暗号資産(仮想通貨)トレーディング企業で機関投資家への貸付も行うジェネシス(Genesis)は、3月12日にビットコイン価格が急落した際、顧客の需要に応えるためにスタッフが奮闘した舞台裏を明らかにした。
感染拡大もまだ油断
4月30日に発表された最新の四半期貸付レポートにあるように、ビットコインが7年間で最大の下げ幅となった39%の下落を記録した3月12日にドラマのピークは訪れた。
暗号資産(仮想通貨)貸付業者や先物取引所は、貸付やデリバティブ契約に対して追加担保をトレーダーに求めるマージンコールを相次いで行い、損失から身を守るために奔走した。
マージンコール:追い証とも呼ばれる。取引で差し入れている委託証拠金総額が、相場変動などで必要額より不足する場合、証拠金を追加しなければならない。
「24時間で、3〜4回連絡を受けた取引相手も存在する。価格は下落を続け、1時間後には再びマージンコールを行わなければならないような状態だった」とジェネシスのマイケル・モロ(Michael Moro)CEOはインタビューで語った。
ジェネシスは、CoinDeskの親会社デジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group)が保有している。
レポートによると、第1四半期にジェネシスは貸付残高を19%増やし、6億4900万ドルへと増加させた。だが、かなりの変動があった。貸付残高は年初には5億4500万ドル、2月中旬にはほぼ2倍の10億ドルとなり、その後3月には急速に減少した。
3月はじめ、デジタル資産、そして株式や債権など伝統的なウォール街のトレーダーの双方は、新型コロナウイルスによる死者数と経済的打撃の深刻さを理解し始めたところだった。
「株式市場がどれほど悪化するのか我々はわかっていなかった」とモロCEOは語った。
「急落と変動がどれほど長く続くのか我々はわかっていなかった」
ブラック・サーズデー
「ブラック・サーズデー」と暗号資産トレーダーの間で呼ばれるようになった3月12日はスタートからかなり不吉だった。ビットコインは7900ドル付近で取引を開始した。2月の1万ドル付近の高値からは下落していたが、それでも2019年末の約7170ドルをかなり上回っていた。
モロCEOはマンハッタンの中心街にあるニューヨーク本社を出て、超富裕層向けの資産管理会社でのプレゼンテーションに向かった。彼がプレゼンテーションを始めると会議参加者たちはスマートフォンに目をやり始め、ビットコイン価格をチェックし、モロCEOに最新情報を伝え続けた。
彼らはビットコイン価格が下落している理由を知りたがった。下落は普通ではなかった。まず7000ドルを割り、そこから6000ドル、そして5000ドルまで下落した。
「プレゼンを終え、質問に答えていた。だが、ある時点で皆がスマホのビットコイン価格に釘付けになっていた」
彼が急いでオフィスに戻ると、スタッフは大量のマージンコールに大忙しだった。
同社の顧客は機関投資家が大半を占めており、ローンに必要な担保を入れることができ、取引ポジションの強制的な清算を防ぐことができた、とモロCEOは語った。
トラフィックも混雑
しかし不安は高まった。顧客が送った追加担保は、通常よりも到着にはるかに時間がかかっていた。モロCEOによると、ビットコインネットワークはその日、多くのトラフィックによって非常に混雑しており、担保の差し入れが溜まってしまっていた。
「通常なら10分のトランザクションに数時間かかっていた」
ジェネシスのスタッフはまた、取引顧客の急速に変化する資金ニーズにも急ぎ対応していた。
日々の市場価格に対して、通常は割増し価格で取引されるビットコイン先物が突然、割安になった。トレーダーは素早く戦略を調整し、ジェネシスは突然、ドル建てのローンを返済し、ビットコイン建ての新たなローンを求める大量の顧客に対処することになった。
「ありがたいことに我々は損失を出さなかった」とモロCEOは述べた。
「ただ本当に忙しく、ストレスの多い日だった」
ジェネシスの大半のスタッフにとって、オフィスでの最後の日となった。翌日の3月13日、同社はリモートワークに移行した。
ジェネシスはまた、3月12日以降、貸付ポリシーを引き締め、完全に担保されていない場合、最低1週間は新規ローンを停止したとモロCEOは語った。
「ジェネシスのバランスシートにリスクをもたらすようなことを行いたくなかっただけ」とモロCEOは説明した。
「市場が落ち着いたと感じた後、我々は商談を再開し、ローン組成マシーンを再始動させた」
暗号資産市場ではボラティリティは当たり前のこと。ただ、いつもとは違っていた。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Genesis CEO Michael Moro. (Credit: CoinDesk archives)
原文:Genesis CEO Details ‘Black Thursday’ Chaos in Q1 Lending Report