「技術などのシステム面は障害ではなくなった。あとはどういう座組でスキームを作って、発行していくかというフェーズに入ってきた」──。
改ざんが不可能と言われるブロックチェーンを利用して、デジタル化した有価証券で資金を調達するSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)。三菱UFJフィナンシャル・グループや野村證券、みずほフィナンシャルグループが、これに関連した基盤開発を進めるなか、不動産情報サイト大手のLIFULLは4月14日、不動産においても実用化に向けて近づきつつあるとの認識を示した。
不動産市場、証券化はわずか2%
ライフル・ブロックチェーン推進グループの松坂維大氏は、オンラインで開かれた日本ブロックチェーン協会(JBA)の定例会に出席し、 不動産の市場規模は2500兆円を超えるが、J-Reitなどの証券化された不動産はそのうちの2%にとどまっていると指摘。背景に比較的に高い組成運用コストがあり、証券化の対象は規模が大きい物件に限られてきたと、述べる。
そこで今年3月に発表したライフルの実証実験では、これまでは証券化のコストに見合わなかった、より小さなファンドの証券化を実験した。ブロックチェーンを活用してコストを抑えることで、空き家などの小規模な不動産でもファンドを組成できるようになる。実現すれば、少子高齢化で深刻化する空き家問題の解決につながるという。
実験の内容は、特別目的会社(SPC)が物件を小口トークン化し、投資家に売り出すというもの。ブロックチェーンを用いることで、配当や償還、二次流通を自動化できる。トークンは物件などの利用券としても使えるようにする。
実証実験の結果として、スマートコントラクト(契約の自動化)や、GMOあおぞら銀行APIを組み合わせることで、これまで必要だった業務を減らすことが確認できたと、松坂氏は説明する。さらに、資金の流れをイーサリアム・ブロックチェーン上に記録することで、ファンド運用の透明性が向上できるとした。
一方で課題については、必要だった業務を減らせるとしても、実際には業務の体制整備などで「当局と話していく必要がある」と述べた。ファンドの監査でも、(ブロックチェーンの)コントラクト監査で代替できるのかなどの点を指摘。
改正法でデジタル証券はどうなるか
デジタル証券では、2019年5月に成立した金融商品取引法(金商法)の改正により、証券化コストはそれほど下がらないという見方が聞かれる。たとえば「電子的移転権利」の適用除外として、個人なら1億円以上の資産をもつ条件が加わったことで、50人以上に公募する際には厳しい開示規制が課されることになる。
松坂氏は「(実験の枠組みは)1年ほど前に考えたもの。第二種(金融商品取引業者)のクラウドファンディングとして想定していた」と話し、金商法や内閣府令の改正でハードルがあがったとの認識を示した。法的な整理は今後詰めていくとしながら、デジタル証券の取り組みをさらに進めていくと話した。
第二種金融商品取引業者とは: 信託の受益権やファンド持ち分など、流動性の少ない「二項有価証券」を取り扱う業者のこと。不動産クラウドファンディングは二種で扱われる。一方、株式や債券などの一項有価証券を扱う業者は、第一種金融商品取引業者で、二種より厳しい規制に服する。
実験のシステムは、ブロックチェーン企業のビルドが構築した。ビルドは2019年末、デジタル証券プラットフォームを運営する米セキュリタイズに買収され、20年4月にセキュリタイズ・ジャパンに改称した。同社テックコンサルタントの森田悟史氏も14日、ライフルとともに講演し、今後はセキュリタイズのプラットフォームを利用してデジタル証券事業を推進していくと話した。
文:小西雄志
編集:佐藤茂
写真:ライフルのウエブサイトより