事業用不動産の世界大手CBREが、2030年の不動産市場を予測した特別レポート「人・テクノロジー・環境が変える不動産の未来」を発表。「人」、「環境」、「テクノロジー」の3つのキーワードで、今後10年間で起こりうる不動産市場の変化について考察した。特に注目の高まっているESGについても言及した。
同社はまたこの特別レポートに先立ち、2021年までの国内の不動産市場の予測として「不動産マーケットアウトルック2020」も発表。こちらではオフィス、リテール、物流施設、不動産投資の各項目について19年を振り返ったうえで、20年の見通しを示した。
ESGと不動産の関係──特別レポート「人・テクノロジー・環境が変える不動産の未来」
特別レポートでは、オフィスや物流施設、リテール、ホテル、データセンター、不動産投資市場全般の各項目について、現状の分析や将来の見通しを示している。たとえばオフィスについては、これまではオフィスに従業員が合わせていたが、これからはオフィスを従業員に合わせることが主流になるとの推測などを示した。
本レポートで注目したいポイントはESG投資、ESG不動産についての将来像についても言及されていることだ。ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の略。ESG不動産とは、環境性、快適性、健康性に優れたグリーンビルディングを含むオフィスビルのこと。またESG投資とは、重要な指標・データとして財務情報だけでなくESGの要素も考慮したうえで投資することだ。
本レポートは、ESGに対応したESG不動産の価値について、国土交通省が2019年に行ったアンケートを紹介。ESGへの配慮によって不動産の価値は「高まる」、または「今後は高まる」という回答がテナントで約7割、ビルオーナーで約8割にのぼったと述べた(図参照)。またESG不動産への入居にあたり、家賃のプレミアムはテナント、オーナーともに「4%~6%」が最も多く、回答者全体の7%が「10%超」と回答したことにも言及。環境対応が収益向上にもつながるという分析を披露した。
ESGについては投資の視点からも分析。本レポートによれば、 2018年の世界全体のESG投資額は30兆ドルで、2年間で34%増加している(GSIR、Global Sustainable Investment Allianceの統計による)。このうち日本は2兆ドルと額は小さいが、同期間で4.5倍に拡大するほど急に注目度が高まっている。
レポートは、 ESGへ配慮した資金調達(グリーンボンド、グリーンローン)が拡大していると指摘。日本で発行されたグリーンボンドは2014年以降の累計で97億ドル、2018年発行額は41億ドルで対前年比 22%増加したと紹介(Climate Bonds Initiativeが発表)。J-REITについては、初めてグリーンボンドが発行された2018年5月以降、2019年末までに18銘柄1,356億円が発行されたことも紹介した。
その上で、「今後投資市場では、LEDなどの環境性能認証を取得したグリーンビルなど環境配慮型の物件は、そうでない物件に比べて高く評価されるようになるだろう」との予測を示した。
データセンターについても「持続可能な開発・運用を行うデータセンターは、他のアセットクラスと比較してもESG投資に適した投資対象となりうる」と指摘。その理由として、データセンターは省エネ効果が高く、気候変動に対する取り組みにおいて寄与度が高いことを挙げた。
またデータセンターは、短期での閉鎖、移転がほとんどないことから、中長期の安定した稼動による収益が見込めるとし、「今後想定されるデータ社会の到来とともに社会基盤としてますます重要度を高めていくことが予想される」とも述べている。
19年回顧、20年の市場はどうなる?──「不動産マーケットアウトルック2020」
この特別レポートに先立って発表された「不動産マーケットアウトルック2020」は、19年の市場について振り返ったうえで、2021年までの国内の不動産市場の予測している。
この中で、「オフィス」については「東京以外の全都市で今後も賃料は上昇」、「リテール」では、銀座エリアの中で繁華性が特に高い通り(銀座ハイストリート)でインバウンド需要の取り込みに成功した業種を中心に出店ニーズが旺盛であること、「物流」では3大都市圏で需給バランスがひっ迫した状況が続くことを示唆した。さらに「投資」について、機関投資家を中心に投資意欲も高く、2020年の国内投資総額は前年比で2%増える見込みであることを明らかにした。
オフィスマーケット──2019年は東京以外でも空室率がさらに低下
まず「オフィス」市場については、2019年を「東京を含むほぼ全都市で空室率はさらに低下」と指摘。年末時点で空室率が1%を下回る見込みの都市は、調査対象13都市のうち8都市と過去最多になったという。賃料は東京以外の全都市で上昇。理由として、多くの企業がオフィス環境の改善に取り組んでいること、ビルの老朽化にともなう立ち退き・不動産価格の上昇から自社ビルを売却して賃貸に移転する事例が増えたこと、さらに東京ではコワーキングスペースが増えていることなどを挙げた。
今後については、「企業マインドは回復しつつあり、東京も含めてオフィス市場の需給は当面タイトな状況が続く」と予想。賃料については、東京グレードA(千代田区や中央区などの都心5区で、延床面積3万平方メートル以上、地上20階以上などの条件を満たした大規模ビル)について、「日本経済のスローダウンと供給の増加を背景に、2020年なかばから上値が重くなると考えられるものの、2021年に入って再び持ち直す」と予想している。
リテール──2020年の賃料は弱含むが向こう2年で1.4%上昇と予想
「リテール」の賃貸市場について、2019年はインバウンド需要の取り込みに成功したリテーラーを中心に出店ニーズが旺盛だったと回顧。銀座ハイストリート(銀座エリアの中で同社が独自に設定した、繁華性が特に高い通り)の賃料については、2017年第3四半期を底に、19年同期は1.6%上昇して25.8万円/坪となったと指摘。今後について、「賃料は2020年は弱含むとみられるものの、向こう2年間では1.4%の上昇」と予想した。
物流施設──首都圏の大型施設の賃料、伸び率はゆるやかになるが2021年4Qまで2.1%上昇へ
「物流」の施設については、2019年の大型マルチテナント型物流施設(LMT)の新規需要は18年を40%ほど上回り、過去最高を記録する見込みと指摘。首都圏のLMTの実質賃料は、2019年第4四半期が4,250円/坪(対前年同期比+2.4%)となる見込みとしたうえで、「2021年同期までにさらに2.1%の上昇」と予想した。
上昇ペースがゆるやかになる理由として、「2%前後という記録的な低水準となった空室率がさらに大きく低下することは考えにくい」「2021年には過去最高規模の新規供給が控えている」ことを挙げた。
投資──19年の10億円以上の大型取引は前年比6.5%増、20年の伸びは2%程度に
「投資」については、10億円以上の取引が2019年の第1〜第3四半期累計で2.4兆円、対前年同期比6.5%増えた。件数は前年を下回ったものの、大型取引の増加が投資総額の拡大につながったと分析した。アセットタイプでは商業施設、ホテル、物流施設が好調、不動産へのアロケーションを増やしつつある機関投資家の資金が大きく伸びたとも述べている。
2019年通年の総投資額は、前年に比べて7%程度上回る見通しで、20年の投資額は「2019年に比べて2%程度の増加にとどまる」との予想を示した。
文・編集:濱田 優
写真:Thampapon / Shutterstock.com