の重要性と意味──現地および国際的な政策決定、プライバシーの問題、市民の自由の保護──は軽視すべきではなく、ダボスに集まる人々の議論の中心とすべきだ。
翻訳:石田麻衣子
編集:増田隆幸
写真:Davos 2019 image via Aaron Stanley for CoinDesk
原文:Ahead of Davos, What Can Cash Teach Us About Crypto?