ICT を活用して交通をクラウド化し、すべての交通手段によるモビリティ(移動)を統合して提供する次世代移動サービスMaaS(Mobility as a Service)の分野で、ブロックチェーン活用が進んでいる。
ソニーは4月23日、ブロックチェーン技術を活用した共通データベース基盤(ブロックチェーン・コモン・データベース、BCDB)を開発したことを発表した。
これに先立つ3月には、トヨタ自動車が、車と利用者をブロックチェーンでつなぐ実証実験を実施したことを発表している。ソニー、トヨタという日本を代表する企業が本格的に乗り出したことから、MaaS分野でのブロックチェーンを活用しようという機運が一気に高まりそうだ。
MaaSとはあらゆる交通手段が統合された次世代サービス
MaaSとは、電車やバス、タクシー、カーシェアリング、レンタル自転車などあらゆる交通手段を、ITやクラウドを活用してつなげ、ニーズにあった移動サービスに統合すること。
利用者は、希望する目的地への最適な経路、推奨する交通機関とサービスの組み合わせ、所要時間、料金などが提示され、さらに予約から決済まで、スマホを通じて提供されることが多い。
ソニー開発のBCDBの特長は? オランダで実証実験も実施
ソニーによると、開発したBCDBの特長は、データの高速処理。1日700万件以上の(利用者が匿名化された)移動履歴と収益配分の記録、共有ができるという。
発表でソニーは、オランダ・インフラ水管理省が2019年に公募したMaaSのプログラム(ブロックチェーン・チャンレンジ・プログラム)に参画、2020年3月末までBCDBによる実証試験を行ったことも公表。プログラム参加者の中で同省の要求仕様に対応できたものは、ソニーのBCDBのみだったという。
ソニーは「BCDBにより、MaaSに関わる様々な交通事業者間でブロックチェーンの分散台帳に情報を記録、共有することで信頼性と透明性を持った情報の活用とサービスへの展開が可能」になったとコメント。さらに「BCDBはMaaS向けに限らず、スマートシティ構想における各種センサデータの記録、共有などへの応用も期待」できるとしている。
トヨタが発表したMaaSでの取り組み
トヨタ自動車が子会社を通じて、車と利用者をブロックチェーンでつなぐ実証実験を実施したと発表したのは3月16日のことだ。トヨタフィナンシャルサービスが2019年11月、ブロックチェーン企業と共同で、車両IDと個人IDをひもづけた実証実験を行ったという。個人IDで、個人情報や所有権の管理を行い、車両IDと連携して自動的に認証や契約の締結を可能にするシステムを実装している。
トヨタは2019年4月に、トヨタファイナンシャルサービス、 トヨタファイナンス、トヨタシステムズ、 デンソーなど計6社でトヨタ・ブロックチェーン・ラボを設立。ブロックチェーン同技術の研究を進めてきた。
同日に開いた記者発表会では、2020年度中に新たな実証実験を計画していることを明らかにしている。具体的な内容は発表されなかったが、担当者は具体的なブロックチェーンの活用例として、スマホ決済アプリ「トヨタウォレット」や、交通アプリ「マイルート」との連携などを示唆したという。
MaaSに向いた少額決済やサプライチェーンの効率化、中古車の販売・管理など、自動車業界でブロックチェーンの活用を模索する動きはこれからも続きそうだ。
MaaS以外でもブロックチェーン応用を進めるソニー
今回、データベース基盤を開発したと発表ソニーだが、MaaSの分野以外でもブロックチェーンを活用するための研究・開発に力を注いでいる。
たとえば教育分野では、ソニーとソニー・グローバルエデュケーションが教育データの認証・共有・権限管理システムを開発。エンターテインメント分野では、この2社とソニー・ミュージックエンタテインメントが、ブロックチェーン基盤を活用したデジタルコンテンツの権利情報処理システムを開発。
さらにはソニーコンピュータサイエンス研究所がICカードを利用した仮想通貨ハードウェアウォレット技術を開発している。
ソニーは「今後もブロックチェーン技術のさらなる普及を目指して、様々な領域における応用の探索を推進していく」などとしている。
文:濱田 優
画像:anucha sirivisansuwan / Shutterstock.com