オフィス家具や建材内装設備を製造販売するイトーキが、当初ゲーム用チェアとして開発したイスの増産を進めている。新型コロナウイルスの感染拡大が、予期せぬ在宅勤務向けチェアの需要を押し上げ、その疲れにくい形状からインターネットで注文する客の数が急増しているという。
イトーキは、昨年7月にネット販売を始めたイスの生産を、当初の計画から数倍に増加させる体制を整備。このイスは一脚39900円(税込み)で、コンピューターゲームやビデオゲーム向けチェアとして開発されたもの。
オフィス家具の販売量は例年、年度末の3月下旬にピークを迎えるが、今年は3月中旬頃からピーク時の3倍~4倍のペースで注文が殺到していると、イトーキでECマーケティングのチームリーダーを務める庄司善博氏は話す。問い合わせ件数は4月に入ると、さらに増加傾向にあるという。
在庫積み増し、配送に遅れなく
イトーキは、同ゲーミングチェア「X FOCUS(クロスフォーカス)」を海外工場で生産しているが、大阪府と埼玉県にある倉庫の在庫を積み増し、注文から配送までをタイムリーに行う体制を強化している。
多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるなかで、情報通信技術を使って、場所の制約を受けない「テレワーク」という働き方はここ数年で広がってきた。また、ゲームで長時間座っていても疲れないイスのニーズは、高まり続けている。
「(イトーキが)蓄積してきた、疲れにくいイスを作るためのノウハウを活用しながら、自宅の生活空間に馴染むデザインを意識しました」と語るのは、X FOCUSのデザインを担当した平社直己氏。
女性に好まれるデザイン
ゲームを楽しむユーザーが、上半身を寝かせた態勢でモニターを見えるようにと、 X FOCUSの背もたれは、従来のイスよりも低く倒せるように設計されている。「自宅で働く人であれば、X FOCUSのリクライニングを倒して、束の間の仮眠をとっても良いのではないでしょうか」と平社氏。
イトーキは、より女性に好まれる商品開発も強化しており、早ければ5月にも配色を変えたタイプのX FOCUSの販売を開始する。
新型コロナウイルスの感染拡大で、安倍晋三首相は4月8日、東京、大阪など7都府県に緊急事態宣言を発令。16日には、その対象地域を全都道府県に拡大した。在宅勤務者の数は今後、さらに増加が予想される。
ダイニングテーブルのチェアに毎日長時間座り続けるテレワーカーが、疲れにくいイスを買い求める動きもしばらくは続きそうだ。
取材・文:佐藤茂
写真:多田圭佑