原油戦争が勃発するなか、エネルギー専門家がビットコインに注目する理由

世界のエネルギー市場はビットコインの未来に影響を与える可能性がある。だが厳密には需要と供給という観点からではない。

ロシアとサウジアラビアの対立

表面的には、現在の原油市場の混乱はロシアとサウジアラビアの権力争いに見えるだろう。

両国は景気低迷に合わせて減産して価格を上げる、あるいは、維持コストをカバーできないようにすることで米シェール市場を葬り去るために価格を下げるという異なる見解を持っている。

「通常、原油が安い時はドルは強い。しかし今回の危機ではそれが見られない。コロナウイルスのためだ」とMEESエネルギー・ニュースレターのマネージング・ディレクター、ファディ・アブアルファ(Fadi Aboualfa)氏は述べた。

イランが制裁を回避するために仮想通貨を利用して、コモディティあるいは原油市場に関連する取引を伴うかもしれないという噂もあった。これまでのところ、ロシア、中国、そしてイランは、仮想通貨を最も積極的に研究している国と考えられている。

原油生産量が世界トップクラスであるにもかかわらず、ロシアは歴史的に石油輸出国機構(OPEC)に加盟していない。OPECはサウジアラビアが主導的立場を握っている。

「大手仮想通貨マイニングプールは、制裁を理由にイランのマイナーを拒否している」とロシアのマイニングプールEMCD.IOのミカエル・ジェリス(Mikhael Jerlis)CEOは述べた。

「我々は制裁など気にしない。もし我々が制裁対象になれば、会社を閉鎖して、新しい会社を立ち上げるだけだ」

ここ3年にわたって、サウジアラビアの原油供給ルートはますます攻撃にさらされている。イランが支援する反政府勢力フーシ派がイエメンの戦略地域の大半を支配下に置いたことで、イエメン周辺の輸送ルートに対するサウジアラビアの影響力は衰え始めた。

原油市場が変動するなか、仮想通貨に精通した中国、ロシア、イランがアメリカの制裁、およびサウジアラビアのようなアメリカの同盟国にますます苛立ちを感じていても不思議ではない。

「ドルは弱くなっている。主には中国がかなり大量にドルを売っているためだ。(中略)人民元を多かれ少なかれ安定させることが目的だ」とエコノミストのダニエル・ラカール(Daniel Lacalle)氏は述べた。

原油市場とビットコイン

エネルギー市場で米ドルの代わりにビットコインを使うことの見通しについては、銀行業務に関する制裁以外にも多くの要因が存在する。

エネルギー市場に比べて、ビットコインはおそらく世界経済の動向に最も相関関係のない資産だろう。

一方、市場の状況はビットコインに関連したコンプライアンスリスクを複雑にするかもしれない。

「(ゴールドとドルは)逆相関関係にあると言えるだろう」とアブアルファ氏は述べた。

「このことは、ビットコインを価値の保存手段となる資産クラスと考えた場合、ビットコインはどのような影響を受けるかの指針となるだろう」

しかし、ほとんどのOPEC加盟国はビットコインを価値の保存手段ではなく、「制裁における駆け引き」として見ているとアブアルファ氏は付け加えた。

最も相関関係のない資産クラス、そして制裁をめぐる争いの政治的手段として、仮想通貨が将来の市場でどのような役割を担うかはまだわからない。

決済ネットワーク自体ではなく、重要な取引の具体的な担い手についてのコンプライアンスに関連する疑問が生まれるかもしれない。

一方、サウジアラビアの匿名のビットコイントレーダーの観点からは、この対立におけるアメリカ‐サウジアラビア連合は国際貿易のツールとしての仮想通貨を無視しているように思える。

「ほとんど誰も仮想通貨について語っていない」と匿名のトレーダーは最近のサウジアラビアについて語った。

原油市場における競争について、トレーダーは次のように付け加えた。

「皆が影響を見極めるために立ち止まっている。(中略)誰が一番長く息を止めることができるかという感じだ」

一方、エネルギー専門家は、現勢力は原油市場における米ドルの支配的役割に無関心だが、他の人たちは変化させようとする可能性があると述べた。

「中国とロシアはすでに原油市場におけるドル支配から距離を置こうとしている」とアブアルファ氏は述べた。

「しかしアメリカ(海軍)はイラン原油を輸入しようとする船を止めることもできる。通貨だけの問題ではない」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Why Energy Experts Are Watching Crypto as Oil Wars Emerge
執筆協力:Anna Baydakova