イーサリアム価格は、ステーブルコインの需要急増に後押しされているようだ。
年初から50%以上上昇
新型コロナウイルス危機は、デジタル資産と伝統的市場の双方の投資家を米ドルへと走らせている。米ドルは、デフレ不況時に資金を保管しておくために最良の資産の1つと見なされている。
これは伝統的市場では、株式、ジャンク債、発展途上国の通貨といったリスクの高い資産を売却し、その収益を現金で置いておくことを意味する。
デジタル資産市場では、テザーなどのドル連動ステーブルコインの需要が急増、その多くはイーサリアム・ブロックチェーン上に作られている。テザー(USDT)を筆頭にステーブルコインの残高は、3月上旬の60億ドル未満から、今月は90億ドル近くまで急増した。
一部の暗号資産(仮想通貨)アナリストは、ステーブルコインの需要急増は、他のトークン向けのものも含め、イーサリアム・ブロックチェーン上での取引を処理するための「ガス」として知られる手数料の支払いに使われるイーサリアム価格を吊り上げるかどうかを考え始めている。
時価総額第2位の暗号資産であるイーサリアム価格は、2020年、現時点までに53%上昇し、約195ドルとなっている。一方、ビットコインの年初以来の上昇は、8%だ。
デジタルオイル
暗号資産データ企業メッサーリ(Messari)のリサーチアナリスト、ライアン・ワトキンス(Ryan Watkins)氏は先週、イーサリアム・ブロックチェーンをテザーが使っていることは「イーサリアムにとってプラスであるはず」とレポートに記した。
「イーサリアム・エコノミーに時間を費やしているなら、分散型でプログラム可能なお金の可能性を無視することは難しい。このことがイーサリアムに有利に働くことになる」とワトキンス氏は述べた。
イーサリアムは、ビットコインの「デジタルゴールド」に対して、ときに「デジタルオイル」と形容される。新しいデジタルトークンの発行の容易さや、「スマートコントラクト」を実現できることで知られるイーサリアム・ブロックチェーンのネイティブ通貨だ。
ここ数年、イーサリアムは大きな注目を集めている「DeFi(分散型金融)」の舞台としてトップのエコシステムとなり、スタートアップ企業や開発者のチームが、いずれは銀行を脅かすかもしれない、自動化された貸付・取引プロトコルを開発している。
ステーブルコインは潜在的脅威か
だが、イーサリアムは価値を評価することが難しいことで知られている。トレーダーは価格チャートのパターンから需要供給予測、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法による分析まで、あらゆるものに頼っている。
2020年1月、あるブロックチェーンコンサルタントは、アルゼンチンのマネーサプライの半分がペソから、イーサリアムをベースにしたドル連動分散型ステーブルコインのダイ(Dai)に移行したら、イーサリアム価格は1万ドルまで高騰するかもしれないと予測した。
「ファンダメンタルズがこれらのトークンを動かしている段階ではないと考えている」と暗号資産ヘッジファンド 、ディジコ・キャピタル(Digico Capital)の共同創業者ゲイリー・ジグモンド(Gary Zigmond)氏は述べた。
「我々はまだ、すべてが未来にあるストーリーの段階にある」
メッサーリのワトキンス氏は、ステーブルコインの台頭はイーサリアムにとって、長期的な脅威となるかもしれないと述べた。なぜなら「交換手段」としての潜在的ユースケースを奪う可能性があるからだ。
「このシナリオでは、暗号資産イーサリアムはイーサリアム・ブロックチェーンにとって、初期ブランディングになるだろう。イーサリアム・ブロックチェーンにとってのコモディティのような潤滑油というものだ。イーサリアムは依然として、多くのコモディティのように価値を持つが、お金として価値を評価されることはなくなる」
しかし今年、価格パフォーマンスでは、はるかにビットコインを上回っており、おそらくイーサリアム強気派は評価指標をあまり気にしていないだろう。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:CoinDesk
原文:First Mover: Ether Trounces Bitcoin as Network Sees Surge in Stablecoins