ステーブルコインの発行は、ビットコインや他の暗号資産(仮想通貨)の価格を押し上げることはない。カリフォルニア大学バークレー校のハース・ブロックチェーン・イニシアチブ(Haas Blockchain Initiative)が出資した研究が明らかにした。
ステーブルコインは価値の保存手段
4月17日に発表されたレポートで、カリフォルニア大学バークレー校チーフ・イノベーション&アントレプレナーシップ・オフィサーのリチャード・リヨンズ(Richard Lyons)氏とウォーリック・ビジネス・スクール(Warwick Business School)のガネッシュ・ヴィスワナート-ナトラジ(Ganesh Viswanath-Natraj)准教授は、ステーブルコインは投資家が市場の動きに反応するためのツールであり、暗号資産(仮想通貨)価格の上昇や下落の要因ではないことを明らかにした。
2人の取引データの分析によると、リスクや価格下落の期間でも、ステーブルコインの動きと、価値の保存としての投資家によるステーブルコイン利用は一致していた。
リヨンズ氏とヴィスワナート-ナトラジ氏はまた、ステーブルコインの発行から流通市場までの動きを刺激する別の要因の「強力な証拠」を発見した。すなわち、ステーブルコインがその裏付け通貨から乖離した時の裁定取引(価格差を利用した取引)だ。
相反する研究も存在
ステーブルコインの発行が暗号資産の価格に大きな影響を与えるかどうかは、議論になっている。
2018年7月、テキサス大学オースティン校のジョン・グリフィンズ(John Griffins)氏とオハイオ州立大学のアミン・シャムズ(Amin Shams)氏が発表した研究は、ステーブルコインの発行は「その後の時限的な市場低迷を招き、結果的にビットコイン価格の大幅に上昇につながる」と結論づけた。
研究はさらに、2017年のステーブルコインの動きとその後の価格インフレは、単一組織に起因すると主張した。
グリフィンズ氏とシャムズ氏の研究発表から4カ月後、米司法省は、大手ステーブルコイン発行企業テザー(Tether)とその姉妹企業ビットフィネックス(Bitfinex)は、ビットコイン価格をつり上げるためにステーブルコインを発行したのかどうかについて捜査を開始した。
関連した集団訴訟が2019年後半、2社に対して提起された。
原告は、テザーとビットフィネックスは「ビットコイン市場を独占するために共謀」し、なかでもステーブルコイン発行によって市場を操作したと申し立てた。
数年前には「Bitfinex’d」という匿名ブログが、一連の詳細な投稿で2社に対して同様の主張を行った。
リヨンズ氏とヴィスワナート-ナトラジ氏は、直接的にグリフィンズ氏とシャムズ氏を否定し、次のように述べた。
「ステーブルコインの発行が暗号資産の価格に影響を与える体系的な証拠はない。むしろ、我々の証拠は別の見解を支持している。つまり、ステーブルコインの発行は、流通市場における裏付け資産からの乖離に内因的に反応する。そして、ステーブルコインはデジタルエコノミーにおいて、一貫して安全資産としての役割を果たしている」
CoinMetricsのデータによると、ステーブルコインの総供給量は記事執筆時点で90億ドル(約9700億円)を超えている。2017年第4四半期にビットコインが最高値に達した時、ステーブルコインの総供給量は、12億5000万ドル(約1350億円)強にすぎなかった。
翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Stablecoins Aren’t Inflating Crypto Market, Study Concludes